オーディオ風味 名曲アラカルト」 2006-3-24 音迷人 アントニン・ドボルザーク/交響曲第9番「新世界より」 この曲を、聴いたり口ずさんだりしたことの無い方は今時、王ジャパンを知らないと言うぐらい珍しいでしょう。学校教育に取り入れられている「家路」という曲ですし、「もう夕方五時だよー!お家に帰りましょう」と言う下校のオルゴールでも流されていますね。本当に素晴らしい曲で私はレコードで千回は聴いていますよ。 (ドボさんが見たNYの夕暮れ?いや新宿です) |
|
音楽的なお国柄と言われるチェコ、プラハの北方で肉屋と旅館を営んでいた家に長男として生を受けたドヴォルザーク(1841〜1904)は大変音楽に精通した小学校の校長先生から音楽を教えてもらい、素直に上達したそうです。チェコの人びとは音楽好きで、音楽家というより生活の中でかなりのレベルで何か演奏をたしなんでいた様です。お父さんはチター演奏や作曲をする肉屋さんだったそうです。恐らく肉料理とビールの旨い居酒屋風なスペースのある宿屋だったのでしょう。そして売り上げアップのために音楽を弾いて「飲めや歌え」の状況を演出してたのでしょう。必ずしも豊かではなかったドボさんは肉屋を継がせたいと言う父親に対して、校長先生と伯父さんが音楽の道に進ませたのでした。伯父さんの経済的援助を受けて、プラハの音楽学校を卒業したそうです。伯父さんが居なかったら我々は「新世界より」を楽しめなかったのですね。オーケストラでヴィオラを弾いたりしながら、かの有名な作曲家スメタナの指揮の下教えを受けたそうです。後に奨学資金を得る試験で作品を出したところ、審査のブラームスに認められ、親しい交流が始まったのです。その頃「スラブ舞曲」を出し決定的な評価を得たそうです。50歳近くではチャイコフスキーとも交流していました。51歳で請われてアメリカにわたり、NYナショナル音楽院の院長を3年間務め、この間黒人霊歌や原住民の民謡などを知ることとなり、その影響や望郷の念から「新世界より」が生まれ、弦楽四重奏曲「アメリカ」、チェロ協奏曲(ドボコン)などもものにしています。良く黒人霊歌等の旋律を使ったと言われますが、そうではなくチェコの土壌的響きに合わせたという感じのようです。 ドボさんの音楽はロマン派の音楽に属すのですが、スメタナ先生のチェコ音楽の影響や国民性を高める傾向があったため、少しエリート的ロマン派から土の匂いがする国民楽派とも言われます。 既に32歳包容力のあるアンナ・チェルマコーヴァと結婚し精神的にも安定していたようですが、子供達を早くに亡くし、秘められたその哀しさは、彼の優しさや暖かさを引き立たせているようで、音楽からもそれとなく感じられます。モーツアルトさんの揺らぎとはまた別の意味での「癒し」の力があるように感じます。 |
|
私の初めてに近い生演奏鑑賞だったと思いますが、昭和30年ごろ、「三つの第五交響曲」というテーマのコンサートに日比谷公会堂だったか、母親に連れて行ってもらいました。三つとはどれでしょうか?ベートヴェンの運命、チャイコフスキーの5番、そしてドボルザークの5番でした。ベーさん、チャイコさんはわかるとしてドボさんの5番なんてと仰るでしょう?「新世界より」は昔交響曲第5番だったのです。写真を参照して下さい。当時名演奏、好録音と言われたトスカニーニ/ヴィクターモノラール盤です。有名なジャケットで復刻CDでも使われました。研究で4つの交響曲が解って今では9番になったのですね。しかしこのレコード裏面の解説を見ると、一応第1番から第9番までリストアップされていて、「新世界より」は9番と考えられると有るので、この頃はまだ完全にオーソライズされていなかったのでしょうね? 新世界は4つの楽章から出来ています。オーディオチェックをしながら聴いて行きましょう。 当然この曲を心から味わってください。口オーケストラ(くち三味線と同意語)出来るほど聴いてくださいな。 |
|
