ハイファイ堂 ”ヴィンテージサウンドフェスタ”報告 ”アナログレコードコンサート” 8/31、3時開演と9/1、12時開演を聴く in 大丸京都店6階イベントホール |
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京都に行くことになった。目的は大丸京都店で開催するハイファイ堂のイベントを取材してくることである。 せっかくなので図書館で京都のガイドブックを借りてきた。一口にガイドブックといっても山とある。およそ京都を語るには単なる旅ガイドに収まりきらないらしい。 適当に数冊を選んで読み比べてみると、「温故知新」「通」などといった単語がよく出てくる。これが世界中の人々を魅きつける京都を表す要素であるようだ。 |
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ならば、ビンテージオーディオを扱うわがハイファイ堂と京都というお土地柄は相性が良いといえそうだ。 いや、オーディオの歴史などたかだか100年に届こうかというもの、1000年都である京都に居並ぼうなど笑止と一蹴りされてしまうかもしれないが。 |
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ハイファイ堂京都店は地図上では意外にも京都のど真ん中にある。大丸京都店に行く前に、この度初めて訪れた。京都市役所とホテルオークラの間を北に進むと、およそ古都の風情のみじんも感じられないごくありふれたビルの1階に店は存在する。気をつけていないと通り過ぎてしまったくらいだから、掲げるのに苦労したわりにあまり機能しているとは言えない看板が目印といえば目印だ。 |
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存在感の薄さにおののいてしまったが、京都の日常にいつものハイファイ堂がすっぽりと収まっているということだろう。 |
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ハイファイ堂京都店の静けさに比べ、そこから二条ほど南に下ったところにある大丸京都店は、堂々古都京都の老舗デパートの貫禄とにぎわいを見せている。烏丸河原町は新旧繁華街の要にあり、夏休みの最後の週末ということもあってか、通りは国内外の観光客であふれかえっていた。 |
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ハイファイ堂は7月下旬から8月初めまで大丸京都店にてすでに共催イベントを行ったところだが、日を置かずしてまた大丸京都店で「ヴィンテージサウンドフェスタ」を行うことになった。今回は会場がさらに広くなり、やや閉じた空間を確保でき、せいせいと音が出せる。ハイファイ堂スタッフによるレコードコンサートをと大丸京都店から嬉しい提案もあり、全店から選りすぐりのスタッフが日替わりで担当することになった。 |
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フェスタ開催直前にコンサートのプログラムが送られてきたが、驚いた。 2週間に渡って7人のスタッフが2日ずつ担当する。しかもテーマは日替わりで、つまり、一人で2つのテーマを用意しなければいけない。一日に1時間のステージを3回行う。なかなかハードだ。 プログラムの内容もバラエティに富んで、それぞれ興味深いものばかり。音楽が好きな人なら毎日通っても飽きることはないだろう。 ハイファイ堂は音響機器を扱うプロ集団である。手前味噌だが、音楽に造詣の深いスタッフも多い。仕事にかこつけて旅の楽しみにうつつを抜かすつもりが、実のところ、このプログラムを目にした時点でそんな邪心は薄れてしまった。 |
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大丸京都店6階の宝飾店売り場の奥にイベント会場がある。 入り口では、パラゴンが出迎えてくれた。木目が美しくレストア品とは思えない丁寧な仕上がりだ。手前に北欧のリラックスチェアが置かれ、絵になる。反対側にはタンスほどの大きさのBOZAK、会場のエントランス部分には蓄音機、ESLのセットが並ぶ。それぞれが十分な音空間を保って配置してあるので、お店で見るより存在感が出る。 色とりどりのレコードが広い会場の壁面を飾り、壮観だ。小さな博物館や美術館のようでおしゃれである。 |
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左:試聴セットを前に会場全体写真 右:入口付近のESLセット(8/31撮影) |
