いつもお世話になっております。 ハイファイ堂 京都商品部の滝本です。 3月に入りそろそろ花粉症の症状に悩まされる人もちらほら。 インフルエンザの流行もまだおさまっていないようですので、 皆様もどうか体調にはお気を付け下さい。 さてそんな中、私ども商品部にも流行と言いますか傾向と言いますか、 ここ最近で続けざまにやってくるスピーカーがありました。 JBL 4311、4312のシリーズです。 |
|
|
|
元々、種類や出回っている数も多く、やってくる頻度も高めなこの機種ですが、 最近の数か月では特に連続していました。 今回はその4311と4312を並べて紹介していきたいと思います。 ひとくちに 11、12と言ってもそのバリエーションも数多くあり、 それぞれで使用ユニットや音感も違ってくるので ひとくくりに「11」と「12」を見てみる、とはいかないのですが、 今回はちょうど同時期にメンテナンス作業を行なっていた 4311B(グレー塗装)と4312A(ウォルナット仕上げ)を取り上げさせてもらいたいと思います。 まずはそれぞれ主な仕様を。 |
|
4311B(グレー塗装) 3ウェイ3スピーカー バスレフ・ブックシェルフ型 高:2213H 12" 中:LE5-10 5" 低:LE25-2 1.4” 音圧レベル 91dB インピーダンス8Ω クロスオーバー周波数 1.5kHz/6kHz 再生周波数帯域 45〜15,000Hz 外形寸法 W362×H597×D298mm 重量 20kg/1本 1980年頃 発売 |
|
4312A(ウォルナット仕上げ) 3ウェイ3スピーカー バスレフ・ブックシェルフ型 高:2213H 12" 中:104H-3 5" 低:035Ti 1" 音圧レベル 93dB インピーダンス8Ω クロスオーバー周波数 1.1kHz/4.2kHz 再生周波数帯域 45〜20,000Hz 外形寸法 W362×H597×D298mm 重量 20kg/1本 1986年 発売 |
|
時系列として4312は4311からの後継機になり、 在庫分ながら今なお流通がある4312Eや、 JBL創立70周年記念モデルとしての 4312SE などが 人気を誇っているロングラン商品なのですが、この流れの源泉には 1968年頃登場のJBL 4310というモニタースピーカーがそびえています。 (正確には4310と呼ばれるようになったのは1971年からで、 それまでは単に「JBL Control Monitor」と言われていました) 11、12とご紹介していくにあたって、 その辺りの成り立ちも頭にあった方が面白いかと思いますので、 極々簡単ではありますが少し解説を。 (ご存知の方も多いとは思いますが…) |
|
↑ JBL 4310 前述のとおり、JBL 4310は1971年にその型番を与えられ、 以後JBLを代表するスタジオモニターとして席巻していくのですが、 その開発過程は当時のスタジオの事情などを反映したものでした。 60年代にスタジオモニターのスタンダードとして名声を誇っていたのは ALTECのユニット604(ここではいわゆる銀箱 612)だったのですが、 当時は小さいインディーズのスタジオが多く誕生したり、 8トラック録音が使用され出しているという状況があり、 モニタースピーカーはもっと小さくある必要が生まれていました。 そこでごく単純にそのALTEC 604の音をもっと小さなサイズで 再現しようと開発が始まったのが4310だったのです。 |
|
ALTEC 612モニター |
|