今回のお奨め盤は数ある演奏からノイマン/チェコ・フィル/キャニオン盤を選びました。 その理由は正にご本家だからです。まずヴァーツラフ・ノイマン氏はチェコが誇るマエストロであり、新世界を200回以上も演奏しているそうです。またチェコフィルはオラが国さのオケであり、彼が育ててきたのです。そして録音場所が響きが美しいと定評のある、作曲家の名前が冠された芸術家の家:ドヴォルザーク・ホールなのです。ノイマン氏は既になくなられていますが、この録音は一線を引かれ悠々自適後の1995年に行われています。ノイマン氏は亡くなりましたがあたかも遺言のような思いがします。そして録音エンジニアーとして、ここ十数年世界のトップを行かれる江崎友淑(ともよし)氏による録音なのです。ジャケットの写真は「ジャケットボタン」掛け違いで、飾らない人柄が出ていると有名です。 他に同じ演奏者で初演100年記念のデンオン盤、希望に溢れた若々しさとメリハリのあるケルテス/ウィーンフィル盤、堂々とした少し重いカラヤン/ベルリン盤、素朴な民族の香りがするクーベリック/バイエルン盤などがあります。 |
|
第1楽章:弦を中心に静かにゆっくりと入り、濁りの無いホルンのひと叫びがあり、1:00するとティンパニー強打を伴って主部へと展開してゆきます。ティンパニーも演奏によって色々な音色があり、またこの曲の録音センスを問われるポイントではないかと思います。粒立ちの良いティンパニーで、銅製で椀形の胴から来る倍音の多い響きが確認できます。芯が無いとつまらない音になります。スピーカーの周波数特性よりも過渡特性が影響しそうです。私の場合250Hzぐらいから自作ホーン(メルマガバックナンバー131,159,161号辺り参照)にしましたら、あっけに取られるほど表現力が上がり、まだ十分とはいえませんがティンパニーの醍醐味?を味わえるようになりました。音が圧力を持ってやって来ますので、皆様も是非ご検討下さい。1:50〜オケのテュッティが続きますが、録音エンジニアのブレンド力と言うかトランペットハイトーンを品良く歪み無く載せています。硬かったり、鋭く感じたらシステムに問題があります。トランペットはイメージから音が高いと思い込みやすいのですが、基音で約150〜1000Hzですから、10倍音まで考えても周波数的に苦しくありません。これまた特に過渡特性の良い、質で勝負の再生努力が必要です。トランペットを追うあまり、ツーイターのレベルをあまり上げないで下さい。とにかく鋭い中にも柔らかさ、澄んだ響きがあるのです。音迷人の感じではこの録音は少しVn2群の音量が遠いと思います。しかし[新世界]ならではの各パートの音色、メロディーが明確にかつ調和して聴こえます。「へーこのパートはこんな音形で面白いメロディーを弾いているんだなー」と良く解ります。指揮者の後ろ10mの極上な席ですな。 |
|
第2楽章:ラルゴ:50秒後、有名な「家路」となった主題がコールアングレー(フレンチホルン)の物静かな憂いのある響きでゆっくり、たっぷり奏されます。この楽器の2枚リード(オーボエ族)特有な音質を感じてください。音の吹き出しの「ウプッ」という一瞬の表情が解りますか?この楽章は総じて木管楽器が活躍しますので表情を良く確認し、「らしさ」が出ているかを聴いて下さい。さらに弦のピアニッシモのたなびく様な合奏が再生できることです。この感じはこの曲のこの楽章で顕著ですが、色々な曲に出てくる重要な弦の表情です。つまり全体的にはシステムのバランスとS/N比が良く再生鮮度が高いことです。11分過ぎから弦楽四重奏風になりますが、静かな静かな空間が(感じが)眼前に展開します。 (曲想写真:遠い昔ドボさんも涙して見た夕日・・) |
|