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日曜日の午後でお客様の入りも良い。3時の回がもうすぐ開演だが、すでに真ん中のソファに陣取り、JBL4343を写真にとっておられる方もいる。鳴っているセットの前でプレーヤーを覗き込んだり、CDラックを眺めたり、やはり落ち着いた年代の方が多い。時折、お買い物の一休みに立ち寄ったという様子のおしゃれな母娘を見かけた。お母様の方がレコードを見ながら懐かしがってしきりに娘に何かを語っていた。 |
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3時の回が始まった。8月31日、今日の担当は昨日に引き続き佐々木二朗だ。タイトルは『平成の曲をレコードで聴こう!JAZZ+洋楽編』。佐々木はこれで通算5回目の公演なので慣れた様子。最初に黒いジャケットから黒いレコードを取り出してかけた。これは、NHKのEテレで放送している「デザインあ」という番組のサウンドトラックである。レコードが出ているとは知らなかった。佐々木の言う通り、スピーカーのあちこちからいろんな音がする。見えないはずの音という絵の具でスピーカー前の空間をカンヴァスに絵を描いているようだった。 |
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このレコードを皮切りに、世界でアナログレコードが新たな潮流となっていると語り、デジタルデータの時代にあって、あえてリリースされたアナログレコードを次々に紹介した。 中でも印象的だったのは、ラジオでもよく耳にするノラ・ジョーンズの"Come Away With Me"だった。ボーカルがきれいに浮かび上がり、枯れたピアノがせつなく響く。 コンサートの間、用意された座席はほぼ満席。目を閉じてじっと聴き入っている人、リラックスチェアの足置きに靴を脱いで足を置き、ゆったりと身を委ねている人。途中で席が空いてもすーっと別の人が入る。 なりたかったがなれなかったというエリック・クラプトンをラストナンバーに選んだ佐々木が、アナログレコード「愛」について熱く語り終えると、静かな拍手が広がってコンサートは幕となった。 |
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ノラ・ジョーンズのレコードジャケットを手に紹介する佐々木(8/31撮影) |
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さて、普段私はこのメルマガの編集を行うなど在宅で仕事をしている。そのため、店舗のスタッフと顔を合わせることは滅多にないが、毎週誰かが書いたメルマガの原稿を読んでいる。内容のほとんどがお奨め商品の紹介だが、中には音楽やオーディオに関してあっと驚くような博覧強記ぶりを発揮するものがいる。 今回のプログラムを担当するのはみなメルマガでも楽しい話題を提供できるつわものたちだ。執筆者本人と話ができるのを楽しみにしていた。 |
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9月1,2日を担当する渡辺正はもともとは土日を担当する予定でいたが、コンサートのテーマを社長に提出したところ、あまりにマニアックで土日の午後に聴くにふさわしくないと担当日を変更された。 メルマガでは'50s〜'60sの黒人ダンス音楽、昭和歌謡など殊に「裏ぶれた」音楽文化を中心に独自の視点で語る力作が多い。クレージーケンバンドのライブレポートが個人的にも楽しく、印象に残っている。 |
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いよいよ対面かなった渡辺は、僧衣をまとえば優しい口調でありがたい説法が聞けそうな風貌だ。しかし、足下はいつぞやのメルマガで取り上げていたハルタのドクターシューズと秋を先取りしたアーガイル模様のソックスで決めている。やはりこだわりの人なのだ。通勤時にはハンチング帽にサングラスという出で立ちに違いない。 |
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渡辺が担当する最初のコンサートは月曜の12時からということでさすがにお客様はまばら。まあ、練習を兼ねてと言いながら始まったが、落ち着いたトークは歌謡番組の司会者ばりである。 |
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渡辺がフォーカスしたのは'50s〜'60sのNYジャズシーンの混沌、アフリカ系黒人と一括りにされてしまうプエルトリコやキューバの若者たち。渡辺お得意のブーガルーだ。 |
