「ヨーロピアン・ジャズ・トリオ」 ジョビンとクラシック 今週のおすすめはCD2枚です。ご応募いただいた皆様から抽選で各1枚ずつプレゼントします。お名前、送り先、ご希望のCD(「黄昏のサウダージ」か「ベスト・オブ・クラシックス」)を明記の上、下記メールアドレスまでご応募ください。 mailto:merumaga@hifido.co.jp 締め切り日時は5/24(木)21:00です。当選者の発表は賞品の発送をもって替えさせていただきます。 |
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現在最も人気と実力を誇る文句なしのピアノ・トリオ、ヨーロピアン・ジャズ・トリオ(EJT)がオランダで結成されたのは、たしか1988年頃だと思う。初代ピアニスト、カレル・ボエリーからメンバーチェンジを繰り返し、95年に現在のマーク・バン・ローン(p)、フランス・ホーバン(b)、ロイ・ダッカス(ds)のトリオになった。その哀愁漂うサウンドと洗練されたアレンジを特徴として数々の作品を送り出してきた。ヨーロッパ伝統のクラシックを題材にしたものと、ポップ・チューン、スタンダードを材にしたものを交互にしてアルバムを発表してきた。 |
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コンのおすすめCD その1 ヨーロピアン・ジャズ・トリオ 「黄昏のサウダージ」 マーク・バン・ローン(p)、フランス・ホーバン(b)、ロイ・ダッカス(ds) 2006年9月録音 M&Iカンパニー MYCJ-30411 2007/3/21 発売 曲名 1) 想いあふれて 2) ジェントル・レイン 3) オウトラ・ベス 4) アイランド 5) イパネマの娘 6) マシュ・ケ・ナダ 7) スーパースター 8) コルコバード 9) ジョニー・レン 10)黒いオルフェ 11)デサフィナード 12)レディ・ウォンツ・トゥ・ノウ 13)ワン・ノート・サンバ 14)レッド・ラークス |
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今年はアントニオ・カルロス・ジョビンの生誕80周年に当たることからジョビンの曲を多く取り上げている。ユニークなボサノバやブラジリアンのリズムに乗って、クールで叙情的、かつ哀愁を漂わせるメロディで綴っていく。ピアノはもの哀しいメロディの響きではなく、明るくキリッとした音で奏でていく。テーマの設定もかなり工夫を凝らしセンスが良い。マーク・バン・ローンのミュージシャンとしての懐の深さにも感服する。今までもEJTはこのようなボサノバ曲をいくつか取り上げているが、今回は優雅なアレンジでよりいっそう魅力を発揮してくれているのがうれしい。 (1)「想いあふれて」において、自由な感覚のアレンジでロマンティックなメロディで紡いでいくのを聴いただけでEJTの進化が分かるというものだ。続く(2)「ジェントル・レイン」は、ゆったりとしたスローなリズム感で、曲そのものが持つみずみずしい響きを伴うマーク・バン・ローンのピアノの心地よさ、美しい音色、得も言われぬ趣の軽やかなインタープレイである。また寄り添うようにフランス・ホーバンのベースに至っては深く沈みこむ低音の響きが気持ちよく伝わってくるようで好印象だった。ロイ・ダッカスのドラムスもバランスのとれた繊細で透明感豊かに響き、聴くものをEJTの世界へと誘ってくれる。陽気な(5) 「イパネマの娘」(6) 「マシュ・ケ・ナダ」ではボサノバのリズムに乗って聴いていても思わず踊りだしたくなる軽快なリズムをEJTは明るく刻んでいく。ETJのサウンドはいつも心の琴線に触れ、多くのジャズファンに共感を呼ぶ。何時聴いても魅了されるEJTは、ひたすらに美しいメロディ、溢れるジャジーな緊張感、そしてキラリと光る清澄感、これこそETJならではの世界なのである。 サウンドは味わい深くピアノの原寸大の音圧がリスニングルームいっぱいに広がり、それに絶妙に絡むベースの重心の低い響きと、繊細なブラッシングのドラムスが深い味わいを醸し出してくれている。ボッサのリズム感をよりいっそう元気に軽やかに盛り立てていくようだ。 |
