「コンの試聴」 テナーサックス 今週のおすすめはCD2枚です。ご応募いただいた皆様から抽選で各1枚ずつプレゼントします。お名前、送り先、ご希望のCD(「ジェントル・バラッズ2」か「イッツ・マジック」)を明記の上、下記メールアドレスまでご応募ください。 mailto:merumaga@hifido.co.jp 締め切り日時は4/12(木)21:00です。当選者の発表は賞品の発送をもって替えさせていただきます。 |
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コンのおすすめCD その1 エリック・アレキサンダー・カルテット 「ジェントル・バラッズ2」 エリック・アレキサンダー(ts)、マイク・ルドン(p)、ジョン・ウエバー(b)、ジョー・ファンズワース(ds) 2006年3月NYで録音 ヴィーナスレコード TKCV-35376 2006/12/20 発売 曲名 (1) モナ・リザ (2) アイ・ガット・イット・バット (3) ファニー (4) アイム・ア・フール・トゥ・ウォント・ユー (5) リル・ダーリン (6) ルック・オブ・ラブ (7) マイ・シップ (8) フー・キャン・アイ・タン・トゥ (9) タイム・アフタ・タイム |
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テナー・サックス界の若手をリードする一人、エリック・アレキサンダーが1年ぶりに「ジェントル・バラッズ2」を誕生させてくれた。昨年の「ジェントル・バラッズ」もよかったが、今回もエリック・アレキサンダーの厚みのあるトーンで実に堂々としながら温かみがあり、力強いテナーは健在だ。表現と気迫のこもったテナーがますますその音色が冴え渡っているのが心強い。 今回もダイナミックにスイングする豪快なストレート・アヘッドである。破竹の快進撃を続けるエリックをフォローするジャズ・メンもインスピレーション豊かに、抑制を効かせたトーンで創意工夫を凝らし、盛り上げていくところなど心憎いほどである。エリックにはどのラインが合っているか、というところまで楽器の全てを知り尽くしたメンバーは卓越したハーモニを織り込みながら音色を巧に操り、絶え間なくスイングしていくのである。そのよさはいきなり(1)「モナ・リザ」で発揮されている。これはLPモノラル時代ナット・キング・コール(現在所有している)が歌って有名になった曲だが、気迫のこもった素晴らしいテナーで生き生きと躍動しており、聴いていても爽快である。またエリックの得意とする長いバラードのイントロから本題に入るまでの引き延ばしが、実に巧みであるのだ。(5)「リル・ダーリン」もバラードであるのだが、そんなにゆっくりとしていない。テナーの響きを大切に独自のスピード感を伴って、分厚くそして繊細さも忘れてはいないところなど、エリックの巧妙で素晴らしい演出の成せるところなのである。ましてブローにかけてはダイナミックだし、豪快さにかけてはあのソニー・ロリンズにも負けていないのではないかと思えてくる。 サウンドもガッチリとしたピアノ、ベース、ドラムスといったリズムが重量感に満ちた低域部を構成しており、好サポートを受けて、分厚くありながらシャープなテナーの音像が、目前に浮かび上がるようである。ワンホーン・カルテットの良さと再現性が見事だ。 |
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コンのおすすめCD その2 エディ・ヒギンズ&スコット・ハミルトン&ケン・ペプロウスキー 「イッツ・マジック」 エディ・ヒギンズ(p)、スコット・ハミルトン(ts)、ケン・ペプロウスキー(ts,cl)、ジェイ・レオンハート(b)、ベン・ライリー(ds) 2006年作品 ヴィーナスレコード TKCV-35383 2006/12/20発売 曲目 (1) イッツ・マジック (2) ほのかな望み (3) アイ・ゴット・イット・バット (4) ムード・インディゴ (5) アイ・ネバー・ニュー (6) バークリー・スクエアのナイチンゲール (7) 枯葉1 (8) アイル・ネバー・ピー・ザ・セイム (9) ザ・タッチ・オブ・ユア・リップス (10)枯葉2 |
