10月よりケーブルの買取担当をしている。いや、正確に言い直すとケーブルも担当している。前任のスタッフが辞めてしまい、他に直ぐに出来るスタッフも見当たらないため、前前前任だった私が結局戻った形となった。よって今までの業務プラスで行っているため毎日プラスで忙しく、ケーブル大全というケーブル・マニアの聖書のような本を片手にケーブルと格闘していたら、紅葉も過ぎ去り気付けば季節は冬になっているではないですか。ただ毎日ケーブルに触れていると、一つ一つ外観、内部に拘りが感じられ、その個性に忙しさを忘れて愉しいと思ってしまう自分がいたりするのも事実。電線と言えども意外と奥が深い。 |
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思えば私とオーディオ・ケーブルの出会いは十代の終わりに友人からモンスターケーブル(型番はZ1Rだったと思うのですが)というメーターで2,000円もするケーブルがあると教えてもらったのが始まりだった。 ホームセンターでメーター50円だか100円のコードを買って、スピーカーを複数並べ次はアンプかな?なんて言いながらフフンっと聴いていた学生の私にはそんなものを作る人がいて、販売する人がいて、買う人が存在することが理解できず、それって日本の話し?と聞き返すほど衝撃であった。実際写真を見ると自分の使っているものよりも何倍も太く、シールドの中に何本も線が入っている。想像していたものより地味だけど、なんかカッコいい。そしてそれに追い打ちをかけるようなモンスターという刺激的なネーミング。 いつかは俺もモンスターに・・・と憧れながら、一先ず友人の前でさり気なくコードをケーブルと呼ぶようになったのでした。 |
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それから数年後、オーディオの世界に足を踏み入れ、ケーブルの買取を担当することに。ここは全国規模の中古オーディオ・ショップ・ハイファイ堂。私は次から次へと入荷してくる個性溢れるケーブル群にすぐに心を奪われてしまった。同時にモンスターケーブルがこの世界ではそれほど高価な物でも無いことを知った。そしてモンスターというネーミングにもケーブル自体にも然程魅力を感じなくなっていた。それもそのはず、各ケーブルメーカーのトップクラスのモデルは定価50万は当たり前、100万以上のものもざらにあるといった価格帯で、導体も高純度の銅から銀やら金やら、さらにケーブルの真ん中に箱がついていたり、中に液体が入っていたり、めちゃくちゃ細かったり太かったり、果てはケーブル自体に電源ケーブルをつけたり、もうある意味全部「モンスター」ケーブルだったからである。 しかもこのような一風変わったケーブル達は仕様だけでなく、音質の面でも魅力的な変化をしてくれるものが多くそこが奥が深いと思える点だ。 その例を実際に試聴した感想も踏まえて紹介したい。 |
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現在(2016年11月末)販売中のドイツSTEIN MUSIC社の DX3A SIGNATURE/0.8m、真ん中に研究の成果とも言える如何にもなブツがついている。さらに右端のデカい電源アダプタももれなく付いてきて、これをコンセントに接続しないとケーブルとして一番大切な電気を送る役割も果たしてくれない。ドイツの家庭のコンセントどうなってんのと、嫌がらせとしか思えない研究の成果からくるであろうコブ付きアダプタ(左下のアップ画像あり)のデカさに突っ込みを入れながらタップ等を駆使して接続しましょう。接続したら、機器の電源を順番に入れ音を出すだけです。 |
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同クラスの通常のデジタルケーブル(ここでの通常はあのブツがついておらず、電源アダプタも必要としないケーブルを指します。)と比べるとデジタル臭のような嫌なキツさが低減され、全体的に音がほぐれた感じ。WIRE WORLDのトップモデルGOLD STARLIGHT 5と比較したので、クリアさではさほど変化は感じられなかったが、明らかに音の粒が揃いメリハリが良くなった。実は前にもっと大掛かりな上位モデルDX-3000 ONYX/1.0m(右下写真)の劇的ビフォーアフターを体験していたこともあり、正直少し物足りなさも残った。今思えばあれは研究し過ぎたせいか箱の存在が凄すぎてケーブルの向こう側にいってしまった感もあり、あくまで機器の味付けの役割としてはこのケーブルは十分な音の変化である。ちなみにSTEIN MUSIC社は何故か昔からSAECが取扱いをしている。 |
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アメリカMIT社のMI-350 REFERENCE/1.0mこちらも現在(2016年11月末)販売中である。 MITはケーブル・メーカーとして古くから存在し研究の成果とも言える箱が付いたものが代表的です。こちらはその箱(ノイズフィルターのような役割)が4つも付いたハイエンド・モデル。音は現在でも第一線ではないかと思えるほど明瞭で、音がそして音楽が輝きます。交響曲とかは最高です。オーディオ・システムをボトムアップしてくれるような力があります。定価36万、販売価格12万千円です。こちらはもう10年以上前のモデルですが、他にもMITは箱の無いさらに古いモデルも人気でファンが多い。MITのようなケーブルを聴くとそろそろ旧モデルのケーブルにも再評価の兆しがあってもいいのではないかとも思います。 |
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別に研究の成果は見た目にでるものとは限りません。ドイツのMONITOR PC(現在はINAKUSTIKと社名が変更されています。)はその一つで私のお気に入りのメーカーでもあります。このメーカーは見た目は普通、異常なしです。写真左下はRCAケーブルのSILVER HIFLEX/1.0m。右下はスピーカーケーブルのCOBRA 4S。 このメーカーは1977年からオーディオ・ケーブルをスタートさせた老舗であり、入荷も比較的多い。OFC銅に銀コーティングをしたRCAケーブルのPCシリーズ、ケーブル間をシールドした「MSR システム」を採用したスピーカーケーブルが代表的だ。このメーカーの良いところは、ケーブル自体が柔らかく取り回ししやすく接続がしやすいところである。えっ、ここまできてそれと言いたくなるが、これもケーブルを扱う上ではけっこう重要なポイントである。価格も手頃で初心者の方にお薦めだ。音も正直大きな変化は望めないが、見通しがよくなるような味付けを程良くしてくれる。また査定をしていてよく思うが、ケーブルの作りが丁寧で個体差が無く、作り手の真面目さが伝わってくるようなところも良い。 |
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ケーブルはすべて音を繋ぐだけの役割であくまで「電線」です。少し以前に比べ人気が落ち着いたという声も聞くが、現在でも数多くのメーカーが新製品を販売しており、メーカーも出来たり、無くなったり、復活したりしている。そして先にも述べたように、ケーブルにも新旧どちらが良いとは言えない、オーディオの深さがあります。現行は日本のZONOTONEのようにしっかりした音作りで価格面でも納得のいく製品が増えているように思う。対して古い往年のハイエンドなケーブルも中古価格が安くなりはじめており狙い目かもしれません。 また音の強烈な変化や方向を変える願いや狙いなら、ケーブルの前にスピーカーやアンプを考えた方が良いと私は思います。ケーブルの大きな役割はオーディオ・システムの音が納得が出来たところまでいった先にあると思います。もう少し低域がほしいとか、音が広がってくれたら、このシステムのポテンシャルはこんなもんじゃない筈!というときの助け船になるものだと思います。もし機器は気に入ってるけど何か物足りないという方はまずハイファイ堂でケーブルを検索してみてはいかがでしょうか。 レコード店:片岡兼人 |