この時点で、4310、そしてそこから4311へ脈々と継がれていく 設計思想というものが決まったのだと思います。 604はモニターという割には「正確さ」よりも「味」が評価されていたようで、 つまりはそういう音を目指して開発していくという事は、 データなどを重視した理詰めな設計よりも エンジニアの経験からくる職人的な調整に頼るところが大きい開発設計がなされ、 そういう方針がこの時には重要視されていたという事です。 そのスタンスは後継機の4311にも引き継がれます。 しかしその後、そうした流れにも変化があらわれます。 まずは1970年代、プロフェッショナル用のJBLから、家庭用のJBLとしての道を JBL L100が開いていきます。 プロの使用でヒットした4310に続き、このL100もコンシューマ機として 大ヒットをおさめます。 L100は、4310が技術的にはそのままで、家庭用としてデザインを リファインさせて成功したというケースで、 この販売モデルはその後のJBLの「プロ用で成功して、それをその後コンシューマで」という形を作り上げます。 |
|
L100人気を押し上げる一因になった(らしい) 当時の日立マクセルのCMの印象的なシーン。 各種動画サイトで実際のCMも見る事が出来ます。 ※画像引用元 Wikipedia [Maxell] https://en.wikipedia.org/wiki/Maxell |
|
そうした流れを踏まえて、続くJBL 4312はプロの使う(認めた)技術をホームユースに持ち込み、 更に訪れつつあったデジタル化の流れに対応するためにその設計思想を より技術的なところを中心に置いたものへとシフトしていきました。 …… 簡単にと言いつつ、長くなってしまいました。 それでも短めにまとめた概要では説明不足で また影響した他の要因も多くあり、 誤解を与えるような所もあるかもしれませんが、 大まかにでもこの背景を知っていると、4311と4312の音のキャラの違いや その他もろもろの違いをより面白く見られると思います。 |
|
それでは以下それぞれのユニットなどを写真付きで見ていきます。 横並びの写真の中で左側が4311B(グレー)、 右側が4312A(ウォルナット)となります。 |
|
|
|
|
|
↑ ウーハーは同じ2213Hになります。 コーン紙にはJBL独自の白いダンプ材、ランサプラスがコーティングされ、 共鳴の抑制がはかられています。 リブ付きのアルミダイキャスト製のフレームが剛性を高め、更に磁気回路部の 振動を抑える役割を果たします。 ボイスコイルにはエッズワイズ巻きの銅リボン線が使われており、 周波数特性の向上が見込めるようです。 |
|
|
|
|
|
↑ スコーカーには違いがあり まず11側が5インチ、コーン型スコーカーLE5-10を搭載。 12側には5インチ、コーン型スコーカーの104H-3を使用。 こちらにはコーン紙にダンプ材が塗られています。 この辺りから、4312のモデルに分かりやすい違いがうまれて来ていて この改良されたスコーカーからもそれが見て取れます。 端的に言えば、現在のソースに合わせやすくなってきます。 |
|
|
|
|
|
↑ ツイーターは 11が1.4インチ、コーン型ツイーターLE25-2。 12が1インチ、ドーム型ツイーターの035Ti。(写真個体はTIAでした) 11Bと12Aには芯にある音の性格は同じとしながらも 明確に「野太めな音」と「より全体的に解像度の上がった音」 といった違いが感じられ それはこのツイーターの違いからの影響もありそうです。 035Tiのチタン材を成型したドームに縁取るエッジは、 日本の折紙をヒントにしているそうです。 写真では分かりづらいかもしれませんが、確かに折り紙的なパターンが見て取れます。 |
|
|
|
|
|
↑ ネットワーク。 先ほど述べた音の違いが生まれる要因は実はここにも多く拠っていて、 4312からの設計における技術的アプローチの割合の高さは、 ネットワークにも多くかかっているようです。 既存の音の性格は変えず、その底を上げるチューニング的な改良。 それを多く担っていたのは(多分)ここネットワーク部だったのでしょうか。 その辺り実際のほどは開発に携わったご当人たちでしか分からないところではありますが。 11側がModel3112B。 コンデンサーとアッテネーターだけのシンプルな造り。 12側も、それでもまだ簡単な作りではある、型番PN 66324−0060。 |
|
|
|
|
|
