「オーディオ風味 名曲アラカルト」 2006-1-13 音迷人 2.ヨハン・セバスチャン・バッハ/トッカータとフーガや無伴奏チェロ組曲 |
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古典音楽に触れるとしたらやはり敬意を表して「音楽の父」バッハを取り上げるべきでしょうね。バッハ(1685〜1750)はドイツの作曲家で教会のオルガン奏者、宮廷楽長などを勤める傍ら色々な器楽曲(ソナタ、組曲、協奏曲など)やミサ曲など教会音楽を作りました。特に対位法なる技法の確立を通して、多声様式を発展させたといいます。まあ楽典的な事は良く解りませんので置いといて、現在までに多用されている音楽技法の基礎を固めた(人の持つ音に関わる感情のオーディオ的「表情のある」論理的整理と言ってしまおう!)人で音楽一族バッハ家のボス、すなわち「大バッハ」と覚えてください。 思い出しませんか?小学校の音楽室に必ず作曲家の肖像画が張ってありましたね。一番初めがバッハさんでした。最初に触れた古き西洋の面影(正装用かつら姿)でした。当コラムも敬意を表して掲載しましょう。何時見てもグルメおじさんですな。 |
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彼の演奏活動、作曲活動、教育など、やはり当時の深い宗教的な環境の中での活動ですので、結果宗教曲なども多く、私のような俗人には俄かに入り難い面があります。キリスト教の儀式や思考を知らないからかも知れません。しかしそこは音楽の凄いところで、人間の潜在的な感情のかなりの部分に共鳴するのです。それにはまず先入観を無くすこと、こちらが裸になることです。(あ!脱がないで下さい)私はこのことに気が付くのに随分と時間が掛かりました。今でも勿論途中ですから、他の作曲家ほど多くは聴いておりません。誰の、どの曲もそうですが「繰り返し聴いている」とその音楽の中に入ることが出来ます。何十回何百回です。我々は今まで1,2回でキャッチされないと止めてしまいますが、随分勿体無いことをしているのだなと思います。 私のミーハー的なバッハの感想はバッハの音楽には総てではないですが、ジャズっぽいというか、執拗に繰り返すビートがあるのです。これに乗っているとジャズのようにトランスしてしまうでしょう。管弦楽組曲やブランデンブルグ協奏曲がそうでした。 今回はオーディオ的に面白いパイプオルガン曲とチェロ曲を取り上げましょう。 |
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◆オルガン曲の超有名曲「トッカータとフーガ」は聴きやすい上、エネルギーのある超低音からたっぷり倍音を含んだ高音まで鳴らしてくれます。日本はパイプオルガンの大好きな国の様で、一時雨後の竹の子のように出来たホールにかなり設置されました。ですから皆さん1度は生で聴かれていると思います。実に柔らかく広い面から音がやってくるかと思うと高音パイプは小さいのがピーヒャラーと鳴り点音源のように集まります。この感じを再生時に確認してください。オルガンの音色は演奏時に設定(ストップ:音栓で音色や音域を設定)できるし、オルガン毎にかなり個性を持っている上、響きの集大成といえる教会とかホールというオルガンの器である建物の個性が有りますので、それらの違いも聴き取れると良いですね。私の経験では中高音はどんな装置でも結構オルガンの雰囲気を伝えますが、低音は一筋縄では行きませんよ。常々申し上げている、構えの大きなスピーカーでナイト!近づけません。確かに例えば30Hzが出たとしても小型ですと音の含みというか大きさというのが出ません。私はMFBタイプの小型SPを持っていますが鳴っているので凄いなーと思うのですが、離れて聴くと然程出ていないような38cmウーファーに雰囲気で負けます。 |
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ピアノの88鍵で音階と主要楽器の音域、それに基音周波数を展開した表をお届けしましょう。(周波数は小数点四捨五入・ただし最低音だけ切り捨てで27Hzとしています。この表は度々使いますので控えて置いてください。作表するのに細かくて随分時間が掛かりました!) 基音周波数ですから倍音を考えると上のほうはかなり高いところまで出ている点にご注意下さい。 たまたま手元に合った「運命」のスコアでざっと調べてみると基音で下が62Hz上が1760Hz位でした。このころまでの交響曲は似たような帯域かと思いますので、まあ40Hz〜12KHzを充実させれば一安心です。何度も申し上げますが低音は大きく出したいです。(実際の舞台で、広い範囲の床が足音などでどやどや鳴る様な感じの大きさ。低音ブーストとは違います) オルガンは曲にもよりますが、フットペダルの重低音(R.シュトラウスのツァラトウストラはかく語れりの導入部分は正に30数㎐ぐらいではないかと思います)から高音の倍音を含め可聴全帯域で鳴らしているでしょう。 |