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何と豪華なメンバーが揃ったのであろうか。この顔ぶれを見るだけでジャズの素晴らしい響きが伝わってきそうだ。しかもこの五人の奏者は一番ジャズがよかった時代の伝統とフィーリングを生かしつつ、現代のジャズの新鮮な感覚を損なうことなく、最高のリズム感を身につけ演奏してくれているのが最高に嬉しいではないか。 エディ・ヒギンズが原メロディを生かし、ゴージャスでくつろぎに満ちた最上のジャズ・アルバムに仕上げてくれた。50年代にタイムスリップしたかのようなジャズの快楽に溢れた芸術的なアルバムの完成である。古いポップス曲であるが、タイトルにもなっている(1) 「イッツ・マジック」の素晴らしい新鮮な演奏から始まるのが、これがまた気持ちがいいではないか。ヒギンズの美しいピアノに支えられた2本のテナー、あるいはクラリネットの芳醇音色が至福な空間を生み出してくれる。二人の力強いテナーの「枯葉1」とクラリネットが入り陰影にとんだ「枯葉2」の聴き比べも楽しいではないか。これほど現代の感覚にぴったりとマッチしたアーティストが揃ってくれたことに、まず感謝したい。それは現在ピアノの王道を行く名手エディ・ヒギンズ、そして最も分厚く音色の美しいテナー・サックスを吹く名人スコット・ハミルトン、かたやモダン・テナーサックスとクラリネットの両方をオーソドックスに奏でていくケン・ペポロウスキーである。それに加え線が太く豊かで厚いベースのジェイ・レオンハートと、何処までも繊細で透明感がある素晴らしいドラムスのベン・ライリーという、これ以上望みえないスター・プレーヤーばかりだ。 久しぶりに聴く豊潤なジャズの演奏の中に、どっぷりと浸かっているような感覚で聴かせてもらった。現代ジャズにおいて、あまりにも時代の高速化が進む中、我々はもう少しオールドなジャズを大切にしていかなければならないと、反省させられるような見事なアルバムに仕上がっている。(5)「アイ・ネバー・ニュー」(7)「枯葉1」を聴いていてもすごく心地よくスイングしていくリズムとグルーブの大切さを味わえるものだ。エディ・ヒギンズはもとより、スコット・ハミルトンはデビューした頃、”スイング・ジャズ”というオールド・スタイルを信奉していた新人テナー・サックス奏者で注目を浴びていたと聞く。豊かで線の太い音色は、「心の温かみを覚えずにはいられないものだ」と、彼のテナーを聴くといつも感心させられる。ハスキーで深い渋みがある分厚い音色にはただただ魅了されるばかりだ。 最近ジャズ界ではクラリネット奏者が少なくなってきていることが実に寂しいことだ。現役ではユニークな奏者ドン・バイロンもいるが、いちばんクラリネットらしいまろやかで艶っぽい音を奏でてくれるのが、ケン・ペプロフスキーではないだろうか。その上テナー・サックスも実に味わい深く、また上手いときている。「テナーもよければクラリネットもよし」これ最高ではないか。そのテナーを吹かせると、好きなコールマン・ホーキンスかズート・シムズか、といったようなスイング感の心地よい温かなトーンで奏でていく。それも線の太い、ゆったりとした響きを聴かせてくれるのが実に頼もしい。 サウンドはさすが最新録音だけに鮮度もよく、ピアノ、サックスなど全体にきらびやかで粒立ちもよく、伸びやかな音色のよさを聴かせてくれている。ベースの弦の震えや胴なり、バスドラの空気感等、音の分離もよく目の前に各楽器が存在するかのようなリアル感で迫ってくるのも見事の一言だ。「最新にして最高のリファレンスソースだ!」これをGetせずにおけないだろう! |