この季節の都心は、夜になっても息苦しいほどの暑さで、寝不足の日が続いています。連日酷暑の続く今日この頃、皆様いかがお過ごしでしょうか。 ハイファイ堂 丸の内店 廣川勝正です。 さて、今回は1980年に、とある大賞を受賞した名機を掘り下げて語りたいと思います。 |
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それは1979年12月発売、約37年前!に登場した、ジャケットサイズフルオートレコードプレーヤー Technics SL-10です。 今回、なぜSL-10を取り上げたかというと、お客様の試聴の応対時に、驚くほどの音の良さを再確認させられたからです。 以前は、どちらかといえば、デザイン在りきで、音は二の次というモデルと思っていました。 その根拠として、1980年にグッドデザイン大賞(グッドデザイン賞を受賞したオーディオ機器は数多く有りますが、大賞受賞は本当に凄い事です!)を受賞したという事があったからです。 今回、実際に音に驚き、その技術力に驚き、これは紹介せねばと感じたわけです。 では、この後、まずはそのテクノロジーの一端を見ていきたいと思います。 |
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まず、そのサイズに注目です。幅、奥行き共に315mmと、正にLPジャケットサイズです。そのサイズにクォーツPLL制御の高性能ダイレクトドライブモーターやアルミダイキャスト製ターンテーブル、正確なリニアトラッキングトーンアーム、各ロジックコントロール回路を搭載させた、当時の松下電器産業の技術の塊なのです。 さらにレコード演奏時は、上下のキャビネットがしっかりと結合されるコクーンタイプボディ構造になっています。これによりボディの共振を防ぎ、SNの良さに貢献していると言われています。見た目からしてガッチリした感じで、使い手に与える安心感は大きいと思います。 |
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実際に電源を入れて、トップカバーを開けてレコードをセットし、アームロックを解除して、トップカバーを閉めて演奏を開始します。 まず、音が出だす時に「あれっ?」っと気づく事があります。レコードに針を落とした時の「プツッ」という音がしないのです。針が上がる時も同じ様に無音です。オート操作時だけではなく、例えば3曲目を聴きたいと針の位置をその位置でおろした時も最初は音がしません。 これはリレーと遅延回路を用いたミューティング機能を搭載しており、針先がレコードに触れる瞬間と離れる瞬間のノイズを解消しているからです。細かな事ですが、ナイスな気配りと感心させられました。 ちなみに、アームの位置をボタンの長押しで移動する事ができるのですが、移動スピードは2段階に分かれています。 下の写真の左は軽く押し込んだスローな移動の時の表示で、右は少し強く押し込んだ時の早めの移動の表示です。 細かな事ですが、小さな矢印ランプの点灯の違いが見て取れます。この辺の芸の細かさにも感心させられます。 |
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さて、SL-10のもう一つの大きな特徴として、置き場所が水平じゃなくてもレコード演奏が楽しめるという点です。 これは、独自のダイナミック構造を持ったリニアトラッキングアームとレコードクランパーが実現させた機能の一つです。(下の写真) 左の写真の様に手で持ち上げた状態でもレコードをしっかりと演奏してくれます。さすがにふらふらと不安定なので音も不安定な感じですが、当時、オプション販売されていた専用スタンドSH-B10に斜めに立てかけても良い音のレコード演奏が楽しめました。 |
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SL-10の紹介をする上で、避けては通れないのがカートリッジの問題です。 T4Pタイプという規格のカートリッジ専用のレコードプレーヤーという点がそうです。 いわゆる一般的な規格のレコード針とどこが違うかというと、一番には後部のコネクターが専用形状になっている事、自重6g、針圧1.25gと統一されている事が挙げられます。 ちなみにSL-10は他の一般的なレコードプレーヤーに比べて、カートリッジ交換の度に調整の必要がありません。先に記した通り、T4Pカートリッジは、自重も針圧も規格で統一されているからできる芸当なのです。 さて、皆様が気になるのはT4Pカートリッジの供給についてだと思います。中古品を探す以外、手は無いのではないかと・・・。 ご安心ください、シュアーやベルドリームのT4Pカートリッジは新品現行販売されておりますので、その点の心配はありません。 |
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ここで1つだけ注意しないといけない事があります。 左上の写真でわかる様に、SL-10には光によるレコードサイズセンサーが搭載されています。 実は、右上の写真の様に、光を通してしまう透明なレコードは一切演奏できない様になっています。レコードプレーヤーがレコードがセットされていないと判断し、誤動作で針を痛めない様に働く安全設計がこの場合効いてしまうからです。(ちなみに、ボタン長押しの手動操作もできませんでした) SL-10は回転速度の手動調整はできますが、レコードサイズの手動切り替え機能がありません。(のちに発売された下位機種のSL-7にはサイズ手動切り替えスイッチが搭載されました) もし、どうしても左上の様なレコードを聴きたい場合は、光を通さないテープなどでセンサー穴を塞ぐしか方法は無いと思います。 |
