続Juke Box Music -洋酒バー石ノ花とシーバーグ- 日本橋店 渡辺正 ハイファイ堂メールマガジン第620号 2015年12月18日掲載 Juke Box Music http://www.hifido.co.jp/merumaga/nihon/151218/index.html ハイファイ堂メールマガジン第629号 2016年02月19日掲載 Juke Box Music番外編 http://www.hifido.co.jp/merumaga/nihon/160219/index.html 有線の発展とカラオケの台頭で1980年には街場のジュークボックスは消えていった。 と、書き記したのが2015年12月18日。 今でもジュークボックスを置いている店は探せば結構あるし、そんな店はむしろ増えつつある。 数年前、東京でフルレストアのジュークボックスを販売する店もオープンした。 感覚でモノを言うのはアレだがジュークボックスが静かに再燃しつつあると感じる。 関西圏の商業施設で現役稼働中のジュークボックスは神戸の「ムーンにも共通するのはBGMがソウルミュージックやロックンロールと言うことである。 ご機嫌なソウルミュージックが鳴り響く店内で、ジュークボックスの前に立ち、周りの空気も十分察知しながらコインを落として選曲をするという行為は、ちょっとしたエンターテイメントだろう。 ジュークボックスが動き出すと、店内のBGMはすっとフェードアウトされ、ジュークボックスの丸く人懐っこいサウンドに切り替わる。 どうせならBGMの切れ目のタイミングを見計らいコインを落とすのがスマートだと思う。 本日、紹介させて頂くのは心斎橋にある「洋酒バー石ノ花」とそこに鎮座する1967 Seeburg SS160 SHOWCASEというジュークボックスのお話。 それでは独り善がりの駄文に暫しのお付き合いを・・・。 |
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心斎橋のひしめき合う人並みをすり抜けて、道頓堀川沿いの雑居ビルの回廊に足を一歩踏み入れると、まるで昭和40年代からピタリと時が止まっているようなヤニ茶けた世界がひっそりと現れる。 シーバーグのジュークボックスが鎮座する「洋酒バー石ノ花」はその回廊の奥にある。 高度経済成長期のミナミで名だたる文化人たちを足繁く通わせた名店であり、船内を模した当時の内装は今もそのまま残っている。 因みに、店名のロゴデザインは道頓堀出身の黒田征太郎によるものだ。 |
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この店の特等席は一番奥の窓際で、道頓堀川の川面に吹く風を感じながら、ちびりちびりと飲む酒は最高に気持ちが良い。 店内を流れるソウルミュージックに人差し指でリズムを取りとり、気が向けばジュークボックスにコインを落として、気の利いた歌謡曲を響かせたりするのがこの店の楽しみ方だ。 |
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「洋酒バー石ノ花」現オーナーの外賀雄一郎(げかゆういちろう)氏が石の花を引き継いだのは2001年で15年前の事。 そしてシーバーグを入手されたのは、その5年後の2006年9月。 ビンテージ機器のお約束とも言える様々な不調やトラブルを乗り越えて、ようやく動き出したのは翌年2007年の1月だった。 それからも年に一度は恒例行事のようにトラブルが発生して、都度修理に出していると仰られる。 雄一郎氏の飄々としたキャラクター故に、そんなことがさらりと語られてはいるが、このような全時代的なアナログ制御の機械は、あれやこれやと手を掛けてあげなければ、すぐに愚図付くし、振り返ってこれまでに掛けたメンテナンス費用の事などを考えると、 よほど好きでなければ商業施設にジュークボックスを置くことはできないはずだ。 |
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1967 Seeburg Jukebox SS160 SHOWCASE EPレコード80枚収納、最大180曲演奏 トランジスタアンプ内蔵 12インチウーファースピーカー&ミドル/ハイレンジ2wayステレオスピーカー内蔵 これが石ノ花に置かれているジュークボックスのスペックである。 常に時代の最先端となるデザインを投入して、盛り場に色を添えてきたジュークボックスは、60年代後半に差し掛かると、装飾性はやや後退してこのような直線的なデザインが主流となる。 そこはかとなく漂ってくるアールデコの残像と、来るべき時代を見据えたエッジの効いたシャープな造形や、当時の空気感を真空パックしたサイケデリックなイラスト等々たまらないディティールが散見される。 バブル期の某大手ドーナツショップなどで良く見られたアールデコ全盛期のゴージャス極まりないワーリッツァーモデルなんかがダントツ人気になると思うが、筆者にとっては昭和中期の街の盛り場でリアル体験した、ジュークボックス最終期のこんなデザインがグッとくる。 |
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つい先日も舞鶴の古びたドライブインで相当くたびれてはいるが現役稼働のジュークボックスを発見との情報が「石ノ花」外賀氏より寄せられたりと、筆者の周辺ではジュークボックスがちょっとしたブームになっている。 そんな関西ジュークボックスシーン(笑)に於いて、また新たなお店が誕生した。 「書斎かふぇ じょうじあん」様 http://kenban.com/georgian/ 〒542−0012 大阪市中央区谷町六丁目2−26 東和谷町ビル1階 弊社ジャンク扱いのジュークボックス「ROCK-OLA 470」をご購入頂いた。 こちらでは電源は入るが不動との扱いであったが、簡単な操作で動き出し音も出たようだ。 とは言え、完動のレベルにまで仕上げるには多くの時間と労力が必要となりそうだ。 マニアックな「じょうじあん」オーナー米坂氏は早速アメリカよりサービスマニュアルを取り寄せて自力整備を目論んでおられる。 店の入り口横に佇む光景は、まるでずっと前からそこにあったようだ。 急速なデジタル技術の進化やPCの普及と音楽配信は、19世紀の蓄音機実用化から長い年月を掛けて作り上げていった音楽産業のシステムを猛スピードでガタガタと崩していった。 手間暇かけた生楽器主体のレコーディングと、効果的なプロモーションで録音物を大量に販売する事が通用しなくなり、新たなシステムを暗中模索しているのが現状で、ポピュラー音楽を取り巻くすべての環境は今、停滞している。 そんな今日この頃、1950年から1970年代と言われるポピュラー音楽黄金期を支え続けた影の立役者であるジュークボックスが、然るべきオーナー様に引き取られ、何十年の休眠から目覚めようとしている事は偶然の出来事とは思えない。 ということで不定期連載「Juke Box Music」、次回は「書斎かふぇ じょうじあん」にスポットを当ててみたいと思う。 |
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