2018年 迎春 皆様、あけましておめでとうございます。 ハイファイ堂 丸の内店 廣川勝正です。 今年もよろしくお願いいたします。 このところ、オープンリールやカセットなどのアナログテープデッキの音の良さに、改めて感心させられる事が多々あります。 そこで今回は、昨年末にお客様と試聴したカセットデッキ Nakamichi ZX-9について語りたいと思います。 |
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1982年発売のカセットデッキNakamichi ZX-9。 このデッキの技術的なトピックとなるのが、キャプスタン用にリニアトルクDD(ダイレクトドライブ)モーターを採用したことです。従来のPLLサーボモーターよりも、聴感上のフラッター成分をより低減しようと開発されたモーターです。 その採用により、今までよりさらに安定感の増した音が聴けるようになったと言われています。 |
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右の写真はNakamichi最大の特徴でもあるディスクリート3ヘッド周辺の様子です。左より消去ヘッド、録音ヘッド、テープガイドの付いた一番大きなヘッドが再生ヘッドの順番で並んでいます。全てのヘッドが独立したディスクリート構成のカセットデッキはNakamichiのみでした。ちなみにソニーやアカイ、ティアック等、他のメーカーは録音ヘッドと再生ヘッドが一体化されたコンビネーション3ヘッドが主流でした。 ヘッドを独立(ディスクリート化)できたおかげで、テープに接する最適な角度(アジマス)をそれぞれのヘッドで追求できたカセットデッキはNakamichiのみでした。 |
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さらにNakamichi最大の強みと言えるのが、再生ヘッドに0.6μギャップのクリスタロイヘッドを採用している事です。 当時、他社で採用されていたセンダストヘッドやパーマロイヘッドのギャップ幅は最小で1ミクロンでした。 ヘッドのギャップ幅を狭くする事の最大の利点は周波数の高域限界を伸ばす事ができるという点です。ただし、ギャップ幅を狭くすると同時に正確な直進性を伴っていなければいけません。 その難題を克服したヘッドを開発できた事によりNakamichiは他社よりも優位に立っていたと言えます。 さて、テープの高域特性に余裕が出来ればどういうメリットが生じるかというと、歪みの低減につながるバイアス電流をより深くかけられるという事です。一般的にバイアス電流を増加させると歪みの低減というメリットと同時に高域周波数特性を悪くするというデメリットが生じると言われています。 Nakamichiは、他社よりも高域周波数特性に優れたヘッドを開発できたという恩恵が、より多くのバイアス電流をかけられるという利点を得た事により、音の面で他社に差をつける結果となる要因だったと私は思います。 さらに、走行系も良い音を追求するために、持てる技術を惜しみなく投入しています。ヘッドの両端にあるキャプスタンも周波数分散型の異径キャプスタンを採用。その結果、当時ノーマルテープですら20〜20,000Hzの周波数特性を誇るカセットデッキはNakamichiのみでした。 更にメカドライブ用にもモーターが搭載されています。一度でも操作した方はご存知と思いますが、ヘッド部分がコロコロという静かでスムーズな動作音を伴いながら上下に動きます。他のメーカーのソレノイドを使用した動作方式と違い不要なショックが起きないため、ヘッドアジマスのブレ等が起こりづらい機構となっています。細部にわたって音の為に考えられたメカニズムを搭載しているがゆえに、当時は単なる日本のナカミチではなく、世界のNakamichiと憧れられていた存在だったのです。 |
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さて、ZX-9は、それぞれの録音するテープに合わせて手動でキャリブレーションをする事ができます。ここでキャリブレーションの方法を簡単に説明します。 まず、使用するテープに合わせてテープポジションを決めます。EXがTYPE1(ノーマルポジション)、SXがTYPE2(クロームテープなどハイポジション)、ZXがメタルテープ対応ポジションです。次に上部LEDレベルメーター右の5つの小さな切り替えスイッチのうち、左から2番目のEq(μSEC)をノーマルなら120に、ハイポジやメタルテープなら70に合わせます。これでポジション設定は完了です(右の写真はノーマルテープ使用時の例です) |