↑ エンクロージャーの正面と背面。 写真のようにグレーとウォルナットの組み合わせなら分かりやすいのですが、 両方ともウォルナット仕上げになると、まして片方を上下を逆さまにしてしまおう ものなら、11だか12だか途端に混乱してしまうエンクロージャー。 上下入れ替わりの理由に、前述していた時代背景からくる プロ用(天井吊り下げ時のツイーター位置)と 家庭用(床に置いた時のツイーターの鳴り位置)の違いが反映していて面白いです。 その他、ウォルナット同士の組み合わせで混乱した時は、 まあ通常の生活において、中々そんな事で困るなんて事はないのですが、 ペアで比べられる場合は、中・高域のユニット位置で判断する事が出来ます。 4311が左右非対称、 4312が鏡合わせのように左右対称のユニット位置です。 これもステレオ化時代への対応の一環なのかとこんなところにも背景を感じてしまいます。 バリエーションによっては例えば今回の4312Aなどの場合は 中・高域のユニットの取り付け角度の違いと言った事から判断出来ます。 ついでに4311のグレーシリーズが4311、4311A、4311Bと並んでいる時は 背中のターミナルの位置とJBLプレートの有無がそれぞれで違いますから そこから判断出来たりします。 これまたそんな事で悩む機会も、まあ無いでしょうが。 |
|
|
|
|
|
↑ 悩むと言えば、メンテナンス作業時において、この時期のサランを扱う時には とても悩まされる事が多いです。 そもそもの形状が上下左右の4点に細く弱い部分がある事と 素材的な理由からくる経年劣化の激しさ。 その2点から来るフレームの壊れやすさは半端ではありません。 もうヒビとか折れるを通り越して、時には粉々です。 メンテナンス後にはきちんと商品として通用する 強度を保ったものにさせてもらっていますが、 それでもご所有いただいた暁には是非ともやさしーーく取り扱ってもらいたいです。 ひどい時は下写真くらいに。 無残です。 |
|
|
|
最後に、それぞれの音を聴いてみると あらためてそこに至った道程が透けて見えて面白いです。 |
|
|
|
11シリーズ単独の観点で見てみると 初代のユニットマグネット・オールアルニコから 3代目のオールフェライトへの変更した影響が如実に現れているのか、 全体的な音のレベルが上がって聴こえます。 分かりやすく低音の力強さが上がっていますし、 あわせて高域も伸びがあるように聴こえてきます。 全体のバランスが滑らかになったようです。 初代の持つあえてのザラつき感も捨てがたいですが。 次に4312A。 4311Bの後継機としての音の雰囲気は感じつつ、 いざ聴き続けていくとその印象は全く別物に聴こえてきます。 更に音の解像度は上がってそれぞれのユニットが存在感を 力強く主張してくるのですが、ただなんというか、 それが少し頑張りすぎな印象を感じました。 音が派手だなーと。 ですのでエネルギッシュな音楽を望む方には良いと思います。 大人なコンサート的な雰囲気の音楽を聴きたい気分、そんな時は 4311Bの絶妙に滑らかなバランス感が合いそうです。 |
|
長く続いている商品は、特にそのバリエーションが豊かなものは、 いわゆる開発秘話などと呼ばれるように、その背景に 必ず何らかのドラマが存在していて、例外なくそれはとても興味深い、 魅力ある話です。 そういう魅力を内包しているからこそ長く続く製品となるのか、 長く続くからこそドラマが生まれてくるのか、あるいはその両方か、 それは分かりませんが、なんにしてもそういう事実があるという事が 製品にさらなる魅力を与えてくれている事は確かだと感じました。 43〜〜のシリーズも今回の4312だけ取ってみても息の長い製品です。 バリエーションも豊かなのでその前後にも たくさんのドラマがある事でしょう。 それらもまた、どちらかといえば個人的にはドラマの方に焦点をあてて、 機会があればご紹介させてもらいたいのですが、 それこそとても長ーいものになってしまいそうなので 今回のように小出しにでも出来れば…。 43〜〜シリーズをメンテナンスしながらまた準備していこうかなあと思ってます。 それではまた。 |