「オーディオ風味 名曲アラカルト」 2006-2-3 音迷人 5.室内楽:モーツアルト/フルート四重奏曲と シューベルト/ピアノ5重奏曲「鱒」 |
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前回フルートでご紹介が終わっていますので、もう一つフルート曲を続けます。(私、フルートが好きなのがバレましたね!安フルートを買って音が上手く出ないので、教則本の1頁も進まなかった苦い思い出があります。) フルートはピッコロについで高音部まで出します。(周波数表参照)倍音はオーボエの質とは違いますが、張りのある高音時はかなり高次の倍音が入っていると聞きました。フルート曲を聴かれると、ボウボウと響く中低音と、ひゃら〜りと鳴る高音、空気の切れる音、速い呼吸の音、タペット(丁度デスクトップのキーボードを打つような)音が聴き取れます。木管楽器にはフルートのように吹き口に空気を吹き込んで鳴らすタイプとオーボエのようにリードを振動させるタイプがありますね。日本のこれも素晴らしい楽器の尺八はフルートタイプですから、似た表現を持っています。 モーツアルトはフルートが余り好きではなかったといわれています。それにしては素晴らしい曲を書いていますから不思議です。まあ生活の為と言ったら怒られるかな? 昔からお嬢様はフルートが好きだったのでしょう。中に我が侭さんとか気位さんが居て彼のプライドを傷つけたとか想像していますが・・・どうも本当のところは当時まだフルート(まだ木製)の性能が悪く、音程が不安定だったからのようです。 |
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◆モーツァルト(1756〜1791)/フルート四重奏曲は4番までありますが、その1番が一番良く演奏されるようで、私も大好きです。楽器構成はフルートとヴァイオリン、ビオラ、チェロです。 オーディオチェックはこの1番で十分です。1楽章アレグロで軽快に始まります。一般にフルートは一番左側で演奏されます。完全に四つの楽器は分離して聴こえます。メロディーは当然フルート中心に与えられていますが、合わせる和音や、小粋なメロディーを弦が追っかけて実に面白く、素敵な響きを得ています。アダージョの2楽章に入りますと、弦は「始終」ピチカートでサポートします。それで「四重」奏なんて遊んでいるうちに短い章から陽気なロンド(モーツアルトのロンドは本当に素晴らしいです)の3楽章に入ります。私はこれを良く歩きながら口ずさんでいます。メインテーマが繰り返され、渡されて転がってゆきます。中後半チェロの高音部が歌いますが、この多少か細くくすんだ高音は倍音が多いようです。弦楽部が休むことなく鳴っていますので、先に書いたフルートの演奏ノイズは余り聴こえません。演奏ノイズは2楽章で確認してください。先ほどフルートのほかはピチカートなのでフルートソロみたいで、ビブラートをかけるとき吹き口での空気の切る音、唾液の有りそうな吸込み音、タンポやメカの音少々が聴き取れます。当然伸びのある美しい高音、低い音では管に共鳴しているボーボー感のある太い音が楽しめます。それとピチカートですが、オケの集団と違うので指の腹でこする感じ、指紋と弦のこすれる感じが入っています。 |
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この盤のお奨めは佐藤和美/ザイフェルト弦楽四重奏団メンバー/カメラータ盤です。 実は3年ほど前、某アマオケの開演前のロビーコンサートでアマオケメンバーで聴かせていただきました。プログラム予告に出ていたので、常々この盤の録音が良いと思っていましたから、「生で逆チェックだ!」とばかり必死で駆けつけたんです。そこそこの広さのロビーで、皆さんが四重奏団を取り囲むように立って聴きました。当然中央の前、丁度3m強の所ですから、部屋の聞き取り角度と同じくらいの位置関係でした。演奏が始まってビックリ、目をつぶれば我が家と殆ど同じではないですか。偶然反響や残響がCDと似ているから堪りません。この時は一人で頷いたりニンマリしたりで、傍から見ると可笑しかったでしょう。今でもこの曲を聴くとあの時嬉しかったことが思い出され、オーディオの楽しみを有難いと思いました。 |
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◆フランツ・ペーター・シューベルト(1797〜1828)はウィーン生まれです。年明けから「父」で来ましたが今度は「王」です。そう彼は「歌曲王」と呼ばれています。音楽好きで学校長だった父親は子供たちに音楽環境を与えたそうで、シューベルトはバイオリンやピアノを習得したし、教会の児童合唱団(現在のウィーン少年合唱団)にも属していたようです。それで得た寄宿生学校でその後オーケストラ活動や作曲活動を充実させるのでした。 有名な歌曲「魔王」や「野ばら」を含め700曲も創ったそうです。彼は何時も親友や先輩に恵まれ、この頃台頭していた市民階級の文化面をベートーヴェンやゲーテ達と同様担ったことになるのでしょう。シューベルトや支える友達などの集会やコンサートを「シューベルティアーデ」と呼んだそうです。恐らくウィーンのより自由な空気を吸い、少々進歩的で物腰優しく、ギラギラした何事にも欲のあるような目つきはしていなかったことは、丸縁メガネをかけた優しそうな彼の肖像から伺えませんか?この仲良しグループの輪の中にあった為に、かえって世に広く知られることがなく、あまねく評価されるのには時間が掛かったのではないかと推測します。 彼の作品は彼が尊敬するベートーヴェンほど骨っぽく熱くは有りませんが、割と明るい管弦楽曲、灰汁の無い室内楽、清楚かと思うと凄みを持った歌曲など意外と幅広い曲想を持っています。その中の名曲ピアノ五重奏曲「鱒」を紹介します。5楽章からなり、楽器構成はピアノ、ヴァイオリン、ヴィオラ、チェロ、コントラバスです。普通のP五重奏の弦楽部は第2ヴァイオリンが入り、コントラバスが無いようですので、この曲はチェック用にもってこいでしょう。確かにコントラバスが味な演奏をしています。また「鱒」と呼ばれるのはその4楽章の主題と変奏に、皆さんも歌ったことがある歌曲「ます」の旋律を使ってあるからです。 |
