こんにちは、レコード店の片岡です。今回もレコードのお話をさせて頂きます。 早速ですがこちらのアルバム。 90年代に大ヒットした「愛は勝つ」で有名なKAN氏がセルフ・カバーをした新作「la RINASCENTE」です。 |
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注目はジャケット・デザイン。音楽好き、ジャズ、ロック好きの方、それ以外の方でも何となく、、、と言った感じでしょう、そうドナルド・フェイゲンのナイト・フライのオマージュになっています。 なかなか素敵に仕上がっておりますが、出来ればフェイゲンのオリジナル盤に忠実にKANと la RINASCENTEの文字はブルーとターコイズの2色にして欲しかったと言うのは音楽好きではなくレコード好きの野暮と言ったところでしょうか。 |
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この元となったドナルド・フェイゲンのアルバムは内容もさることながら録音の良さからオーディオの試聴盤としても有名です。高音質ということもあり初版オリジナルのレコードが欲しいと言う方も多いのですが、初版となるとこれが意外と厄介な盤なのです。まず初版はWARNERから発売されており、レコード番号は1-23696のなります。ジャケットは先ほどの文字が2色のものになります。センターラベルは茶色と白色の2種類あるようですが、ラベルでは正確にどちらが初版かは判別できません。 |
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じゃあどこで判別するかというと、センターラベルの外側、音のない円周、ランアウト(※)と呼ばれる箇所を見ることになります。上のラベルの周りの黒いところです。 ※ランアウトの他にデッドワックス、テイルオフ、ランオフなど様々な呼び名があります。 ちなみにラベルを気になりだすのはレコード好きの入り口、ランアウトを気になりだすのはレコードマニアの入り口だと思っております。 |
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このランアウトに刻まれている情報は基本的には規格や通し番号等などプレスの業務上で必要なもので購入者のために表示する目的ではありません。 表記は決まりがなくレコード会社によって様々です。シンプルなところもあれば、ありとあらゆる記号が刻まれているものもあります。 ワーナーは比較的多くの情報が刻まれています。まずフェイゲンのランアウトで最初に確認するのは手書きのRLの刻印(写真下左上)です。この刻印は重要です。この刻印は今でも現役のトップ・エンジニア、ボブ・ラディックのカッティングの証になり、ジャズのRVG刻印(ヴァンゲルダー・カッティング)と同様にロックの高音質盤の一つの符号になっています。ストーンズやレッド・ツェッペリン(セカンド)やポリス〜マドンナなどなど数多くのロックの名盤に刻まれているRL、同じ作品でも刻印が有るか無いかで価値が大きく変わってしまうものもあります。 そして次にSLMの刻印。(写真下右上)これはSHEFFIELD LAB MATRIXの略であの高音質で有名なSHEFFIELD LAB社の工場でマザーを作成したことを意味します。そしてMATER DISK刻印。(写真下左下)これは詳細はわかりませんがマスターから起こしたよという証でしょうか。まとめるとボブ・ラディックがマスターテープからカッティングして作ったマザーでプレスしたレコードということになります。そして通称「Ludwig Hot Mix」と呼ばれ、一応初版と認められています。一応というのを補足するとプロモ盤(見本盤)だけQuiex IIと呼ばれるカッティングが施されており(塩ビの材質の違いのようです)、このプレスこそが最強の高音質盤と呼ばれています。更に補足をすると「Ludwig Hot Mix」の中でももちろん有る程度プレスの回数によりマトリクス(鋳型)が変わります。私の盤ではSL2(写真下右下)と表記されており、これは2つ目の鋳型(マト2と言います)からプレスされたことを示し、これもおそらくこの作品はSL1から順番にあるようで、通称マト1が正真正銘の最初のプレスということになり、これを初版と呼ぶ方もいます。ここまでくると初版の捉え方に個人差が出て来てしまいますが、一般的には3つの刻印が両面にあれば初版と言われています。 このようにランアウトが出てくると、大変な長文になってしまい自然とマニア感が出てしまいます。ですので気にしないと言う方もいらっしゃいます。ただ、どうしても気にしないといけないLPも出てきます。 |
