ヘアサロン atelier STAENS サウンド・システム導入記 日本橋店 渡辺正 大阪北浜エリアには今もなお、浪速の豪商の名残を残す名建築が数多く残っています。そのなかでもひときわ個性が光るのが「芝川ビル」。デコラティブで西洋の様々な建築様式をブレンドした独特の佇まいのこのビルはエントランスに入るだけで独特の高揚感があり、がっちりと組まれた躯体は、残響音が心地良く、ちょっと良い革靴をコツコツ鳴らして歩いてみたくなります。 そのクラシックなビルの二階にオーナー・スタイリスト宅間博氏の営むヘアサロン・アトリエ・スタンズさんがあります。宅間氏はサロンでの施術と合わせて雑誌やTV関連でのヘア・メイクも手掛けられているベテラン美容師さん。本日はこちらのお店で使われているオーディオの導入レポートを致します。 |
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ハイファイ堂とアトリエ・スタンズさんとのお付き合いはかれこれ1年半くらい前から。CELESTION / UL6という小型ブックシェルフ・スピーカーを御納品させて頂いたのがお取り引きの始まりでした。レトロな雰囲気の美容室のBGM用には音質もインテリア性も最適の選択かと思います。しかし生粋の音楽好きで音質にもシビアな宅間氏にとって、国産プリメインアンプで鳴らすCELESTIONの音は満足のいくものではなかったようです。そこからハイファイ堂とアトリエ・スタンズさんとの本格的なお付き合いが始まりました。この1年半の間に試行錯誤しながら幾度かのシステム変更とグレードアップを行い、ようやく納得の行くところにたどり着かれたようです。 それではアトリエ・スタンズ・サウンド・システムの概要を紹介しましょう。 ?プレーヤーシステム MacBook→Chord / DAC64 MK2 LINN / Magik LP12+ADIKT ↓ ?コントロールアンプ Mcintosh / C33 ↓ ?チャンネルデバイダー Accuphase / F15L(500hz、7000hzボード) ↓ ?パワーアンプ 高域 SST / SON OF AMPZILLA2000 中域 THRESHOLD / 400A 低域 THRESHOLD / 800A ↓ ?スピーカーシステム JBL C61 SOVEREIGN2(LE15+LE85)+075(16Ω) スピーカーはJBL C61 SOVEREIGN2。この年代のJBLはスピーカーキャビネットと数パターンのユニットの組合せをチョイスする販売システムを取っていて、アトリエ・スタンズさんのものは2ウェイでLE15+LE85+H91+L91+LX5のS7構成。そこに075のツィーターを追加して3ウェイ化。ネットワークは介さず3台のアンプで直接駆動します。送り出しは2系統。メインソースはMacBookに取り込んだ音源で、光ケーブルでデジタル出力し、DAコンバーターChord / DAC64 MK2に送り込みアナログ変換。このChord / DAC64 MK2は情報量や解像度が高くなるだけでなく、音にぐっと厚みが増して音楽を活き活きとさせる数少ないD/Aコンバーターのひとつです。古いWADIAなんかも良いんですが、ここは敢えてChordをチョイス。そしてもう1系統は宅間氏が御自身のために用意したレコードプレイヤーシステムでLINN / Magik LP12。カートリッジはMagik LP12純正ADIKTですが、これも力強さ、適度な暖かさ、クリアーさが高次元でバランスされた名器です。コンパクトなサイズ感もアトリエスタンズさんにぴったりだと思います。2系統の音源はコントロールアンプMcintosh / C33で受け、チャンネルデバイダーAccuphase / F15L(500hz、7000hzボード)で帯域を3分割します。そこからパワーアンプSST / SON OF AMPZILLA2000、THRESHOLD / 400A、THRESHOLD / 800Aで増幅され、SOVEREIGN2の3つのユニットに直接繋がります。気がつくとヘアサロンの音響システムとしては超弩級のものになりました。 |
