「変拍子とノクターン」 青春の思い出 今週のおすすめはCD2枚です。ご応募いただいた皆様から抽選で各1枚ずつプレゼントします。お名前、送り先、ご希望のCD(「タイム・アウト」か「ショパン夜想曲集」)を明記の上、下記メールアドレスまでご応募ください。 mailto:merumaga@hifido.co.jp 締め切り日時は12/7(木)21:00です。当選者の発表は賞品の発送をもって替えさせていただきます。 |
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ゲストのおすすめCD ゲスト おにぎりさん デイヴ・ブルーベック 「タイム・アウト」 デイヴ・ブルーベック(p)、ポール・デスモンド(as)、ジーン・ライト(b)、ジョー・モレロ(ds) 曲目 1.トルコ風ブルー・ロンド 2.ストレンジ・メドウ・ラーク 3.テイク・ファイブ 4.スリー・トゥ・ゲット・レディ 5.キャシーズ・ワルツ 6.エヴリバディーズ・ジャンピン 7.ピック・アップ・スティックス |
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僕はこのアルバムを高校生の時に友達に借りて聴きました。思い出たっぷりのアルバムです。簡単に言えば、僕にとってアルバムを通して聴いた初めてのジャズでした。プログレ一本だった僕の音楽生活に衝撃を与えた「異文化」の音でした。ですから、卒業アルバムと同じ位の「大切なアルバム」の一つです。久しく聴いていなかったので、とても懐かしく、またとても新しい感覚で聴く事ができました。今思えば、高校生の時に聴いていてよかったなと思います。 さて、感傷的な感想文になってしまいますがご容赦ください。ジャズ初心者の僕でも耳にした事のある曲の一つが、このアルバムに収録されている「Take Five」です。コマーシャルに使われていましたからね。もちろん、僕がこのアーティストたちを知るきっかけになったのもこの曲です。「トルコ風ブルー・ロンド」、曲の中盤部に現れるサックスのポール・デスモンドとピアノのデイブ・ブルーベックの掛け合いはとても楽しそうに弾いているように感じます。「Three to get ready」ではイントロ部に代表されると思うのですが、全体的にしっとりとした優しい感じがします。ピアノソロで僕はそれでも熱さを内に秘めているような、そんな感じがします。 僕が調べた所によると、デイブ・ブルーベックはクラシックのトレーニング跡と即興のテクニックが特徴のようです。しかしながら、まだまだジャズ未熟者の僕にはどのあたりが「クラシックのトレーニング跡」で、どの部分が「即興のテクニック」なのかはわかりません。しかしながら、聴いていて「なぜか、しっとりする」感覚がありました。多分、高校生の想い出がそんな感じにさせるのでしょう。 自分の気に入った曲について感想文なる物を書くのも大変な作業ですね。ましてや、自分にとって特別な想い出のあるアルバムやアーティストについてはなおさらです。正直に言うとこの感想文を書くのに約3ヶ月かかってしまいました。今こうやって、とりあえず原稿を書き終えて聴くと「ただただ聴いているだけの自分がある」事に気づきます。特に言葉を探す訳でもなく、体内から感情が湧き出る事もなく「ただそこにあり、聴いている」だけ。もう少し時が経ってこのアルバムを聴けば、言葉や感情が自然に湧き出るのかもしれません。僕は楽しみにしています。みなさんの想い出のアルバムはなんですか? |
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ゲストのおすすめCD ゲスト ちょっぱらさん 清水和音 「ショパン 夜想曲集」(2枚組) 清水和音(P) 曲目 DISC1 1.第1番 変ロ短調 作品9-1 2.第2番 変ホ長調 作品9-2 3.第3番 ロ長調 作品9-3 4.第4番 ヘ長調 作品15-1 5.第5番 嬰ヘ長調 作品15-2 6.第6番 ト短調 作品15-3 7.第7番 嬰ハ短調 作品27-1 8.第8番 変ニ長調 作品27-2 9.第9番 ロ長調 作品32-1 10.第10番 変イ長調 作品32-2 DISC2 1.第11番 ト短調 作品37-1 2.第12番 ト長調 作品37-2 3.第13番 ハ短調 作品48-1 4.第14番 嬰ヘ短調 作品48-2 5.第15番 ヘ短調 作品55-1 6.第16番 変ホ長調 作品55-2 7.第17番 ロ長調 作品62-1 8.第18番 ホ長調 作品62-2 9.第19番 ホ短調 作品72-1(遺作) 10.第20番 嬰ハ短調(遺作) 11.第21番 ハ短調(遺作) |
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清水和音といえば、ちょっぱらの青春時代のアイドルである。1981年に弱冠20歳でパリのロン・ティボー国際音楽コンクールで優勝し、期待の新星としてデビューしたばかりのころ、TV”徹子の部屋”で紹介されていたのをたまたま見たのだ。まだ少年の面影の残る端正な顔立ちで世界を舞台に活躍する若きピアニスト!同級生たちが追いかける、顔だけのTVアイドルとは格が違うぜと優越感を抱きながら、自分だけのアイドル発見を密かに喜んだ(単にターゲットが違うだけ・・・)。すぐにCDを購入した。演奏会用の小品を集めた聴きやすいもので、よく就寝前に聴いた。特に高音が鮮明に響いて、プラネタリウムでしか見られないような満天の星空を遊泳するようなイメージに浸った。 ほどなくして、父に頼んでリサイタルに連れて行ってもらった。5列目くらいの良い席だった。憧れの君に会えるという期待ではちきれそうで聴衆なのに開演前から緊張していた。しかし、満場の拍手に迎えられてステージに立ったかの君は、乙女ちょっぱらが勝手に描いていた像とは、違って見えた。軽いショックを受けて、その後はなかなか聴くことに集中できなかった。CDの雑音のないクリアな演奏を聴きなれていたせいか、ホールの残響のせいか、ずいぶん音がくぐもって聴こえ、違和感が立った。一音も聞き漏らすことなく心に刻み込もうとあせる一方で、超絶技巧などの音符の洪水をむなしく見送った。リサイタルが終わるころには、自分は待ち望んだこの時間をすっかり忘れるのではないかと心配になった。おまけに隣席の父から軽いいびきがきこえ、暖房のきいたホールで冷や汗をかいた。アンコールは、聴きなじみのある「白鳥の湖」で安堵したが、非常に高速で、これでもうお別れなのかとほろ苦い思いで終演を迎えた。 あれから20年近く経って、久しぶりにかの君のCDを手にし、いつも空回りする自分と奮闘していた日々をなつかしく思い出した。壮年の音楽家の顔つきは精悍でベートーベンの肖像画のようである。音楽も衰えとは無縁で時の重さを感じさせる。 夜想曲というと「男女の機微」という主題が色濃く浮かび上がる。ショパンの折々の心象が綴られた詩集は抒情豊かで幻想的な美しさを湛えている。清水は確かな技術でゆるぎない礎を築いた上で、夜陰に溶けて消えていくはかない心の営みを、ショパンに寄り添い、或いは一体となって、ひとつずつすくい上げ、慈しみながら織り上げていく。病弱で繊細なイメージのショパンだが、清水の演奏は男性的でがっしりとした骨格を感じさせた。 ちょっぱらもおばさんとなり、同じ夜空を見上げるでも20年前には夢と希望をはらんだ未知の世界への入り口であったそれが、いまや空ろな闇でしかないこともある。だが、この人の音楽の庭には、身震いするほどの星の海が冴え冴えとまたたいて、やがて温かいしずくとなって流れ落ちてくるのである。やっぱりこの人のファンでよかったなぁと幸福に包まれたのだった。 |