cappuccino のちょっとおすすめ第13弾 2006.3.31(金) 先週は久しぶりにジャズライヴレポートをお届けしました。大阪の道頓堀にあります老舗的存在であるJazz Club St. Jamesで開催された♪大坂昌彦3days♪の中日。St.Jamesのオーナーであり、Jazz ピアニストの田中武久、ベース・石田裕久、サックス・鈴木央紹との愉しいカルテットLiveでした。さて、今週は東京を拠点とする人気実力共にNo.1ドラマー、正に油の乗った大坂昌彦氏へのインタビューレポートです。CDプレゼントもありますのでお楽しみに。 |
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私が初めてインタビューをさせて頂いたお相手が大坂氏、「名刺交換」儀式を初体験したのも大坂氏。私には思い入れが深い。Live前の貴重なお時間を割いて頂き、ジャズビギナーcappuccinoの沢山の質問にもとても真摯な態度で応じて頂き光栄。プロフェッショナルな世界での前向きな姿勢の裏側には現在も模索中の大坂氏。色々と考えさせられる機会を与えて頂き困惑と感謝が入り混じったインタビューとなりました。いつもしなやかで今でも好青年の印象を受ける大坂氏がソフトに熱く語ってくれました。 |
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1)SJ誌の人気投票で一位の座を維持されていますが、この評価をどう思われますか。 ★☆人気投票で一位ということは本当に有り難いことです。世界中に沢山素晴らしいミュージシャンがいて、そんな中で僕のことをファンでいてくれる方がいらっしゃるという事は嬉しいですし、尚且つ演奏を聴きに来てくださることは本当に有り難いと思っています。★☆ 2)追われる立場ですがどんなお気持ちですか。 ★☆追われるという風に感じた時は一度も無いです。世の中には本当に上手い方が沢山いらっしゃる。僕が目指している人も沢山いるのでそういう意味では追われてると感じるよりはいつになっても追っているという気持ちだけです。本当にそれだけです。★☆ 3)日本のジャズ界と世界のジャズ界との差はあると思われますか。日本に必要な事は。 ★☆勿論あると思います。先日、オーストラリア人と一緒に3日間ツアーをして思ったのは、総人口が2000万人ぐらいのオーストラリアではジャズ人口もすごく少ない。しかし死活問題や人気よりもすごく純粋にジャズを捉えていて、自分の音楽を芸術として追求している姿勢、芸術性の高さを追求する潮流がある。対する日本は間違った先入観からジャズは芸術ではないという印象があるが、これだけ世界中にジャズが広まっているということはそれだけ芸術性が高い文化なのだと思います。追求する姿勢をもっともっとそれこそ危機感を持って追っていかないといけない。日本のジャズは追われるのではまったくなく、もっと発展して行って良いと思うし色んなスタイルのジャズがあって良いのでは。★☆ ★☆特に昨今の日本やアメリカは売れるものが良いものという風潮があるが、ヨーロッパ、オーストラリアでは売れる事が2の次とは言わないが、売れる事と同じぐらい芸術性の高さを追求する潮流があるのでそこの部分でも日本のジャズはコマーシャリズムに偏り過ぎてるかなと思いますね。スタンダードがコマーシャリズムでオリジナルがコマーシャリズムでないとかではないと思いますが本物を追求する姿勢をもっともっと持たないといけないのではないか。誰もが本物になりたい訳で、本物になりたいという姿勢を持たないといけないと特に最近思う。★☆ ★☆オーストラリアのジャズはヨーロッパのジャズに近い、アメリカの真似はしたくないというスタンスにすごく立っている。アメリカのスタンダードジャズをあえてやらない。日本にはまだしがらみがあり、スタンダードを強いられる傾向があります。どんな若手でもメジャーリリースされるアルバムにもスタンダードを使う。コマーシャリズムに偏りすぎではないか。スタンダードジャズをすれば売れると思っていることは安易ではないか。本人の意向とは反する場合すごく難しいですね。こういう点でも世界との差があると思います。★☆ ★☆EQ, the MOST, DIRECTIONは総じてオリジナルの割合の方が多い。EQはオリジナルしかしないがオリジナルをやることが良いとか、オリジナルができるから新しいことが出来るというほどジャズは甘くないが、新しい事ができるんじゃないかという事に対する挑戦をしていかなければならない。毎日の生活じゃないですが、昨日と同じ自分を再生して行くのではなく日々何か新しいことをやる。★☆ |