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オーディオチェックは5つの楽器のフォルテの合奏が歪みの無いザラ付かない落ち着いた響きであれば合格です。1楽章導入部や3楽章が正にチェックどころです。それとピアノが一般に後列に置かれてますので、余りオンマイク的な音(例えばピアノソナタなどの盤)ではありません。録音は弦楽器とのバランスで難しいところがありそうです。かなりの盤が弦に遠慮して録るか、弱く弾く傾向があります。さらにピアノの蓋を僅かに開けた位置で演奏していると思います。それでピアノがぴょろんぴょろと残響が大目か,芯の弱いタッチに聴こえ易いです。一方コントラバスは絶えずピチカートやボウイングでブンブンと低音を支えていますので、動きが良く解ることです。チェロの刻みが独特の音色で変化を与えています。1楽章後半バスをしごく様にブリリブリリと弾くところがあります。弾力感が出ていることが必要です。この曲は低音弦の主張が多いと思います。強く引くと倍音が良く出てエッジの立った低音が聴かれます。結構高次の倍音までトランジェントが良くないといけません。こんな時は弦でもホーンSPが向いています。周波数的に見ると以前出した表でチェックしますとコントラバス最低音42HzからVnの2350Hzくらいで重要範囲は「基音」で60〜2000Hzでしょう。上は7倍音で考えても14,000Hzです。NHKFM送信音声周波数上限は15,000HzだそうですからCDの20,000Hzより狭いのですが、不足無く楽しめます。コーンタイプのウファーはコントラバスの大きい響き用に口径25〜38cmが良いですね。このタイプのピストンモーション上限は500〜1000Hzでしょうから、早めに小口径中音SPかホーンに渡すと良いですね。 |
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2楽章以下同様ですが4楽章は「ます」の旋律が柔らかく奏されて歌い、変奏されます。変奏が進むうち激しく展開するところは歪まず楽器の重なりが良く解るといいですね。ところで5楽章は6分半頃いったん終わったようでまた繰り返しをして10分ほどで終わります。私はなぜそうなのか解りませんが、蛇足に聴こえてなりません。良く会場で拍手がされてしまいますが、それが自然だと思います。まあ実演の時はご注意を! 私のお奨め盤はP:アンドラーシュ・シフとハーゲン四重奏団/ロンドン盤です。録音は混濁感なく良く分離し、大変音色に癖がなく音楽再生で重要なあらゆるバランスが良いです。上記のピアノ音の問題が比較的少なく、ピアノの表情がよく伝わってきます。高音をコチンと鳴らすようなとき金属製のベースに金属弦が張ってあって固めのフエルトハンマーで叩くような感じが出ています。 つづく |
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おまけ:◆フルート曲のCDは沢山ありますが、肩のこらない面白い企画のCDを紹介します。マジックフルート・タンゴ/中川昌巳/カメラータ・トウキョウです。従来からのフルートショートピースを集めたのではなく、イージーリスニングにも向いた曲を入れています。セサミストーリート・テーマ、マジックフルート・タンゴ、アメージング・グレイス、アリラン、面白いのが黒田氏の西方見聞録なるメドレーなどです。黒田節と来て想像付くと思います。全体にフルートが出せる音域や音色、表情(奏法)が全部というほど有るように聴こえます。二十五弦筝のKARINさんも参加して盛り立てているのですが、素晴らしいのは全曲を通してピアノ伴奏している辻本智美さんのピアノです。達者で粋なユーモアに満ちた中川氏のフルートを出しゃばらず、かといって引っ込まず掛け合うところはしっかりと、とかく揺らぎやすい管楽器のリズムを楽しく支えています。尋常なピアノでは無いと思いますよ。 録音は1997〜8でマイクはSCHOEPSです。 |
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◆この前バッハの肖像を掲げました。私の見たところ、音楽家の肖像画はそれぞれ色々な画家のが残されているのですが、ご本人の印象は伝わってきますが、必ずしも似ていないことが多い様です。「これで同じ人?」なんて思うのもあるでしょう。しかしシューベルトだけは誰が書いたのもそんなに違わないなと何時も思うのです。集めてみました。頭髪と額それとメガネのせいかなぁ。 |
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◆鱒の紹介盤のハーゲン四重奏団について申し上げます。1980年ごろ結成されすぐに評価を受けて活躍したそうです。ザルツブルグの音楽一家であるハーゲン家の兄弟姉妹で構成されていました。現在は長男ルーカス:ファーストVn、次男ヴェロニカ:ヴィオラ、三男クレメンス:チェロ でセカンドVnには外からライナー・シュミットが入っている。と書いてきて気が付いたのですが、鱒ではクレメンスがVnで、ルーカスがチェロです。当然持ち替えは出来なくないのですが、ほんまかいなー?と言うところ。何れにせよ音楽一家といえどもこうも上手く楽器構成が出来、その上腕が良いとは羨ましいですね。音迷人家のバラバラというか、何も無いというかは呆れるばかりです。お宅はいかが? 当然世に出て活動する前は音楽道に励みながら兄弟で合奏しつつ、曲の研究をし、お互い切磋琢磨したと思われます。「ここはこう演奏すべきではないか?」「いやあの時代はこうじゃないかな兄さん!」などとやっていたので息があっているのだと思います。これが本当の「始終相談」なのです。(友達から教わったギャグで〆ました)(-_-;) |