こんにちは。ハイファイ堂レコード店の山本です。メルマガを書くのもこれで4回目位になります。何を書けばいいのやらと今回非常に悩みました。しかし結局自分の好きな音楽のことしか書けないなと思い、今回も個人的に思い入れのあるミュージシャンについて書こうかと思います。 |
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さて本題に入りますが、私はニューオリンズのトラディショナル・ジャズが好きでそこからニューオリンズ音楽にハマり、ブラス・バンド、R&B、セカンドライン・ファンクとのめり込んで聴いていた時期がありました。ちょうど今は11月、ニューオリンズ音楽の巨人アラン・トゥーサンが亡くなって1年が経ちました。今回はアラン・トゥーサンを偲んで彼が残したアルバムの中から代表作等を紹介していきたいと思います。 まずは来歴から、アラン・トゥーサンは1938年ルイジアナ州ニューオリンズ生まれ、父親がトランペット奏者の音楽一家に育ち自身も7歳からピアノを始め、17歳でプロ・ミュージシャンとしてのキャリアをスタートさせました。アレンジャー、セッション・ミュージシャンとして着実にキャリアを重ね、1960年代までは主にプロデューサーとして活躍、70年代以降からソロ・ミュージシャンとしての活動を本格化させます。その頃大手レコード会社リプリーズ/ワーナーと契約し、それまでに培ってきた音楽家としてのキャリアが結実したトゥーサンの代表作と言われるアルバムをリリースします。そしてアレンジャー、プロデューサー、シンガー・ソングライターとして多岐にわたる活動を続け、70年代音楽シーンの牽引役として大きな影響力を持つようになり、トゥーサンと関わったミュージシャンはザ・バンド、ポール・サイモン、ミーターズなど広範囲にわたり、トゥーサン・サウンドと呼ばれる独自のサウンド・メイキングに魅了され多くの信奉者が彼のスタジオを訪れ、その中にはポール・マッカートニーやラムゼイ・ルイスといった大物もトゥーサンの元を訪れていたそうです。 そんなキャリアハイといえる70年代の代表作と晩年の作品を紹介します。 |
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まずは72年に発表した「Life,Love And Faith」。ニューオリンズ・ファンクを代表するバンド、ミーターズらが参加したこのアルバムはタイトなリズムと独特のコーラスワーク、ホーンアレンジが施されたポップかつダイナミックなトゥーサン流ファンク・サウンドを確立した1枚と言えます。トゥーサン・マジックと称されるどこかエキゾチックで独創的なサウンド・メイキングは前述のように多くの信奉者を生み出し、その影響力はシーン全体に波及していきます。アラン・トゥーサンを聴くならまずはコレ、といった1枚です。 |
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次に紹介するのが75年発表の「Southern Nights」。前作「Life,Love And Faith」の路線を踏襲した作風で、前作と同じくミーターズをはじめトゥーサン・サウンドを熟知した信頼のおけるメンバーが参加。トゥーサンお気に入りのサックス奏者、ゲイリー・ブラウンのメロウなプレイとワウワウギターの効果的な使い方が独特な浮遊感のある空間を生み出し、タイトル曲である「Southern Nights」はエフェクト処理を施したヴォーカルと叙情的なピアノの音色を全面に出した美しいナンバー。その後グレン・キャンベルがカバーし大ヒットしました。トゥーサン絶頂期のサウンド・マジックを堪能できる70年代ニューオリンズ音楽を代表する名盤です。 |
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次に紹介するのが2009年に発表した「The Bright Mississippi」。ニコラス・ペイトン、マーク・リボーら現代ジャズ・シーンの第一線で活躍するトップ・プレイヤーを迎えて制作された本作は、ニューオリンズ・トラディショナル・ジャズを中心に取り上げたジャズ・アルバムとなりました。ニューオリンズは言わずと知れたジャズ誕生の地、往年のトラッド・ナンバーをゆったりとしたテンポでシンプルに演奏していますがトゥーサンならではのアレンジが随所に光ります。くるくると回転するかのようなクラリネットのソロ・フレーズの音色が郷愁を誘い、あぁやっぱりトラディショナル・ジャズは良いなぁという気分になります。アルバム・タイトル曲はセロニアス・モンクの楽曲ですが他にもエリントン・ナンバーも数曲取り上げていてその中の1曲、エリントン/ストレイホーン共作の「Daydream」はジョシュア・レッドマンの情感溢れるサックスと美しいメロディに彩られた本作屈指の名演です。「Long,Long Journey」ではトゥーサンの味のあるヴォーカルも聴くことができます。アルバムタイトル、秀逸なジャケ写、内容も含めて愛聴している1枚です。 |
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最後に紹介するのが結果的に遺作となってしまった2016年発表の「American Tunes」。”後世に残したいアメリカ・ポピュラーソングの名曲をカバーする”というコンセプトで制作された本作は、トゥーサンのソロ・ピアノとバンド編成の楽曲で構成され、取り上げられた楽曲はニューオリンズR&Bのスタンダード・ナンバーからジャズ、ポップスそして自身の手掛けた楽曲など多彩な選曲で特に印象的なのがビル・エヴァンスの「Waltz For Debby」を取り上げている事で、トゥーサンのピアノが紡ぐ「Waltz For Debby」のメロディはニューオリンズ由来のアーシーな響きを醸し出し、ジャズピアニストの弾くそれとは違う味わい深いものがあります。ユニークなのが「Waltz For Debby」の次の曲はニューオリンズR&Bの名曲「Big Chief」と続き通常ならかなりの変化球な配曲ですが、洗練の極致といえるジャズとアーシーなR&Bナンバーが違和感無く自然と同居できるのはトゥーサンのピアノの成せる業といえます。そしてトゥーサン自身が手掛けた大ヒット曲「Southern Nights」、オリジナル曲で聴ける趣向を凝らしたアレンジを排しソロ・ピアノでシンプルに演奏される楽曲はメロディの美しさを際立たせた本作のハイライトといえる名演です。最後を締めくくる曲はトゥーサンと縁の深いミュージシャン、ポール・サイモン作のアルバムタイトル曲。センシティブな歌詞をトゥーサンが優しく包み込むように歌う心に沁みるナンバー。まさに有終の美を飾る素晴らしいラスト・アルバムといえる内容です。 |
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そんなわけで、70年代の代表作をきっかけにニューオリンズR&Bの世界に入るのも良し、晩年の2作からトラッド・ジャズの魅力に触れるのも良しといった感じで、アラン・トゥーサンをきっかけにニューオリンズ音楽の豊かな音楽文化に触れるのも良いかと思います。いつか行ってみたい街ですが、音楽だけ聴いて彼の地を想像するだけでもそれはそれでアリかなとも考えたりしています。今回はアラン・トゥーサンを偲んでこんな文章を書いてみました。最後まで読んでいただいた方、ありがとうございました。 |