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4)10歳の頃からドラムを始められて今に至る訳ですが、辛い時ってどのような時ですか。又幸福感を味わう時はどのような時ですか。 ★☆辛い時は仕事が立て込んでいて移動が多い場合、早起きをしないといけない時など。 演奏していて辛い時は強いられる時。後ろ向きな事を強いられる時。常に限界に向かって皆チャレンジしている。昨日よりは今日、今日よりは明日とやっているのに戻らなきゃいけないという作業をしなくちゃならない或いはしてあげなければならない状況にいる時。★☆ ★☆幸福感は、昨日より新しい自分の発見。一瞬ですが。格好つけて言うわけではないですが、レコーディングしたらその演奏は好きでなくなるので普段は自分の演奏は聴かない。というか聴けない。Liveとレコーディングは違う。ジャズの音楽の素晴らしさはその瞬間だけ、一瞬。その一瞬をフリーズ・ドライしたのがCD。演奏者だけが体感できるわけではなく毎日同じ人の演奏を聴けば聴衆にも判るかもしれない。日々の生活がちょっとずつ違うように違いますね。★☆ ★☆同じ気持ちで演奏する境地には至っていない。こういう事したい、ああいう事したい今日はこういう風になりたい、ああいう風になりたいと毎日気持ちが違う。それを越した時に洒脱した演奏が出来る。その境地に至った人もおられると思うが僕はまだまだ。悟りの境地というと大袈裟かもしれないがかなりの経験を積み重ねた上で悟る。一つ判ったところで更に無の境地になれればいいのだがまだまだ煩悩の方ばかりです。だからまだまだなのです。追われるのではなく、追わなくてはならない。★☆ 5)今までで印象深い演奏をしたのはどのLive又はセッションですか。又その時のミュージシャンはどなたですか。エピソードをお聞かせください。 ★☆沢山ありますが、今から5〜6年前、ロン・カーターと共演中の時。子どものころにレコードでさんざん聴いたそのままの世界に居合わせる錯覚に陥った。ロン・カーターのプレーは自分が思っていたレコードのロン・カーターそのままの演奏。その時の僕はジャズファンって感じでした。シダー・ウォルトンと共演した時もそうです。彼の沢山の名曲をよく聴いていました。その曲を演奏していた時にも感じました。★☆ |
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プロフィール ジャズドラマー大坂昌彦 1966年 9月28日生まれ。 1986年奨学金を獲得し、バークリー音楽大学に留学。在学中にデルフィーヨ・マルサリスのバンドに在籍し全米各地のジャズフェスに出演。NYでの活動後、1990年に帰国。大坂昌彦・原朋直クインテットを結成。アルバム6枚をリリース。うち二枚がスイングジャーナル誌でゴールドディスクに選定される。一方、日米混合バンド、ジャズネットワークスでもアルバム4枚をリリース。自己のアルバムも5枚リリースしており3枚目の「ウォーキン・ダウン・レキシントン」はスイングジャーナル誌で制作企画賞を受賞する。 現在はthe MOST、EQ、M's、Direction等のレギュラーグループで精力的に活動しており、スイングジャーナル誌読者投票ドラム部門では1995年より一位に選出され続けている。洗足学園音楽大学ジャズコースの講師も務めている。 (大坂昌彦氏HP資料より) |
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6)今、気になるジャズ・ミュージシャンは誰ですか。 ★☆世界中に沢山いますね。ほんとに沢山います。(好みは別として2〜3名挙げて頂いた。) ジャズピアニスト、ブラッド・メルドーが前作とは違うドラマーを起用してピアノ・トリオCDをリリース。それによりこれまでとは違う感じ、目線の新しい所で演っているのが新鮮だったので次作をどうするかが気になります。ジョシュアー・レッドマンも素晴らしいミュージシャンだから僕が同じ感覚を共有していると言うとおこがましいのだが、ある種自分と同じ世代感によって模索している様子という感覚を共有できるという意味で気になりますね。彼の事を判っていると言う気持ちはないのですが物事の考え方が似ているかなと感じる。 ★☆ブランフォード・マルサリスも気になるし、ウィントン・マルサリスのi-PodのCMはショッキングですね。あんな単純なモチーフだけでテレビにハッと顔を向けさせられるという感覚。偏にウィントンの音楽性プラス音楽的テクニックの高さがトランペッターとしてあまりにも群を抜いている。ああいう風に吹ける人あんな簡単なことをできる人は彼しかいない。一瞬吹いただけで彼だと分かるし、彼しかできない事をまざまざと見せ付けられるという意味では衝撃的でした。ドラマーに拘らず優れたミュージシャンなら全部気になりますね。★☆ 7)某有名ドラマーさんに何故ピアノレスのCDを制作したのかと質問したのですが回答無しでした。何故だと思われますか。大坂さんのご意見をお聞かせ下さい。予想でも大坂さんご自身のご意見でもOkayです。 ★☆ドラマーの方やサックス奏者もピアノレス作品は作りたい一つのスタイル。ピアノはハーモニー、メロディーもリズムも出せる支配力が強い唯一の楽器。単音楽器のサックス奏者も単音楽器だけで作りたいと思う。ブライアン・ブレイドもツイン・ギターでピアノを最小限に抑えた作品をだしている。回答が無かったのは、良い答えが見つからなかったのでしょう。(私のもやもやが解消されました。有難うございます。)★☆ 8)現在はどのユニットがお気に入りですか。 ★☆どのユニットも気に入っている。特にユニットである必要ではなく、結局、日々の演奏を楽しめるシチュエーションが良い。常に挑戦できるのが良い。自分の表現できる場所・自分の居場所があるセッションが良いですね。今回プレゼントのDIRECTION “Three-Direction” は聴き易さを念頭において制作しているが、後ろ向きではなく聴き易さの中にも上質さを出した作品。★☆ |