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渡辺がメルマガで懸命に解説しようとしていたことが、実際に聴いてやっと理解できた。なつかしのシングルレコードがほいほい出てくるので、さぞマニアックな音楽かと構えたが、しっかり現代につながる線上に並んでいるので聴きやすく、まったく古くさくない。また、社交ダンスに親しんだ年代ならラテン系のダンスナンバーとして聴きなじみがあり、広い年齢層に受け入れられやすいだろう。なるほど埋もれさせておくにはもったいない。 1時間が瞬く間に過ぎた。始まった時には空席だったソファにはいつの間にかお客様が座り、笑顔で拍手を送っていた。渡辺自身が用意したレコードもおそらくすべては紹介しきれなかっただろう。 コンサートの余韻に浸りながらソファでくつろぐお客様に渡辺が話しかけている。聞き耳を立てるとオーディオではなくソファの説明であった。これも手前味噌だが、ハイファイ堂のスタッフは柔らかでホスピタリティにあふれた人物が多いような気がする。 |
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佐々木といい渡辺といい、レコードや音楽に対する情熱を思い思いの形にして楽しんでいた。もとは大丸京都店の提案から実現した企画だが、生き生きと取り組んでいるのはむしろハイファイ堂スタッフのほうである。自社にとっても埋もれた可能性を見いだすことができたイベントではなかったか。 このあとまだまだ他のスタッフによるコンサートが続くが、一体どんな音楽を聴かせてくれるのだろう。できれば毎日聴いてみたかった。 実際に毎日聴きにきてくださるお客様がいるという。ありがたいことだ。 |
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この週末は、やはりメルマガを読む度にうんちくの深さにうなり声をあげてしまう、朴高史が登壇する。土日はハイファイ堂でクラシックのことはこの人に聴けと言われる三浦公也だ。殊に7日(日)はワーグナーを鳴らす。コンサートのトリを飾るのは、多くのアーティストを輩出する西の音楽の都、福岡から福永正和。 スタッフの大半は私物の”とっておき”を専用の鞄に詰めてコンサートに臨んだ。できるだけ多くのみなさまにぜひ足を運んで、耳を傾けていただきたい。 |
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ゆったりと聴き入るお客様。奥にCDラックが見える。(8/31撮影) |
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佐々木がアナログレコード「愛」について語ったように、今や一頃よりアナログレコードが復権しつつある。 コンパクトで持ち運びの利便性に優れ、大量の音源をデータとして格納できる一方、なおもアナログの魅力には語り尽くせぬものがある。とはいえ、私自身は今までそんな違いを実感したことはなかった。CDを初めて聴いたとき、明瞭でクリアな音質に感動した記憶がある。アナログの魅力を語る言葉のあいまいさかげんもあって、実は長いことアナログレコードの「良さ」がわからなかった。 その理由が今回JBL4343を中心としたオーディオセットで聴いて良くわかった。もしかしてオーディオが優れていればいるほど、アナログレコードに刻まれた圧倒的な情報量を余すことなく表現でき、より魅力的な響きを作り出せるということではないか? つまり私の過去のCDとレコードの聴き比べ環境がちょいとおそまつだったということらしい。薄いラジカセでは無理もなかった。ハイエンドとまでいかなくてもそれなりの環境を整えて実際に聴いてみれば、CDよりもアナログレコードを支持する人が増えるだろう。 |
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コンサートの途中でスタッフがレコードの針に着いたほこりを丁寧に取っていた。1曲目以外はレコードの曲の切れ目を見定めてちょうどよいところに針を落とさなければいけない。スタッフがレコードを操作する姿を見て、レコードを聴くにあたって生じる様々な手間ひまを懐かしく思い出した。またレコードプレーヤーを触って、レコードに針を落として、音を鳴らしてみたい。 レコードやビンテージオーディオの魅力は身体的な実体験を伴って得られるものである。ここに、世界中から多くの人が引きも切らず訪れる京都とハイファイ堂とのささやかな共通点が見えてくる。 ぜひ、おこしやす。 (記:メルマガ編集スタッフ/横井昌美) |
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