こんにちは、レコード店の片岡です。今回は4月7日のメルマガのレコードのランアウト(内周)について引き続き書きたいと思います。 前回メルマガです。↓ http://www.hifido.co.jp/merumaga/2f/170407/index.html |
|
前回ランアウトの存在とそこに刻まれている情報について書きました。今回はその補足とランアウトから見る初版などについて詳しく書きたいと思います。まずは前回説明していなかったレコードが出来上がる工程を説明したいと思います。 【プレス工程】 1:レコーディングしたマスターテープをもとにカッティング・マシンでラッカー盤(凹)を製作 。 このラッカー盤の制作順に応じて原盤の品番とマトリクス番号が刻印されます。 またRVGなどカッティングを担当したエンジニアのイニシャルなども刻印される場合があります。 2:ラッカー盤にメッキして剥離し、メタル・マスター(凸)を製作 これが一般的に原盤といわれるものに当たります。このマスターが元になり何千、何万ものレコードがプレスされます。 3:メタル・マスターにメッキして剥離し、複数のメタル・マザー(凹)を製作 メタル・マザーが劣化したら、再度メタル・マスターから新しいメタル・マザーを製作します。 4:メタル・マザーにメッキして剥離し、複数のスタンパー(凸)を製作 スタンパーが劣化したら、再度メタル・マザーから新しいスタンパーを製作します。 5:スタンパーでビニールをプレスしてレコード(凹)が完成されます。 一つのスタンパーで概ね1000枚〜2000枚ほどプレスするようです。メタル・マスターが何らかの事情で再カッティングしない限りあとは3〜5の繰り返しになります。 ※3と4の工程を省き、2から5にダイレクトにプレスするメタルマスター・プレスというDMMとも呼ばれるプレス方法もあります。 下の図は下記リンク元より転載させて頂きました。 http://oyaideshop.blogspot.jp/2012/ |
|
ランアウトにはこのプレスの足跡が刻まれているとも言えます。前回紹介したビートルズのレコードを制作していたEMIはこの情報をしっかりランアウトに刻んで管理していました。さすが名門です。あらためて一枚、ビートルズのラバーソウルのイギリス盤。モノ録音の初回ラベル(イエローパーロフォン)を見てみましょう。 |
|
|
|
時計で見ると6時の位置に原盤の番号とその後ろにマトリクス(工程1〜2)が記されています。この盤はYEX-579-4、マト4で4回目のカッティングのラッカー盤から起こされたメタル・マスターのプレスだと判ります。ラバーソウルのモノラル盤にはマト1があり、マト2、3は存在しない(※1)ため、このマト4はセカンドプレスということになります。 |
|
因みにB面の6時の位置を見るとYEX-580-1と刻まれています。B面はマト1なのです。カッティング〜プレスは片面ずつ行うため、このように両面でマトリクスが違うこともあります。この盤だと、A面はセカンドプレス、B面はファーストプレスとなります。なんか変な感じですが、ランアウトを見るとこのような違いを見て取れます。音質もマト1はラウドカットと呼ばれるポールがベースの音圧を過度に要求したカッティングと言われており、確かに両面を聴き比べるとB面の方が野太い低音が鳴ります。A面でも十分凄い音が鳴りますが。 |
|
(※1)マトリクスについてここがけっこう厄介です。またの機会に詳しく書こうと思いますが、上のラバーソウルのようにマト4でもセカンドプレスがあるように、マト1が何らかの理由でボツになりマト2が最初のプレスということも多数存在します。はっきりいってマト1と同じくらいある感じです。マトリクスの数字=プレスの数字では無いというところを常に考慮して、最終的にはジャケットやラベルのデザインなどと照合して判断せざる得ないところがあります。全部正規で発売する時点でマト1に戻してつけてくれたら、、、。 |
|
続いて9時の位置を見ると、メタルマザーの番号が記されています。(工程3)この盤だと、5の数字から5番目のメタルマザーから製作されたことが判ります。このあたりの刻印は非常に薄く正確に読み取れないものもあります。 |
|
3時の位置を見ると、スタンパーの番号が記されています。(工程4〜5)この盤だと見づらいですが、下からGOMと読み取れます。EMIコードから145番目のスタンパーから製作、プレスされたことが判ります。すごい後です。(EMIコードについては前回のメルマガのEMIの場合を参照して下さい) |
|
このように見ると、マトリクスが若くプレスが初期に近くても、メタルマザー、スタンパーが後ろの番号の場合、相当使い古されたメタル・マスターからプレスされた場合があることが判ります。何度もプレスすると当然金型は劣化していき最終的に音溝に影響が及ぶことは想像出来ます。今回のラバーソウルを例にすると、マト4のセカンドプレスの145番目のスタンパーとマト5のサードプレスの1番目のスタンパーがあるとしたら、果たしてマトが若いというだけで鮮度の良い音がするのかという問題にあたります。う〜ん、奥が深いというか、あんまり深入りしない方がいい気もするところです。 |
|
それでは日本のレコードではどうでしょう。日本盤のラバーソウル(東芝EMI)を見てみましょう。 |
|
|
|
日本でももちろんランアウトの情報は存在します。レコード会社によって様々なところは各国共通です。東芝EMIの場合はだいたい6時と反対の12時の2つに情報があります。この盤だとまず12時のところにYEX-178-Zと原盤の番号があります。Zはマトリクスではありません。その横にある1Sがマトリクスになります。東芝の場合は○Sで表記されています。写真が見え辛くてすみません。 |
|
そして反対の6時あたり(これは8時あたり)に「5-5 w6w」という記号があります。この 前方の5-5はプレス日を表しています。後方のw6wはスタンパーのようですが正直なところ判りません。東芝の場合、マザーとスタンパーの番号が無い変わりに単純にプレス日が記されています。国内のランアウトはこのケースが多いです。 読み方は前方の数字が西暦(1970年もしくは80年)の下一桁、後方の数字が直接月を表しています。これだと70年代のレコードになるため、75年の5月のプレスだということが判ります。この月表記は1〜9月=数字、10月=X、11月=Y、12月=Zで表記されます。 |
|
また東芝の場合プレス日は73年以降は上記の仕様でそれ以前は、月をアルファベットで表記しており、4M=64年12月といったように読み取ります。 A=1月、B=2月、C=3月、D=4月、E=5月、F=6月、G=7月、H=8月、J=9月、K=10月、L=11月、M=12月です。Iは数字の1と間違えるため使用しなかったようです。 この東芝のプレス〜ランアウトについては、「日本盤 60年代ロックLP図鑑 洋楽編」という書籍の中にこれを解明した奇跡の4ページがありますので、もっと詳しく知りたい方はそちらを参照してください。 https://www.shinko-music.co.jp/item/pid0619927/ |
|
各国、各レコード会社でランアウトに刻まれる情報も様々です。基本的に原盤の番号とマトリクスは刻まれていることが多く、それ以外はまったく統一性はありません。また解明されていないものばかりで暗号のようなものも沢山あります。はっきり言ってあまり深入りしないほうが良いと言う声も聞きます。分かる気がします。ただこの表記も、同じ精度で常に量産できるCDではあまり味わえないアナログだからこその愉しみとも言えると思います。お気に入りのレコードのランアウトを見て、レコードの作られた足跡を辿ってみてはいかがでしょうか。 |