こんにちは、ハイファイ堂レコード店山本です。 梅雨も明け、本格的な夏の季節になってきました。熱さに参りそうですが、画像だけでも涼し気にいきたいと思います。 今回はビル・エヴァンスについて書こうと思います。エヴァンスのトリオ・サウンドを語るときに欠かせないのはベーシストだと思います。レギュラー・トリオに在籍したベーシストの中で特に重要なのは言わずもがなスコット・ラファロとエディ・ゴメスだと思います。スコット・ラファロ、エディ・ゴメス在籍時代のアルバムを改めて語っていきたいと思います. |
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ビル・エヴァンスが目指したピアノ・トリオの理想形はピアノ、ベース、ドラムが対等の立場で音楽的対話を繰り広げるというものでした。エヴァンスは、当時のジャズの定番スタイルであった「メイン楽器を引き立てるために他の楽器が従属した形」になってしまうのが不満だったそうです。それについてエヴァンスは「クラシックの曲だって、ソロになるまでずっと停滞して動かないパートというのはないんだ。ある一声が徐々に大きく聴こえてきて、そして全面に出ると言ったような、移行部や展開部があるだろう。」と当時のインタビューで語っていました。エヴァンスが目指した理想のピアノ・トリオ像の原点にあるのがクラシックというのはとても興味深く、またらしいともいえます。 そして1959年「ファースト・トリオ」スコット・ラファロ、ポール・モチアンとトリオを結成し活動を始めます。 特にエヴァンスはスコット・ラファロの才能を高く買っていて当時のインタビューでこう語っていました。 「彼は素晴らしいベース奏者であり、また才能の持ち主だった。しかもその才能が吹き上げる油井のように湧きこぼれていた。……まるで乗り手を振り落とそうとするあばれ馬だった。」 そんなエヴァンスの言葉を噛みしめながらリヴァーサイド4部作を聴くと改めてラファロの存在が大きかったのだなと思います。トリオ結成後、3人はNYのジャズ・クラブで積極的に演奏活動を繰り広げていました。スコット・ラファロという天才を得て、自らが理想が着実に形になっていくことを確信したエヴァンスの創造的な興奮は計り知れないものがあったと思います。 そんなファースト・トリオの一つの到達点はやはり「WALTZ FOR DEBBY」といえます。エヴァンスが「あばれ馬」と称したラファロの天衣無縫なベース・プレイに感化しインスピレーションに満ちたプレイを披露するエヴァンス、その二人の演奏が破綻しないよう卓越したプレイで支えつつ自己主張をするモチアンのドラム。絶妙なバランスで繰り広げられるトリオ・サウンドはエヴァンスのピアノ・トリオの美学が一つの完成形をみせた記念碑的な演奏といえます。 |
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理想のサウンドを手に入れたかにみえたエヴァンスですが、1961年7月6日、スコット・ラファロが交通事故で死去という悲劇が襲います。ショックを受けたエヴァンスは演奏活動を休止してしまいます。 その後少しずつ演奏活動を再開させていきますが、かつての様な精彩さは失われたように感じます。そんな中1966年に運命的な出会いがありました。それはエヴァンスのレギュラートリオ歴代最長期間在籍したベーシスト、エディ・ゴメスとの出会いでした。 ジェリー・マリガンのバンドに参加していたエディ・ゴメスの演奏を聴いたエヴァンスがマネージャーを介してアプローチしてきたのがきっかけでした。それから11年間エディ・ゴメスはエヴァンス・トリオの活動を続けますが、この時期の代表作はやはり「Bill Evans at the Montreux Jazz Festival」になると思います。 エディ・ゴメス、ジャック・ディジョネットによるトリオ・サウンドは、エヴァンスのプレイに積極的に反応していくエディ・ゴメスとアグレッシブに二人を焚きつけていくジャック・ディジョネットのドラムがかつてのファースト・トリオとは違った躍動感を生み出し、エヴァンスのトリオ・サウンドが新たな局面を迎えたことを告げる印象的なアルバムです。 |
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ビル・エヴァンス、エディ・ゴメス、ジャック・ディジョネットという編成で聴けるのは先に挙げた「お城のエヴァンス」のみと言われていましたが、実はエヴァンスの正規ディスコグラフィーにも存在が確認されていなかった完全未発表音源というものがありました。それが本作「Some Other Time」これはモントルーでのライヴの5日後、ドイツMPSレーベルのスタジオで録音されたもので、もともとはアルバムとして発表される予定だったのがお蔵入りしてそのまま日の目をみる機会もなく眠っていた音源だそうです。 この時のレコーディングは、録り直しなし、おしゃべりなし、休憩は煙草を一服するのみというルールで行われたそうです。実際に聴いてみると、今まで聴いてきた既出の音源とは趣の異なる印象を受けます。トリオでの演奏の他、ベースとのデュオ形式の演奏も収録されており、エヴァンスがエディ・ゴメスとの更なる可能性を追求していたことが窺えます。他にも既出の音源では滅多に聴けないような珍しい演奏も聴けるので、トリオ・サウンドが次のフェイズに向かう過渡期のような時期の演奏と言えます。 もともとスタジオ音源自体多くないエヴァンスなので今後も未発表ライヴ音源という形でエヴァンスの「新譜」は発売されるのかもしれませんが、スタジオ録音という形では本作が最初で最後だと言われるほど貴重な音源です。エヴァンス中期のサウンドの変遷をスタジオ録音という形で収めた本作はファン必聴のアルバムといえます。 |
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スコット・ラファロがエヴァンスにもたらしたのは理想とした三者対等の関係性を実現した新しいピアノ・トリオ形式でした。逆に言えばスコット・ラファロという天才がいたからこそ実現できたものといえます。 そしてエディ・ゴメスはラファロの後継者としてエヴァンスに創造的なインスピレーションを引き出す重要な存在として11年間の長きに渡りエヴァンスを支えてきました。 本作はエディ・ゴメスがエヴァンス・トリオに在籍した最後の年にあたる1977年に発表された「I Will Say Goodbye」。エヴァンスのトリオ・サウンドを完璧な正三角形に例えるとこの頃のトリオ・サウンドはその完璧な正三角形が少しずつ綻びを見せていく様になります。エヴァンスを蝕んでいたドラッグが如実にサウンドに影響を与えていることが分かる様になります。しかしながらいつものように叙情的でさらに耽美な雰囲気を纏う様になったトリオ・サウンドが胸を打つアルバムです。 |
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ビル・エヴァンスはクラシックのピアニスト、アルトゥーロ・ベネデッティ・ミケランジェリに大きな影響を受けていたそうです。ミケランジェリは比較的レパートリーは多くなく、同じ曲を繰り返し演奏をして楽曲の精度を練り上げるスタイルでした。ビル・エヴァンスもまた同じ楽曲を幾度も取り上げ楽曲を練り上げるスタイルでした。同一の曲も時期が違うと大きく解釈が変わることもエヴァンスの魅力です。改めて様々な時期の様々な編成でエヴァンスの音楽を聴いてエヴァンスのピアノの美学を楽しみたいと思います。 最後までお読み頂きありがとうございました。 |