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コンのおすすめCD その2 ヨーロピアン・ジャズ・トリオ 「ベスト・オブ・クラシックス」 マーク・バン・ローン(p)、フランス・ホーバン(b)、ロイ・ダッカス(ds) 2006年オムニバス作品(2枚組)M&Iカンパニー MYCJ-30378 2006/4/19発売 このアルバムはヨーロピアン・ジャズ・トリオお得意のクラシック名曲集2枚組である。全31曲まさに至上の味わい、ヨーロピアン・エレガンス、ひたすら美しくメロディを綴っていく。曲名は下記の通りである。昨年はモーツァルト生誕250周年であったので、様々なイベントが開催され大盛況だったときく。そのためではないだろうが、今作はモーツァルトの曲も多く取り入れているようだ。 |
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曲名 Disc1 1) モーツァルト:トルコ行進曲 2) モーツァルト:アダージョ(ピアノ協奏曲第23番より第2楽章) 3) バッハ:G線上のアリア 4) ショパン:雨だれ 5) バッハ:アルマンド(フランス組曲第5番より) 6) バッハ:プレリュード(平均律クラビーア組集第1巻第9番より) 7) グリーグ:朝「ペールギュント」第1組曲より 8) サティ:ジムノベディ第1番 9) ビゼー:ハバネラ(歌劇「カルメン」より) 10)ラベル:アダージョ・アッサイ(ピアノ協奏曲ト長調より第2楽章 11)ブラームス:ハンガリー舞曲第5番 12)ショパン:マズルカ第1番 13)アルピノーニ:アダージヨ 14パガニーニ:24のカブリッチョ 15)ヘンデル:オンブラ・マイ・フ(歌劇「セルセ」よりラルゴ) 16)バッハ:主よ、人の望みの喜びよ Disc2 1) チャイコフスキー:花のワルツ(バレエ「くるみ割り人形」より) 2) モーツァルト:ソナタ第11番第1楽章の主題より 3) ショパン:バラード第1番 4) ショパン:エチュード作品25第5番 5) モーツァルト:悲しみのシンフォニー(交響曲40番第1楽章) 6) エルガー:ニムロッド(変奏曲「エニグマ」より第9変奏) 7) ベートーヴェン:アダージョ・カンタービレ(ピアノソナタ第8番「悲愴」op,13) 8) チャイコフスキー:白鳥の湖 9) シューベルト:アベ・マリア 10) ショパン:プレリュード第4番 11) ベートーヴェン:エリーゼのために 12)ボルフ=フェラーリ:マドンナの宝石(歌劇「聖母の宝石」より間奏曲) 13)プッチーニ:私のお父さん(歌劇「ジャンニー・スキッキ」より) 14)スカルラッティ:天空のソナタ(ソナタ ニ短調k.9) 15)ミヨー:ワルツ(バレエ「夢」より) |
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最初からご機嫌な演奏に魅せられた。Disc1(1)「トルコ行進曲」で見られるように、いきなりすごいスピードとアップテンポでありながら素晴らしいスイングである。迫力ある盛り上がりとクリアな曲が同居しているところがいかにもEJTらしいところだ。最初の1曲に代表されるように、あとの30曲すべてがEJTの良さを物語っているようだ。スピードに乗ったインパクトがある一方、静寂感を漂わせる表現もある。どの曲を聴いても”哀愁のヨーロピアン・ジャズ・トリオ”そのものである。聴き慣れたメロディを十分に生かしつつ、エッジの効いたアレンジで透明感を保ちつつ、クールかつ新鮮なイメージをもたらしながら演奏していくのが素晴らしい。 ヨーロッパのミュージシャンはクラシックを正式に学んだ人が多いときく。マーク・バン・ローンもその一人であったであろう。そうした背景に、ジャズ・ミュージシャンとしての経験と才能が加わり、クラシックの名曲へ新しい息吹を吹き込むことに成功しているのだと思う。クラシック作曲家の意図と演奏者の意志とが美しく呼応した、みごとなアレンジと構成、選曲これはまさにEJTならではのクラシック作品のジャズ化である。 サウンドはピアノの静寂な響きと澄んだ音色がこのトリオの中心となる音である。ドラムスは明瞭で、ベースは深みある音像でナチュラルな臨場感を作り上げている。何といっても31曲全て透明感とエネルギーの伴った響きがとても心地よいものだった。 |