「オーディオ風味 名曲アラカルト」 2006-2-10 音迷人 6.ルイ・エクトール・ベルリオーズ/幻想交響曲 |
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古典音楽の中心国のオーストリア・ドイツの近くで個性的なフランスからのトップバッターです。ベートーベンに次ぐシューベルト、シューマンの世代ですね。ベルリオーズ(1803〜1869)はフランス南部の田舎町お医者さんの長男として生まれました。当然昔は家業を継ぐことが多かったので、(まるで日本の政治家や医者も同じですね)医学を学んでおりましたが、音楽への思い断ち切れず23歳ぐらいでパリ音楽院に転じたそうです。特に管弦楽法を勉強し、40歳ごろにはその成果をまとめて出版したそうです。遅い音楽修行でピアノなどの演奏技術はなく、それまでのオーソドックスな天才的純音楽家達とは違うため、自由というか勝手というか個性的(異端的)な曲を書いた(書くしかなかった?)のだと思います。その上性格も激情的でしたから、型にはまる訳が無いのでしょう。(音迷人風料理法?) |
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今回はそのうち、私達リスナーとして一度は強烈な音楽と音響を浴びせられる「幻想交響曲」を取り上げましょう。この曲をオーディオ的に「音響の宝庫」と言って良いでしょう。 ドイツ辺りで古典派からロマン派といわれるまあ無難なというか正面から取り組んだ交響曲が有った訳ですが、ほぼ同時期、あたかも今でも感じる「フランス映画の持つ個性」「フランス車の一風変わった個性的なデザイン(最近は影を潜めているが)」のように個性的なグロテスク?な交響曲が登場したのです。そして音楽技術的にも多くの新記録?を持ち、後世の作曲家たちに多くの影響を与えたと見てよいでしょう。 |
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この曲はベートーヴェン没後3年後の1830年の完成で、こんなにも変化した交響曲が出来たのです。そして標題交響曲として徹底して創り込まれています。音でストーリーや情景、心象を表すので、理解を助ける為作曲者が短い説明を入れてます。この曲はベルリオーズ自身の恋の片思いから歪んだ感情を表わしたといわれています。すなわち「感覚の鋭い想像力の高い若い音楽家が、思いの通じない恋の為、阿片を飲んでしまう。(この時代すでに医学的に除痛剤として阿片すなわちモルヒネを使っていたようです。彼は初め医学を志していましたね。生涯つき合わされた神経性の腹痛の為、彼ならさもあらん!)昏睡状態で見た奇怪な夢を見る。その異常な感情は音楽にそれこそ幻想的にあらわれる。」ということです。ほかに特徴的なのは「恋人」を表わすとき決まった旋律を与えています。後のワーグナーの「ライトモティーフ」に相当しますかね。また標題交響曲というとベートーヴェンの田園を思い出しますが、ストーリーは無かったですね。むしろそれには否定的でした。しかしこの曲では(下表)のように成っています。 |
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第1楽章:「夢、情熱」〜若い芸術家が恋する女性にめぐり合う不安や憧れと苛立ち 第2楽章:「舞踏会」〜華やいだ舞踏会でワルツの舞踏の中見え隠れする美しい彼女を不安げに追う 第3楽章:「野辺の風景」〜夏の野辺の夕暮れを行く芸術家。二人の羊飼いの吹く笛に、彼女の裏切りの不安にさいなまれ、遠雷に孤独感が増す 第4楽章:「断頭台への行進」〜嫉妬の妄想に狂い恋人に手に掛け、断頭台に送られる 第5楽章:「魔女の狂宴」〜埋葬される彼の周りを妖怪、魔女が踊り狂います。恋人が現れるがかつての気品がなく昔の聖歌「怒りの日」に飲み込まれる(確かワルプルギスの夜の夢と言ったと思うのだが・・) |
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ではオーディオ的な「音響の宝庫」を聴いてみましょう。古典派の平均的なオーケストラ構成では2管編成までですが、この曲はティンパニー4台、ハープ2台、チューバ2台、ピッコロ2、コールアングレー2、ファゴット4、鐘などと拡大されています。お聞きになると解る様に、演奏される音響はおよそ他の作曲家が、それまで与えもしなかった響きだと思います。 1楽章:弦のゆっくりとした柔らかい、はかない合奏から始まります。弱音系の典型的な響きを持っています。そしてコントラバスがかなり沈み込む(42Hzほどまで)ピチカートを付けていきます。この曲における弦群は実は色々な表情、響きをあたかも「弦楽合奏の音色カタログ」のように示してくれます。この曲に限らず是非再生しながら良く聴いて覚えてください。色々な曲を聴いた時思い当たる響きに出会います。そして「生」を聴いた時同様同じ響きに出会えば、貴方の装置はかなり健全だということです。やはり「生」より、学習する機会が多い自分の再生音で覚えておくほうが容易です。「逆チェック」ですよね。これは重要な方法です。時には「生」の方が酷い時や、聴こえないことがありますがね。 暫く美しい弦が進むと後半徐々に興奮してきて想い熱き情熱を奏します。トランペット?コルネット?がパリパリなっています。このクライマックスも混濁しないことです。SPシステムや部屋のせいでピークがあると、他の音がマスキングされ分解能が下がり、且つ歪っぽくうるさく聞こえます。部屋の定在波が悪さをしますので乱反射など検討してください。私がやった反射板(参:メルマガバックNo.160)はそれなりに効果がありました。 2楽章はハープ2台が活躍するワルツです。舞曲として今まではメヌエットやガボットではないのも始めてかな?ハープはオケの中にあって音量はそんなに無いし、指ではじいた瞬間のエネルギーだけですから、音色で目立つしかありません。これを聴き出してください。木管との絡みも澄んで聞こえます。コーダに素人風に言うとドシラソ・・とオケが下降音を奏でますから、響きの厚みを確認してください。LPでは最内側ですので中々上手く行きません。 |
