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第10回 美術館で聴く七夕コンサート『バロックの煌きVol.2』
2005年7月6日平塚美術館にて開催 ちょっぱらさん
旧暦の七夕あたりに開催される仙台の七夕祭りは全国的に有名ですが、わが町神奈川県平塚市でも7/7前後の数日間にわたって、毎年七夕まつりが催されるんですよ。駅前商店街を中心に大きな竹飾りで彩られるので、連日浴衣などで着飾った人々でたいそうな人出になります。まあ、子供たちの関心はお飾りよりももっぱら、通りを埋め尽くす屋台でしたけど。雨天に祟られて、客足の鈍った日もありましたが、今年もまずまず盛況にお開きとなったようです。
その七夕前夜祭の企画で「市立美術館」にてバロックコンサートが開かれるというので、入場料千円というお手ごろ感も手伝って、小4の娘を連れて聴きに行くことにしました。
平塚市美術館は小規模ながらなかなか立派な建物です。入り口と大展示室をつなぐのが、かまぼこ型の屋根のホールになっています。ちょっとパリのオルセー美術館を思わせるこのホールでコンサートとは、なかなかおしゃれな趣向です。つめたい手触りの大理石の空間に響く音の世界、考えただけでも胸が高まります。
オーケストラ(以下オケ)はチェンバロを加えた十数人の弦楽団にフルートやオーボエなど5人のソロ奏者を順に迎えます。以下に当日のプログラムに従って感想を述べたいと思います。
1曲目はパッヘルベルのカノン。やさしいメロディがさざ波のように繰り返し、広がっていくおなじみの曲。ところが、なんとすぐ脇のスピーカーから音が飛び出してきました。マイクの拾う音が際立って、ホールの残響が生きてきません。オケの立ち上がりも今ひとつでなんだかたるいカノンです。
2曲目はフルートのN響首席の神田寛明さんを迎えてヴィヴァルディのフルート協奏曲ト短調「夜」。明るく喜びに満ちた「春」などとは異種の不穏な曲想。フルートの太い音色がまさに亡霊の吐息となって陰鬱な闇のトンネルを吹き抜けます。
次はベルリン・ドイツ・オペラ管弦楽団首席の渡辺克也さんのオーボエ協奏曲第3番ト短調(ヘンデル)。求心力のある演奏でオケをぴったり一糸に導いていきます。包容力のあるやさしく力強い音色は華があります。気品をただよわせた余裕のある演奏でたっぷりと聴かせていただきました。オケの調子もすっかり整ったようです。
テレマンのビオラ協奏曲ト長調は地元にお住まいの百武由紀さん、情感豊かでビオラという楽器の新しい魅力に気づかされました。
バイオリンとオーボエのための協奏曲ハ短調(J.S.バッハ)。バッハの楽曲の面白さは他のバロック作曲家とは、一線を画する気がします。単に神への讃歌に止まらず、神を畏れる小さきものへの深い洞察とあふれる情愛を感じさせるからです。コンサートマスター(以下コンマス)の木野雅之さんと渡辺さんのやり取りが時に妖艶、時にコミカルでさえありました。
休憩を挟んでの1曲目はコレッリの合奏協奏曲ト短調Op.6-8、「クリスマス協奏曲」の名で有名な曲です。チェロが縦に細長いホールの隅々まで行渡り、のびやかに歌い上げ、オケを率いていきます。キリストの降誕を祝ぎ、平和への祈りを捧げ続けるかのように静かに静かに音が消えていきました。あれ?おわりかな?コンマスとチェロの方がにこにこ顔を見合わせながら立ち上がり、ややあって照れ笑いも混じった拍手がひろがりました。
最後はJ.S.バッハの「ブランデンブルグ協奏曲」第2番ヘ長調。バイオリン・フルート・オーボエにトランペットの独奏楽器を加えたこの曲は、トランペットの難曲として知られ、なかなか演奏される機会がないとのこと。当夜は元ベルリン・ドイツ・オペラ管弦楽団首席の田宮賢二さんを迎えて実現した貴重なプログラムだったといえます。4人の独奏者を中心に幾多の美しい和を結び、”楽の喜び”で会場を満たしていくようでした。
アンコールでは、渡辺さん自らマイクを取って、曲紹介にソリストたちのCDの宣伝と愛嬌たっぷりに話されていました。今日びクラシックの音楽家さんも営業がたいへんなのですね。その甲斐あってか、販売のスタッフに「さっき、最後にしゃべってた人のCD頂戴」とさけんでいた奥方がいましたっけ。かくいう私も渡辺さんのCDを購入し、サインと握手をしていただいたのでした。
ここは音楽専用ホールではないので、音響には多少の難ありと割り切るべきでしょうが、実際にはスピーカーに慣れるまでは鑑賞に集中できず、残念でした。まだ工夫の余地があるように思います。とはいうものの、実力あるメンバーによる盛りだくさんのプログラムで、演奏自体はとても楽しめました。思ってもみない贅沢な一夜がこんなローカルなところにも潜んでいるものですね。雲の上の星の煌きに思いをはせながら、会場を後にしました。
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