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ここに辿り着くまでには紆余曲折がありましたが、ジャズ、ボッサ、R&Bやロックが年代問わず上手く鳴ること、小音量でも音痩せがないこと、PCのデジタル音源を使うこと、そして店舗のBGM用システムとしての信頼性の高さの3点をポイントに置いてシステムをまとめて行きました。 上記したシステムに至るまでの顛末をかいつまみお話します。 スピーカーは、SOVERLEIGN2を導入するまではC56 DORIANでLE14+LE175DLH+LX10のS1構成2ウェイを使用されていました。 会話を重ねるなかで、今後更なる高音質化には大口径ウーファーと3ウェイ化が必須ということになり、後に075ツィーター追加を前提でS7構成2ウェイのSOVEREIGN2の導入を決定されました。 我々の扱うビンテージオーディオはいつでもタマ数が揃っているわけではありませんので、大きな方向を見据えて焦らず出モノを探し、タイミングを逃さないことが大事だと思います。方向性がはっきりしなかったりブレると、いつまでもシステムが定まらず無駄なお金を使ってしまったり、満足できないまま飽きてしまいオーディオ趣味から遠ざかってしまうことになるのです。まずは我々スタッフと対話を重ね、一緒に音を聴くことからだと思います。また、これからオーディオを始めるお客様であれは、ご予算とお好みに沿って提案致しますよ。エントリークラスのシステムであればハイファイ堂の品揃えから常時最善のセレクトが可能です。アトリエ・スタンズさんのように一旦出来上がったシステムからグレードアップする場合はじっくりとお付き合い頂き、方向性を定めて、出モノのタイミングを的確に掴んで頂きたいと思います。 SOVEREIGN2を、まずは以前からお使いのSANSUI / AU-999で鳴らします。DORIANの時は天井近くに棚を造作して設置されていましたがSOVEREIGN2は棚を撤去して床置きとなりました。それは、つまりアトリエ・スタンズさんのオーディオが、単なるBGMのための道具からもう一歩重要なものになったということです。そして、その音はDORIANと比べ格段にスケール感が増しました。また導入に際して、スピーカースタンドをサウンドトレールさんに別注されていました。色目もサイズもぴったりSOVEREIGN2に合っていて、仕上げのクオリティも素晴らしいものです。スタンド設置前と設置後での変化は、その他様々な条件が変わったこともあり私自身のコメントは控えますが、宅間氏によると、直置きからこのスタンド設置で低域の量感が増して音が引き締まったとのことです。 スピーカーケーブルの配線処理は店舗ということもあり、綺麗にすっきりと仕上げられています。戦前のクラシックな建築様式にインダストリアルなテイストを加味した内装にマッチするように、壁に白塗りのスチールパイプを這わせて、その中にスピーカーケーブルを通しています。それはまるでNYのバワリーホテルを彷彿とさせるニクい処理で、ホームオーディオでも真似したいものです。合わせて肉厚のスチールフレームに厚みが50?はあろうかと思われるチーク材(?)無垢を使ったラックも、アンプ増設のために造作されました。超弩級のシステムがさりげなく店内に溶け込みながら、マニア心をくすぐるビジュアル的主張もしっかりと演出されています。 この頃にはバックオーダーを頂いていたパワーアンプMcintosh / MC2125のメンテナンスも完了し、御納品しました。この時点ではまだサンスイ / AU-999をプリアンプとして使い接続します。そのひと月後には同じくバックオーダーを頂いていたプリアンプMcintosh / C33が、難航していたメンテナンスをようやく終え御納品することができました。SOVEREIGN2を御納品してから2ヶ月が経とうとしましたが、待望のプリアンプ入れ替えが完了しました。この日のためにスタンバイしていたもう一台のパワーアンプSST / SON OF AMPZILLA2000をネットワークを介して繋ぎ、MC2125はLE15に直結としました。幾つかの繋ぎ方を試してこれに決定しましたが、なかなかいい音出てます。 ところがしばらくして、宅間氏より電話が入りウーファーとドライバーの音の鳴り方に違和感を感じるとのことです。当初、私の耳では一聴して良いと感じお勧めした疑似バイワイヤリング接続なのですが、じっくり聴くとダメだったようです。MC2125とSON OF AMPZILLA2000にどうやらレスポンスの差があるようで、気にならない人には全く気にならないレベルだと思いますが、この微妙なところが一度気になるともうダメなんだと思います。結局、普通にネットワークを通してMC2125を1台で繋ぎ変えられました。この状態でしばらく聴いて頂き、全く問題のない安心感のある音との宅間氏の御判断です。 SON OF AMPZILLA2000の御納品と同時期に見つかったJBL / 075ツィーターは希少な16Ωの初期モノ(入力端子がひとまわり大きい方です)で、これも出番をじっと待っている状態でした。 システムの目標はこのクラシックなビルに相応のビンテージな佇まいのスピーカーで、音楽の年代やジャンルをピンポイントに絞りこまず万遍なく満足のいく音色で鳴らすこと。そのためにはどうしても太く力強いツィーターが不可欠です。075はこの時点では即使うことは出来ませんが、これもタイミングを逃すと入手は困難です。