第3楽章:一転して躍動する、民族的な色合いの楽章です。散りばめられたトライアングルが浮き出てくるように再生できればと思いますが、ソフトにちゃんと入っているかです。今まであまり申し上げなかったのですが、一つの方法として、ご自分で満足する、「生」と近いなと思われるヘッドホンを定め、これとスピーカー再生と比較する方法があります。はなからお勧めしなかったのはこれを行うと一寸ヘッドフォン再生音が良くて、スピーカーの粗が目立ち、がっかりするからです。かといってヘッドホン長時間聴取は、耳にも良くありませんし不自然です。しかしヘッドフォンで聞こえない音や、ヘッドフォンよりグレードレベルの高い音は、早々スピーカから出てはきませんので、比較の方法としてかなり使えるでしょう。只部屋に放出された音の効果(例えば圧力、体感振動、悪くは部屋の定常波など音響の癖)は有りませんのでご注意下さい。 続いてトランペット吹き上げ、ホルンのあおり、ティンパニーのロールなど楽しめます。3:25〜フルートとトライアングルの掛け合うところもチェックどころです。あと最後のフォルテッシモの「和音一発」の響きを覚えてください。これは生と比較し易いし、大まかな周波数バランスチェックとなります。先にあげたトスカニーニのこの和音は当時最高でした。 |
|
第4楽章:分厚い弦の合奏から入ってホルンの主題強奏に入ります。この弦で低音が少し遅れて音が消えますが、沈み込むような感じが出ていますか?この楽章は各楽器が色々な形で固有の音色を出しています。これをほぼ総て聞き分けてください。初めに述べた江崎トーンで、柔らかいのに良く通るトランペットハイトーンを堪能できます。(江崎氏はトランペッターです。)ホルンが裏で「ぽーぽぽぱぽぱぽーぱー」等と味のある旋律を刻んでいます。装置を換えたり、チューンすると、良くも悪くも反応し、音の出方、固まり方、柔らかさ、音質の自然さなどがその都度変わるのです。不思議な楽章です。(私はこの章を2000回は聴いているでしょう)チェックするところは端から端まであります。今まで述べたと同じようなポイントで、貴方の満足度の高い再生を確認してください。迷ったら数日休んで再挑戦です。ツーイターを抑えることを覚えてください。 つづく |
|
おまけ:◆オーケストラとはどんな意味だったのでしょうか?ご存知ですか?音迷人は調査してきましたので簡単にお話しましょう。ギリシャの時代にさかのぼるのだそうです。良くパルテノン神殿やアクロポリスの丘の話は出て来ますので、何となく承知されていると思います。掲載したような写真もご覧になったことがあるでしょう。これはアクロポリスの丘のふもとの円形劇場ですが、これで説明しましょう。 自然の傾斜を利用して半円錐の階段状観客席があり、底のところが半円形で石畳のヤードがあります。そこから少し高くして客席に向かい合う舞台がありますね。半円形の「平たい場所」は「オルケストラ」、舞台は「スケーネ」と呼ばれていたそうです。「オルケストラ」は踊る:オルケスターイからきた「踊る場所」でしょうね。ギリシャ悲劇や喜劇を上演するときは、スケーネに数名の俳優が登場して主に「せりふ」を担当し、音楽は「コロス」と呼ばれた合唱、器楽部に任されていた。(コーラスの語源だろうな)コロス達は「オルケストラ」に陣取り進行係(指揮者)の合図の元、歌ったり、琴を奏でたり、踊ったりしたそうです。 |
|
16世紀になってギリシャ悲喜劇を復興しようと言う試みから、今のオペラ芸術へと進んでくるそうです。当然上演する場所は、屋根を付けた円形劇場風の構造になってくるでしょうね。そこでモンテベルディーなどの作ったオペラを演奏する楽器集団を「オルケストラ」と呼ぶようになったのです。この時代から後のオルケストラ活動についてはまたの機会に致しましょう。 ◆この「オルケストラ」の文案を頭に描きながらの調査旅行?で写真のような「オルケストラ」に本当に偶然に出会いました。タダで入れる八幡岬公園です。予定していなかったのに、昼飯に寄った安房勝浦海鮮料理「SAKANA KOUBOU濱扇」の女将がすぐ近くで外洋の眺めが良いからと勧めてくれたのです。「SA・・扇」で検索できます。 それにしても探しても行けない岬の中に「オルケストラ」がピンポイントでそこに在るなんて?3月3日付けメルマガ、シミオナート選手の偶然に続いて「不思議」です。(写真下) |
|