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さて、ここからは一般的なレコードプレーヤーとの比較試聴のレポートをお届けしたいと思います。 試聴に使用するシステムは、スピーカーにYAMAHA NS-1000M、パワーアンプにYAMAHA B-2X、コントロールアンプにMcIntosh C28です。 SL-10と対戦するレコードプレーヤーはSNの良さと高精度トーンアームの高い情報量で評価の高いKENWOOD KP-7010です。 ちなみにSL-10のカートリッジはMM型のTechnics P24、KP-7010のカートリッジはSHURE M44Gをそれぞれ使用しました。 ここで、実力の高いKP-7010とM44Gの組み合わせの音に対し、SL-10の音がどれだけ食らいついていけるか、早速比較試聴を始めましたが、・・・のちに意表をつく結果に驚く事になります! |
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最初にクラシック音楽の比較試聴です。 試聴曲はズービン・メータ指揮、ロサンゼルス管弦楽団によるホルストの組曲「惑星」より「ジュピター」です。 KP-7010から聴いてみました。 まず、重心のしっかりとした低域に支えられたアンサンブルの安定感が印象的です。全体の音が溶け合う様に重なり合い、波の様に押し寄せる迫力ある演奏だったと感じました。 |
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さて、続いてSL-10で「ジュピター」を聴きます。 音が出た途端にハッとしました。ベールが剥がれた様なクリーンで見通しの良い空間が広がったのです。 低域のスケール感もKP-7010に少しも劣っていません。 KP-7010で感じた波の様なスケール感が、SL-10だとさらに解像度を上げた様に聴こえます。 はっきり言ってこれほどのクオリティーの音をSL-10で聴けるとは予想できませんでした。 冷静になってじっくり観察してみると「ジュピター」は盤面の内周にある曲で、SL-10のリニアトラッキング方式の利点が大きく活きたのでは無いかと思います。 今回はオーケストラ物でしたが、小編成の物だと、よりクリーンな音場が際立つと感じました。 改めてSL-10の音に感心させられた試聴でした。 |
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続いてポピュラーアルバムの中から、オフコースの「YES-YES-YES」よりタイトル曲を聴きます。 B面の最後の曲なので、こちらの曲も内周側です。 KP-7010では、まず全体の音の力感に感心させられました。ボーカルやバックの演奏に抑揚があり、音楽の熱気が伝わってくる様でした。アナログならではの音の表情が伝わってきた感のある試聴でした。 |
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続いて同じ曲をSL-10で聴いてみます。 まず、ボーカルの定位が気持ち良い!ビシッと中央に適度な大きさの音像が浮かび上がります。 KP-7010より、にじみの無いクッキリ感があります。 さらに左右のセパレーションが良くなった感じで、音場空間全体が広がった様に感じられました。それに伴ってバックコーラスが明瞭に聴こえる様になりました。 全体の力感ではKP-7010、音像定位の気持ち良さではSL-10という感じでした。 |
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最後にジャズの定番THE DAVE BRUBECK QUARTETのアルバム「TIME OUT」より「TAKE FIVE」を聴きます。 KP-7010では、全体的な音の太さが印象的です。カートリッジのSHURE M44Gの特徴をよく引き出した、力強く、全体がうまく溶け合った演奏のハーモニーが感じられました。 |
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SL-10に変えて同じ曲を聴いてみます。 最初に、全体のSNが一段階上がった様にクリーンになった感じです。 各楽器の配置が明瞭になり、演奏空間がより感じられる様になりました。 ただ、全体的にクリーンになった分、KP-7010に比べて表現がやや細身になった感じに聴こえました。 ジャズに関しては、搭載されているカートリッジの音色の影響が強かったと感じました。 |
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それぞれのジャンルのレコードをKP-7010とSL-10で比較試聴してきました。 最初はKP-7010に対してどこまで健闘してくれるかと思い、比較試聴を始めましたが、個人的にSL-10の音の方が気に入ってしまいました。こんなに音がいいのにこんなにコンパクトなのは驚きを通り越して、もはや衝撃です。また一つ、素晴らしい製品を発見できたという満足のいく今回の試聴でした。 今から40年近く前にSL-10を開発した松下電器産業の技術力には驚かされるばかりです。 近年、再び復活したブランド「Technics」のレコードプレーヤーSL-1200G並びにSL-1200GRが好評の様です。 ここで紹介したSL-10のようなレコードプレーヤーの復活は無いのでしょうか。もし復活した場合の販売価格は幾らぐらいなのか・・・想像するのも少し怖い気がします。 レコードの音が見直されてきた今こそ、過去の製品の想像を絶する技術力の高さをハイファイ堂で再確認してはいかがでしょうか。 最後までご覧いただきましてありがとうございます。 では、また次回。 |