氷のレコードハイファイ堂メールマガジン第671号ハイファイ堂レコード

氷のレコード
ハイファイ堂メールマガジン第671号ハイファイ堂レコード

お世話になっております。レコード店の皿屋です。こんな寒い季節になると、ふとあるレコードのことを思い出します。それは、『氷』でできたレコードのことです。

かれこれ五年も前のことですが、東京の展覧会で見ました。美術作家の八木良太さんが製作したもので、アナログの特性を活かした作品になっています。氷といえども、もちろん溝があり針を落とせば再生します。（どうやって作ったか知りたい。）素材の特性上、再生中、徐々に溶けてゆき溝は変形していきます。（音は、ヘロヘロになります。）そしてやがて溝はなくなり、音が消えます。レコードは、基本的に同じ音が流れますが、これは気温の変化で氷の溶ける速度が異なり、毎回、違う音が流れます。再生というよりかは、ライブ演奏に近いです。最終的に、音、レコード諸共、消失します。時間の流れを緩やかに見せながら、決して戻ることがないと示唆しています。あらゆることは何れ終わってしまうか…そんなことを考えていると感傷的な気持ちになります。儚い美学を感じる作品です。 ※ちなみに氷は重量盤を遥かに超える重さで、プレーヤーの回転がしんどそうでした。
他にも、球体にカセットテープを巻きつけて、ランダムに回転し再生する作品があったり。どこかアナログチックで男心くすぐる面白い作品ばかりです。
合わせてもう1人、音を扱う作家を紹介したいと思います。それはスコットランド出身のジム・ランビーです。私が最も好きな作家です。美術作家になる以前は、ティーンエイジファンクラブの前身バンド、ザ・ボーイ・ヘアドレッサーのメンバーとしても活動していました。adidasとコラボしたりターナー賞にノミネートされるなど世界的にも有名です。直接的な音は使わず視覚で表現するインスタレーションで知られています。代表作は、こちら。床にビニールテープを貼り、サイケデリックな空間にします。バキバキな原色とテープの光沢、空間に応じて屈折する線、リズミカルに見えませんか。例えるなら、ゼロ年代以降の無機質な打ち込み音楽のようです。その世界に足を踏み入れれば、Jim Lambieの独壇場。圧倒的な空間の支配力に、恐れいります。


ただこれだけだとアイディア一発勝負のやったもんがちになりそうですが、ちょっとしたポイントが違います。そこに添えられた小品のセンスがずば抜けています。私が美術学校に通っていた時、作品を見て、何度もやられたー、とため息をつきました。主に日用品を素材として扱います。例えばこの作品。ビニール袋にペンキを垂らしただけの作品です。サイズ、配置、配色、バッチリ決まってます。こういった作品は落とし所が重要になってきます。手を加えすぎるとダメになる事もあるし、かといってただ手抜きの弱い作品にもなりかねない。製作中は、あらゆる概念、感情にとらわれるので客観視するのは、本当に難しいと思います。しかし、Lambieは、ちょうどいい塩梅で止める。閃きと僅かな手数で作品を成立させています。絶妙なセンスです。最小限の力で、最大限の魅力を引き出しています。普段、見慣れた安っぽい日用品が重厚感を持ち、彫刻や絵画作品へ変貌します。他にも、ラメをペタペタ貼ったり、レコードジャケットを切り抜いてコラージュしたり、ペンキをかけたり、手法としてはオーソドックスです。ハンドメイドなのに無機質でクール。クールだけどアカデミックな要素の両方兼ね備えています。すっとぼけた作品があったり、きっと素朴な人だと思います。国内なら青森の十和田市現代美術館で常設されていると思いますので、興味がある人は足を運んでみてください。

大須本店

〒460-0011 愛知県名古屋市中区大須3-14-37 (052)249-2600

秋葉原店

〒101-0021 東京都千代田区外神田5-3-12清和ビル1F　3F (03)5818-4751

日本橋店

〒556-0005 大阪市浪速区日本橋 4-6-9 (06)4396-7611

福岡店

〒810-0041 福岡市中央区大名2-6-40 文學の森ビル1F (092)724-3681

営業時間

11:00～20:00／福岡店のみ水曜定休

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お世話になっております。レコード店の皿屋です。こんな寒い季節になると、ふとあるレコードのことを思い出します。それは、『氷』でできたレコードのことです。

かれこれ五年も前のことですが、東京の展覧会で見ました。美術作家の八木良太さんが製作したもので、アナログの特性を活かした作品になっています。氷といえども、もちろん溝があり針を落とせば再生します。（どうやって作ったか知りたい。）素材の特性上、再生中、徐々に溶けてゆき溝は変形していきます。（音は、ヘロヘロになります。）そしてやがて溝はなくなり、音が消えます。レコードは、基本的に同じ音が流れますが、これは気温の変化で氷の溶ける速度が異なり、毎回、違う音が流れます。再生というよりかは、ライブ演奏に近いです。最終的に、音、レコード諸共、消失します。時間の流れを緩やかに見せながら、決して戻ることがないと示唆しています。あらゆることは何れ終わってしまうか…そんなことを考えていると感傷的な気持ちになります。儚い美学を感じる作品です。 ※ちなみに氷は重量盤を遥かに超える重さで、プレーヤーの回転がしんどそうでした。
他にも、球体にカセットテープを巻きつけて、ランダムに回転し再生する作品があったり。どこかアナログチックで男心くすぐる面白い作品ばかりです。
合わせてもう1人、音を扱う作家を紹介したいと思います。それはスコットランド出身のジム・ランビーです。私が最も好きな作家です。美術作家になる以前は、ティーンエイジファンクラブの前身バンド、ザ・ボーイ・ヘアドレッサーのメンバーとしても活動していました。adidasとコラボしたりターナー賞にノミネートされるなど世界的にも有名です。直接的な音は使わず視覚で表現するインスタレーションで知られています。代表作は、こちら。床にビニールテープを貼り、サイケデリックな空間にします。バキバキな原色とテープの光沢、空間に応じて屈折する線、リズミカルに見えませんか。例えるなら、ゼロ年代以降の無機質な打ち込み音楽のようです。その世界に足を踏み入れれば、Jim Lambieの独壇場。圧倒的な空間の支配力に、恐れいります。


ただこれだけだとアイディア一発勝負のやったもんがちになりそうですが、ちょっとしたポイントが違います。そこに添えられた小品のセンスがずば抜けています。私が美術学校に通っていた時、作品を見て、何度もやられたー、とため息をつきました。主に日用品を素材として扱います。例えばこの作品。ビニール袋にペンキを垂らしただけの作品です。サイズ、配置、配色、バッチリ決まってます。こういった作品は落とし所が重要になってきます。手を加えすぎるとダメになる事もあるし、かといってただ手抜きの弱い作品にもなりかねない。製作中は、あらゆる概念、感情にとらわれるので客観視するのは、本当に難しいと思います。しかし、Lambieは、ちょうどいい塩梅で止める。閃きと僅かな手数で作品を成立させています。絶妙なセンスです。最小限の力で、最大限の魅力を引き出しています。普段、見慣れた安っぽい日用品が重厚感を持ち、彫刻や絵画作品へ変貌します。他にも、ラメをペタペタ貼ったり、レコードジャケットを切り抜いてコラージュしたり、ペンキをかけたり、手法としてはオーソドックスです。ハンドメイドなのに無機質でクール。クールだけどアカデミックな要素の両方兼ね備えています。すっとぼけた作品があったり、きっと素朴な人だと思います。国内なら青森の十和田市現代美術館で常設されていると思いますので、興味がある人は足を運んでみてください。

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