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◆無伴奏チェロ組曲には有名なエピソードがありますね。20世紀の偉大なチェリスト、パブロ・カザルス氏(1876〜1973)をご存知でしょう。近代チェロ奏法の確立者である一方、スペイン独裁フランコ政権に反対し、演奏活動を停止したりして抗議し、国連などで平和を訴え続けました。カタローニァ地方の民謡「鳥の歌」を良く演奏されました。「鳥はピースピースと鳴くのです」と・・。その彼が十代の若い時、父親から始めて大人用のサイズのチェロを買ってもらった日、確かバルセロナの楽器屋(骨董屋?)で、(楽譜の立ち読み中?)古びたかび臭い楽譜を発見したのです。初め練習曲のようでしたが、なんとこれが今有名なバッハの「無伴奏チェロ組曲」だったのです。彼は数年研究し、弾きこなして世に出したようです。奏法の改善もこの時のようで、結果としてあたかもバッハが要求したようですね。この発見の偶然を私は本当に神秘的に感じます。正にしかるべき人の前に現れたのですからね。もし私が出会ったら「なんじゃいこれ!ハイファイドーオークションに出してみるか。アンプぐらい買えるかな?」で沈没でしょうに。 |
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チェロは低く太い音からくすんだ高音や煌びやかな高音まで幅広い表現力を持っています。 哲学的、瞑想的表情が得意のせいかバッハのこの曲に相応しいです。それでこの曲は今では多くのチェリストにとってバイブルの様なもので、一度は挑戦し深遠な精神世界に踏み込まねば成らないほどです。私の感じではこの曲は人を映す鏡のような曲で、演奏家の持っている力量或いは精神を暴いてしまいそうです。 曲は1番から6番まであり、それぞれが6つのピース(楽章)で構成されています。(別表)CD2枚も及ぶ長大な曲ですが、1,3,5番などが良く演奏されます。私は何と言っても1番の前奏曲が大好きです。お奨め盤は沢山あります。古さを感じさせない野生的な血の騒いでいる様なご本家のカザルス盤(1936〜39年のSPからのマスターリング)、質実剛健なシュタルケル盤、流麗自在なヨーヨ・マ盤などです。私のお奨めは録音のリアリティー(オンマイク気味)も含めシュタルケル盤です。(写真下) |
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チェロの基音は65Hz〜698Hzですから10倍音を考えても問題なさそうです。しかし本当にチェロだなーと感じるのはそう簡単ではありません。再生するとチェロらしいのですがよくトゲトゲしく聴こえます。それで高音を絞ると丸くボケてしまいます。どうも倍音成分を過渡特性良く再生せねばならないようです。軽いのびのびした高音が必要でしょう。つまり音圧があるだけではよい再生にならないのです。また生演奏でチェロの合奏音は何とも言えない美しさが有ります。交響曲のある瞬間や、管弦楽曲、イタリアオペラなどのテーマなど奏でる時良く聴かれます。私は淡い空色を感じます。これを再生することが出来たらかなり満足です。チェロもピアノ同様響きの所々に「筐体」の響きを感じます。あと演奏雑音で指運板に当たるパタパタいう指の音、深いビブラートをかけている時のクコクコいう指の音、弦に弓が入る時のシュコッという擦音、これらもチェックポイントです。 つづく |
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おまけ:LP時代に数社がオーディオ的にまとめたシリーズを数点出しました。手元に数枚あるのですが、フィリップスのオーディオ・クリニック・シリーズ13#無伴奏チェロ組曲3番がありました。1978年頃でしょう。凄いジャケットです。左サイドの黄色いバンドは縦軸を時間、横軸をレベルとしてA、B面ごとにグラフにして有ります。細かいマークでチェックどころや解説メモを入れています。真面目だなー!ハイレベル、ワイドレンジ、低歪みを狙って片面10分ほどと贅沢なカッティングをしています。いい音で私の上記のチェック項目を確か満たしていました。CDはいとも簡単に同じような音を出しています。カルテが付いていて、「あなた自身が貴方の再生装置の主治医になります」と書いてあります。我々は随分前から「お宅」だったのですね!やれやれ。 |