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続いてキャリブレーションを行います(右上のMonitorつまみはTapeに合わせてください)。 巻き戻りきっている生テープの場合は磁気テープ面まで少し早送りをしてからRecを押しながらPlayを押して録音状態にします。次にFFwdやRecボタンの右にあるBiasボタンを押すとLEDピークメーターにバイアスレベルが表示されますのでテープポジションボタン下の小さなつまみ(Biasボタンの右同列)を回してLEDメーターをCalの矢印の位置に合わせてください。 次にLevelボタンを押してBiasの時と同様に右同列のつまみで調節します。 |
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最後に一番下のAzimathのPush onのボタンを押して出っ張ったつまみを回してアジマス調整をします。Azimathの文字下の赤いLEDに合わせればOKです(アジマス調整が終わった後、もう一度Push onのボタンを押して、調整状態を解除するのを忘れないでください)。 これでテープのキャリブレーションは完了ですのでStopボタンを押した後に巻き戻して録音の準備に入ってください。 ちなみに録音のレベルですが、私の場合LEDピークメーターで、ノーマルテープならMAXで+3、ハイポジならMAXで+5、メタルテープならMAXで+7位を目安に右下のRec Levelつまみで調整しています。テープによっては若干オーバーしても良いかなと思います。 |
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さて、ここからは過去にNakamichiのカセットデッキを所有していた事のある私がお勧めするイチオシのカセットテープをご紹介したいと思います。 ちなみに、以前はNakamichiブランドでカセットテープもありました。ZX-9のテープポジションの通りノーマルはEX、ハイポジはSX、メタルはZXという名前でした。 実際のところNakamichiのテープの中身はTDKと言われていました。そのせいか、やはりTDKのテープとの相性は良かったと思います。 |
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私のお勧めしたいイチオシのカセットテープというのはTDKのMA-Rです。 このカセットは超微粒子合金粉末を磁性体に採用したメタルテープです。磁束密度や保磁力に優れていることはもちろんですが、何と言ってもボディが凄い! 高精度アルミダイキャストボディを透明な樹脂でサンドイッチしたRSメカニズムという名称のボディを採用していました。 通常ボディの同社MAと比較して、明らかに無音部の静けさが違います。私もNakamichiユーザーとして、当時も高価でしたので、リファレンスとなる録音がしたいと思うときのみ、このテープを使っていました。 |
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もう一つ、このカセット開発にあたって、目立たないですがとても重要な物が採用されました。それはカセットハーフとテープ側面の間に挟まっている透明シートです。 それまでのカセットでは黒いカーボンシートの様な材質のものが採用されていましたが、MA-Rのテープ部分をシースルーにしたかった為に開発されたシートだと思います。 このシートですが、のちに発売されたノーマルテープADの透明バージョンAD-Sにも採用されていました。透明シートの走行抵抗が低いせいか、MA-R同様に、AD-Sでも音の滑らかさに貢献している様に感じ取れました。 ハイファイ堂レコード店でも入荷の機会が少ないMA-Rではありますが、ナカミチユーザーなら、入荷の際にはぜひゲットしていただきたいと思います。 |
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最後までご覧いただきましてありがとうございます。 今回はNakamichi ZX-9と、ナカミチユーザーにイチオシのカセットテープについて語らせていただきました。 Nakamichi のカセットデッキは、現在でもメンテナンス可能な機種がありますので、今後もハイファイ堂各店でお目にかかることもあると思います。さらに現行ではもう入手できないメタルカセットテープも、ハイファイ堂レコード店にて取り扱っております。 昔、Nakamichiに憧れていて同社機種入手をご検討の方も、初めてカセットテープの録再に興味を持たれた方も、ぜひハイファイ堂各店にお問い合わせいただきたいと思います。 では、また次回。 |