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3楽章は羊飼いの笛をコールアングレー(イングリッシュ・ホルン:オーボエのでかい奴)が静けさや孤独感を暗示するように、静かに羊飼い2人が交信します。実際の演奏では舞台袖裏や、二階席に一人が回って演奏されます。ペ〜パポ〜パとくすんでいるがビロードのような音がスムースに出るかどうか。ダブルリードのオーボエ系の音は高次の倍音が多いそうですので、テープでしたらヘッド、カートリッジでは軽振動子、ツーイターは過渡特性などの質が問われそうです。ピーキーでないことが重要でしょう。弦が受けて不安でさいなまれる感情を押し殺したように進めます。それでもやはり美しい弦がニュアンス深く奏されます。中間では一瞬信じられない明るさというか、素敵な田園風景が現れます。低音弦がそそり立つ雲か、激しい感情の爆発の嵐となりまた静まるところのニュアンスが出るか。ホールの広い空間を感じるところです。ウジウジ進めるうちに笛に呼ばれたように遠雷が鳴り響き・・・ここがティンパニー奏者総出で強打したり、ロールしたり忙しいようです。音程の違うティンパニーが鳴っていますが良く解りますか?指揮者のせいかあっさりやるのと、劇的にやるのがあります。 |
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4楽章はもう何もいう必要は無いと思います。Dレンジがきっちり確保されているか、大太鼓、シンバルの迫力が出るか、ラッパ群が切れよく吼えるかですね。実に透明なラッパです。ここのフォルテがうるさくない事が重要なチェックポイントです。(何故かLPはシンバル再生に弱い傾向があります。シャンとかガッシャーンがジャーとかビジャーとなってしまいます。CDのように重力がないと可なり良くついて行きますが、カンチレバーのあるカートリッジの辛いところかもしれません。ダイナミックレンジの大きい曲は何と言ってもCD再生です。圧力、ひずみ、分解能どれをとっても勝ります。勿論LPではよいコンデションではそこそこ出ますが)あとピチカートの切れやファゴットのうめき等の感じを捉えてるかも重要でしょう。それにしてもフランスというと断頭台、ギロチンとなりますねぇ!おそろしや! 5楽章も音像は4楽章と似ていますが、更に響きはグロテスクに多様化即ち、演奏方法も多様化します。不気味な墓地や妖怪の巣?を暗示する音創りから、意外や木管がひょうきんに跳ね出して狂宴が始まります。教会の弔いの鐘が鳴り渡りますがお構いなし。この鐘は東洋の梵鐘のように低い音程の鐘もあれば、西洋のベルのように甲高いのもあります。指揮者の好みか、調達できる鐘によるのでしょうか。実演では本物の鐘や(梵鐘は持って来れません)のど自慢のパイプ鐘、ピアノ和音などだそうです。(昨年暮れに某大学オケで「幻想」を聴きました。その時は確か4ヶの洋鐘をパイプやぐらに釣るして、客席中通路入口にセットして打ち鳴らしていました。レンタル料はいくらでしょうか?(-_-;)またハープを舞台から降ろし指揮者の両脇の下に配していました。ハープが指揮者のほうを向くので音が飛ばずこれは失敗。)打った瞬間の鐘のリアリティーがあるかどうかです。 ほかに珍しい奏法でVnが弓の背の木部で弦を叩くようにして弾きます。チャカチャカ、カラカラと聞こえますからきっと骸骨踊りでしょうね。これもはっきり解ります。 |
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私は良くテストでこの曲を鳴らすこともあるのですが、鑑賞する時はやはり上記に書いた曲想などから離れ純粋に音・楽として楽しんでいます。毎回「激情や不安や断頭台」じゃ身が持ちません。寒波襲来の冬でも、せめて心の中は暖かくしておいて「暖冬だい!」と つづく |
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おまけ◆このLPはモノラール時代有名を馳せた演奏と録音です。おおよそ50年前です。エピックレーベルでウイリアム・ヴァン・オッテルロー指揮ベルリン・フィルです。 低音は可なりブースト気味で、再生側の弱さを録音で補うという誤った考え方で製盤されているようです。 このジャケットは曲が曲だけに可なりハチャメチャなディザインですが、なんだか4,5楽章の感じが出ていませんか? |
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◆「幻想」といえばシャルル・ミユンシュというほど評判でした。彼は激情的に表情豊かに指揮していました。少し長めの指揮棒をビュンビュンしならせて振っていましたよ。 1954年ボストンでのステレオ録音の1986年デジタルリマスターLPです。お奨め盤レヴァイン盤より、オフマイクでドンシャリに聴こえます。 |