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9)St. James の田中氏との出会いは? ★☆出会いは10年以上前に遡るのですが、今のようなお付き合いをさせて頂くようになったのは菅沼孝三さんからドラム・クリニックDVDのゲストに呼ばれた時、事前に演奏させて頂く機会があり、その時の共演が素晴らしく、それがきっかけで今でもお付き合いさせて頂いている。すごく良い出会いに感謝している。★☆ |
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10)田中氏と演奏していて、どのような感想をお持ちですか? ★☆一緒に演奏していて楽しい。キャリアを感じさせる。 僕らにない、洒脱した達観した力の抜けたところを見習いたい。僕には煩悩がある。田中さんに無いというわけではないだろうが、田中さんは毎日演奏なさっているからリラックスした音符が踊る演奏をされている。力が入っているとダンスが硬い。力が入っているなりのアーティスティックな観点でみると当然必要なのだが、日々の音楽を楽しむという側面で考えるとジャズの場合は歌を持っていて、良い感じで音符が踊ってないといけない。そこはすごく刺激を受けた。 僕がドラムを通じて表現したいのは、「歌」であり「様」である。音楽を考える時、音楽のことだけで考えるのではなく他の事に置き換えて考えると物事がよく見えたりすることが沢山あるわけで常に置き換える。ドラムという楽器を通じて音楽を表現したい。★☆ |
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11)オフの日はどのように過ごされますか。 ★☆最近忙しくてオフの日というよりはオフの時間ですね。時間があれば散歩したり、名古屋や大阪でのLiveは2〜3日間連日あるので、美術館で鑑賞したりする。最近ではユトリロ展に足を運びました。バランス感覚を養う事に役立つ。★☆ 12)ご自分の性格は?長所・短所を教えてください。 ★☆短所はせっかちですね。例えば待ち合わせ時間より前に行く。これは約束を守るとか待たせるのが嫌ではなく、自分に時間があると先に行こうと思う。僕よりせっかちな人もいますがね。長所は他人から言われることであり、自分で良いことだと思っていても他人には悪いことかもしれない。自分では判らない。★☆ |
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13)これからの夢はどのようなことでしょうか。 ★☆もっと自分の知らない世界にいけること。演奏を通じてもっと上があったんだなと思えることが良いですね。機会があれば国内外を問わず場所に拘らない。どこにいてもその人の気持ち次第。常にチャレンジ。NYはレベルが高いし、切磋琢磨されているのでより追い詰められる。ジャズミュージシャンも多い上にジャズをする場が少ない。しかし、ジャズに拘らなければパーティーなどで演奏する機会は多いし、十分お金にもなる。★☆ 14)ジャズ・ミュージシャンを目指してる人へのメッセージをお聞かせください。 ★☆ジャズに限らず、音楽を音楽だけで捉えると判らない。いろんなことを考えてもらって、一ついえる事は過去のことも勉強しないと未来のことは勉強できない。後ろへ行って前に行っての作業を常に繰り返す。歌の文句ではないが一日一歩・三日で・・・三歩進めば二歩下がる。進んだなと思ったら何か欠けてることに気づく。★☆ ★☆ファッショナブルなことをやる為には三歩進んで二歩下がり、ようやく一歩進むという繰り返し、基本的には僕もそうです。新しいものを聴いたら古いものを聴く。でないと続かない。気づかせてくれる状況、戻らなきゃと思う状況が沢山ある。そしてやっと一歩進む。ジャズとはそんなものです。だからこそ長く続く音楽だと思う。ピアノ・トリオでトラディショナルな演奏をするのに、新しいことだけをする人が出来るわけではなく、伝統のことも理解していないと。積み重ねを理解した上でないとトラディショナルは演れない。★☆ ★☆常にやり続けることができないと他の音楽には向いていてもジャズには向いてないかもしれない。一生やっていてもまだ足りないと思えるでしょうから僕はこれからもジャズをやっていくと思います。止める作業は二歩下がるためのものであるかもしれない。僕らは締め切りを意識しないといけない仕事ではないのでその点は楽です。★☆ |
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如何でしたでしょうか?時間があると美術館などを訪れて絵画から色彩感覚・バランス感覚を養う。映画鑑賞やインテリアショップなどを訪れるのも好き。散歩中に季節を感じることも芸術性あるドラミングに良い形で反映されているのだろう。最近は健康管理のため、ステージ前にたっぷり食事をして、夜遅くの食事は控えているらしい。ステージから離れた大坂さんもお洒落な好青年。ジャズに関するお勉強現在進行形の私より年下とは思えない程幅広い知識や探究心に驚く。厳しさの中にも温もりを感じさせる眼差しに誠実さが伝わります。少し視線を下げた時の優しい目とゆったりした口調に心が和みました。素顔を垣間見る機会に恵まれハッピー。センスあるジャズドラマー大坂さんの更なるご活躍に期待。 |