迷うことなく購入を決めて頂きました。 いよいよこのイメージにぴったりのパワーアンプが入荷です。ハイファイ堂2度目となる希少アンプのTHRESHOLD / 800Aです。ゴツくぶっきらぼうな風体から発する音は、ぐっとダークなトーンで瞬発力があり適度な解像度と心地良い微かな歪み感が絶妙のバランスで成り立っています。同じ頃、数年ぶりに入荷したTHRESHOLD / 400Aと合わせて御納品。ここで、Mcintosh / MC2125はそれまでの役目を果たしスレッショルドチームにバトンタッチです。 あとは良いチャンネルデバイダーを待つのみとなりました。 チャンネルデバイダーはマルチシステムの肝心要であるとよく言われますが、まさにそのことを体験することになるのでした。 なかなかチャンネルデバイダーが見つからず、マルチシステム化は進みません。SOVERLEIGN3ウェイシステムで使える帯域のボード付きのAccuphase / F15Lが入荷しましたが、宅間氏の好みからすると少しこじんまりとし過ぎてしまう危惧もあります。しかし時間と資金を掛けてここまで進めてきたこのプロジェクト、取り敢えずやってみてから考えましょうと言うことでF15Lを御納品です。繋いで少し調整をして出てきた音は激変。高域の気持ち良さと音の広がりは見事です。静寂の中からひとたび音が出れば僅かなザラつき感を持つ太い高域がスッと立ち上がり、倍音が気持ちよく響きます。この音を聴いてしまうと、それまではいかにもスピーカーのユニットから音を発していた気がします。それがお部屋全体を音が満たすようなイメージに変わりました。ネットワークを介さない075の音は素晴らしいと思いますし、音全体に与える影響も多大です。モノクロ写真からカラー写真になった感じと言ったところでしょうか。 が、いいこと尽くめではありません。高域の気持ち良さと引き換えに全体がこじんまりとしてしまいました。チャンネルデバイダー導入直後の中域付近の鼻を摘んだようなキツめの音は鳴らし込みで解消されましたが、化け物級のアンプを奢っている割にはずいぶんと大人しくなってしまいました。やや端正過ぎます。この音が好きな方は居ると思うのですが、音量を上げた時の豪放な手応えが足りません。全体の音の傾向がAccuphase / F15Lに染まった感じです。ここで、まさに、チャンネルデバイダーがマルチシステムの肝心要ということを実感することとなりました。それでも宅間氏は、ここまで音が変わったことに満足されています。御自身の目指す方向に確実に音は向かっています。チャンネルデバイダーの導入から数ヶ月経ち、使い熟しもかなり心得られたようです。音量やソースにより聴こえ方が変わりますが、それまではコントロールアンプC33のトーンコントロールやコンパンダーで調整していたのを今はチャンネルデバイダーのゲインを少し変えながら対応されています。その効果は絶大で、ソースによる録音クオリティの違いもそれほど気にならないレベルに調整できますし、小音量でも良く通る心地よいBGMとしての音となり、中音量では会話が邪魔されず音楽のダイナミズムを描き出し、ひとたびボリュームを上げれば抜群の見通しの良さと芯の強さを感じ静寂から洪水が押し寄せてくるようなサウンドが体感出来ます。 |
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今後の課題はこのシステムを活かすチャンネルデバイダーへの変更と店舗のレイアウト上スピーカーの間が開き過ぎて中抜けし、定位がやや曖昧な点でしょうか。スペースの都合スピーカーを内に振ることも出来ません。ホーンドライバーを抜いて天板に置き内振りにするのも一考です。ここからは性急にことを焦らず、話し合いながらゆっくりと改善していければと思います。 自分はオーディオマニアではないと言われる宅間氏ですが、氏の要求する音のクオリティを実現するために、相当なマニアックなシステム構築をサラリとできるようにハイファイ堂がお手伝いを致しました。 音楽と音響は切っても切れません。鳴らし方でその音楽のダイナミズムやグルーヴ感までも変わります。お金を湯水のごとく掛ければ良いというものではありませんが、投資しなければ出ない音もあります。音楽家が聴き手に伝えようとする心や息づかいを聴き取るために必要なクオリティの音質というものがあります。オーディオを少し贅沢することで、より音楽が理解出来る筈です。 atelier STAENS 受付時間/11:00-19:00 定休日/火曜日 TEL:06-6226-4100 E-mail:info@staens.com 芝川ビル公式サイト:http://shibakawa-bld.net/ http://shibakawa-bld.net/story/2010/10/atelier_staens.html |