私のお宝 溝の数よりしわの数 三度の飯より・・・ 2005年8月26日 音迷人 オーディオの楽しみの中にアンプ製作があります。「ラジオ」はその昔汎用品としてメーカ製の物がたくさん有りました。それでも面白いので「ラジオ」を自作した人も多かったのです。 オーディオはと言うとラジオつき電蓄の形が多く、LPが出現し良い音質で聴けるといってもまだ汎用的ではなく、メーカー製作の家庭用オーディオアンプはあまり売っていませんでしたし、有っても当然高嶺の花でした。従ってラジオ少年達(もちろん大人も)は外国の技術なども紹介してくれる技術書や、雑誌から学びながら自作をしたのです。昔は「造らなければ良質のアンプが手に入らなかった」ので真空管(半導体デバイスは1部ダイオードを除いてまだ存在しなかった)アンプを造ったのですが、今は「真空管アンプが欲しくてわざわざ造る」感がありますね。したがって今の真空管アンプ造りは趣味性や音質の主張がより強くなっているように思います。当時は「男なら部品集めて造ってやるワイ!」みたいな気概があり、かなりの若者が挑戦しました。したがって今、達者な残党?が沢山居られ、高じてアンプメーカーのオーナーになっている方も居ると聞きます。 |
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私の場合は6V6、6BQ5や6AR5のプッシュプル(PP)ウイリアムソンアンプ、高一チュナーつき12AX7プリアンプ等を造りました。ご存知のように6V6とか記号は真空管の名前です。 雑誌のラジオ技術やLP技術事典を読み、義兄が造るのを見て技を盗み体得したものです。懐と相談したりして先ず自分が作ろうとするアンプを決め、回路図を決定しました。私は自分で回路設計をしませんでしたので、雑誌などの製作記事や回路図集を見て決めました。(写真)回路図から部品リストを作り、いざ鎌倉いや秋葉原へ。時間は有りましたので足が棒になるまで安い部品を調べ、この店では抵抗器、あの店では真空管と狙いをつけて買いました。店のご主人もしくは店員さんの顔も覚えてしまいましたが、たまに来る少年を覚えては呉れなかったでしょうね。あるとき真空管や部品などの合計が割引をして1,010円に成りましたので、「お願いです。丁度1,000円にまけてよ!」と頼みましたら「悪いなー、この10円が儲けなんだよ」と断られ妙に納得した覚えがあります。後年仕事に就いて、この手を結構使わせてもらいましたよ。たった10円の授業料ですが随分得をしました。 |
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さて、この頃までは「キリキリ」と真剣そのものですが次は買い集めた使用部品をはべらせて「ニヤニヤ」ですね。部品を採寸してから詳細配置図面を作ります。プリアンプはアルミ板から起こしてシャーシーを作りました。メインアンプは塗装していない標準サイズの安いアルミシャーシーに組みました。手動ドリルとシャーシーパンチで穴をあけましたが、全て予算切り詰めのため自分で加工するのです。たいていは長方形シャーシー上面にトランス、電解コンデンサー、真空管等が取り付けられた今でも良く見かける形状でした。 |
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私が凝ったのはプリアンプで電源をメインアンプから給電し、真空管を水平に取り付けることで、バリコンの高さまで薄くし、セレクターランプが切り替わる我ながら格好良いと思うものでした。(参照図)何しろプレスとか折り曲げ機等加工機械や定盤を持ち合わせていないので、シャーシー造りは大変でした。ディザインに欲が有るのに、手立てが無いから苦労するのですがそれが面白い。1mmほどのアルミ板を庭のコンクリート踏み台上にて木材でパンパーンと叩き曲げ、ノミと金槌でチュナーダイアルやパイロットの角穴をあけをしました。アルミは柔らかいので伸びてワカメ状態になったり、コンクリートの凸凹で面が荒れました。シマッタと思ってももう戻れません。悔しいのですがこれで仕上げるしかないのです。あとはヤスリで表面を磨きまくり何とか誤魔化せるほどにしました。世界初の「アルミのヘヤーラインパネル」で実用新案を出そうかなと・・ま、これは冗談ですが、ニスをかけた仕上げは中々綺麗でしたよ。自作も良いですが、図面を出してシャーシー屋さんに頼まれると仕上がりは良いですね。今ではカラフルなものや木目を生かしたシャーシーデザインがありますが、当時は思いつきもしませんでした。 |
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シャーシーが出来ると端子を半田処理して主要部品を取り付け配線を始めますが、この頃から「ワクワク」してきますし、「ご飯ですよ〜」とか「勉強したの?」「早く寝なさい!」なんて言われても「聴く耳」が何処かに行ってしまいますし、口癖も「ウン、もう少し!」でした。(-_-;) 一通り配線が終わり何度もチェックし納得しましたら、真空管を差込み無負荷(スピーカーをつながず)でパワースイッチを入れます。万が一のトラブルを考えてスイッチを直ぐ切れるように又電解コンデンサーが吹いたりしても身に掛からないように構えたものです。この辺りでは「ドキドキ」です。何事も起らなければテスターなどで所定の電圧を測り、ひどく外れていないか調べます。一回止めて異常に加熱した部品は無いか感電しないようにして調べました。実は気持ちがはやってよく感電したものです。スピーカーをつないで電源を入れ、入力ホットに瞬間的に触れて「ブッ」と音が出るのを確認しますとここからは「シメシメ」モードです。入力をつなぎラジオやレコードを流すと先ずは朗々と奏でます。もう気持ちは感動で「ジーンジーン」ですね。期待したほどではないと気持ちは「ガラガラ」と崩れてゆきます。さあ如何しようと。 と言うことでアンプ造りを音で表せば キリキリ/ニヤニヤ/ワクワク/ドキドキ/シメシメ/ジーンジーンてな事です。 真空管アンプはなんと言っても人間臭いところが良いですよ。半導体のように小さくはなく、細密画のようなプリント基板もまず使わないで手配線。図体もありシャープではなく重量感も有る。ほんのり灯が入って安らぐような。そう丁度蒸気機関車に思いを寄せるのに似ていませんか? |
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次回からはカートリッジやスピーカー遊びの話を置いといて、読者のリクエストにお応えします。「昔取った杵柄」で「半世紀前の化石人間、音迷人の真空管アンプ製作講座」を始めましょう。電気のことや、造る事も初めてだけれど、自分のアンプを造って見たいという方の為に“優しく・易しく”進めて行こうと思います。サン・オーディオ販売代理店のハイファイ堂さんが提供する「2A3シングル・ステレオアンプ」が教材です。「2A3シングル・ステレオアンプ」は何と真空管アンプの原器ですぞ。(写真) |