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それがビートルズです。ビートルズはデビューから爆発的に売れたため、とんでもない数のプレスがされました。同じラベルでも何千、何万もプレスされたことから、一概に同じラベルは同じ時期のプレスと言い切れないところがあります。ですので自然とランアウトの情報が必要になってきます。ちょうど手元にビートルズの「WITH THE BEATLES」のUK盤がありますのでランアウトを見てみましょう。ビートルズのレコード会社はEMIになります。EMIは比較的ランアウトの情報が整理されています。時計の6時のところにレコードの型番とその後ろにマトリクスの番号があります。そして9時のところに何枚目のメタルマザーかを示す番号、3時のところに何枚目のスタンパーかを示す番号が刻まれています。手元のものですとA面は6時にYEX 447-5N、9時に7の刻印、3時にHPと刻まれています。アルファベットはEMIコードと呼ばれるG.R.A.M.O.P.H.L.T.D→1.2.3.4.5.6.7.8.9と変換します。このレコードですとHP→76となります。 つまりこのUK盤はマト5(5版目)から作られた7枚目のメタルマザーから起こした76枚目のスタンパーでプレスされたレコードになります。またこれはA面のみ情報になり、B面はまた違うプレス情報になります。B面は6時にYEX 448-7N、9時に2の刻印、3時にGOとなりA面よりも後ろの版でプレスされたことがわかります。 このようにビートルズのレコード、特にUK盤になると、ジャケット、ラベルに付随してランアウトの情報を記載、重視することが多くなります。 またEMIのレコードは基本的にすべてこの方式でランアウトに製造情報が刻まれています。クラシックのレコードでも同じで、HMVや英COLUMBIAレーベルの古いレコードでもこの方式でランアウトに情報が刻まれています。 |
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次いでにもう一つ、クラシックの名門でありストーンズの作品などロックレーベルでも大きな功績を残したDECCAも見てましょう。レコードはシューベルト:弦楽四重奏第8番、イタリア弦楽四重奏団です。DECCAレーベルでもかなり古い50年代にプレスされた最初期盤になります。 DECCAは時代とともにランアウトの情報がシンプルになっていきます。最初期の頃が情報が多くここを覚えておけばそれ以降もカバー出来ると思います。時計の6時のところにレコードの型番とその後ろにマトリクスの番号、そしてその後ろのアルファベットは担当エンジニアのイニシャルになります。そして9時のところに何枚目のメタルマザーかを示す番号、3時のところに何枚目のスタンパーかを示す番号が刻まれています。また12時のあたりにアルファベットでタックス・コード(当時のイギリスの仕入れ税率)が刻まれています。このレコードですと6時にARL1371-1C、9時に2の刻印、3時に「B」、12時に「N」となります。(写真が見づらくすみません。肉眼でもかなり見づらいのです。) アルファベットはDECCAコードになりB.U.C.K.I.N.G.H.A.M→1.2.3.4.5.6.7.8.9.と変換します。このレコードですとB→1となります。 つまりこのUK盤はマト1(1版目)から作られた2枚目のメタルマザーから起こした1枚目のスタンパーでプレスされたレコードでイニシャルCから始まるエンジニア(誰かは不明)が担当したことになります。「N」の税率コードを調べると1953年頃の50%になります。この作品のほぼ最初のプレスということになります。 |
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クラシックのレコードの初期盤はまだレコードが大変高価だったこともあり、絶対数が少なく比較的若いプレスのものばかりになります。ビートルズを初め何万とプレスされたレコードは相当なプレス回数になりマトリクスは10以上になるもの、スタンパーは3桁になるものもあります。ですのでマト1、マト2という記号が大きな意味を持って来ます。すべてのレコードのランアウトには必ず何かの情報が刻まれています。是非チェックして見てください。 正直なところプレスと初版についてもっと細かいこともあり、書き切れてないこともあります。思わぬ長文になってしまい自分も焦ってます。ですので次回を後編として、補足をかねてもう少し分かりやすく紹介したいと思います。 |