いつもお世話になっております。 ハイファイ堂、京都商品部の滝本です。 暦も立夏を迎え、ゴールデンウィークも終わりに近づき いよいよ季節は夏を迎えようとしております。 かと思えば、未だに夕刻からの肌寒さに驚かされる日も少なくなく、 皆様方もなにとぞ体調を崩される事のないようお気を付け下さい。 |
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さて、突然ですが次の写真は一体何を写したものか お分かりになるでしょうか? |
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まるで建築中の家の断熱材の施工チェック写真のようにも 見えてしまいますが、勿論そうではありません。 じつはこれ(と、勿体ぶるほどの事ではないのですが) スピーカー内部の吸音材を写した写真です |
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モノはALTECのA5です。 「Voice of the Theatre」の名で通りがよい このA5は その名が示す通り、劇場用としてのスピーカーシステムです。 それだけにエンクロージャーも大型のしっかりしたもので (写真のもの実寸 幅755mm×高さ1063×奥行630)、 初めの写真はメンテナンス中のものですが、前方下部の開口部分から 内部の上方に向けて、左側面の中ほどを写したものです。 |
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こちらは下部全体の写真。 |
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ご存知のようにスピーカー内部の吸音材はスピーカーの音の性格を 色付けるものとして大事なひとつの要因です。 まあ吸音材が無いからと言ってスピーカーの音が 鳴らないわけではありませんが。 むしろ無くてもしっかり鳴ります。 だがしかしです、吸音材があると無いとでは スピーカーから聞こえる音には明らかなる差が生まれてきます。 |
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そもそもの吸音材の役割は、大まかに言うと余分な音を無くす事です。 スピーカーのユニットは構造上、本来聞きたい音とは逆位相の音がエンクロージャー内に出てきます。 これが例えばバスレフタイプだと、ダクトから出る音を適切なものに吸音材で調整していますし、 一方、密閉型になるとユニットのコーン部分などから余分な音がもれ出さないように、内部を吸音材で満たしていらない音を大幅に吸収しています。 |
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たかが、されど吸音材と言えば良いのでしょうか、 それぞれのスピーカーのエンジニアが、それぞれの意図を持って スピーカーの持つ潜在能力を無駄なく引き出す為に 絶妙な位置に適した量、素材の吸音材を配置しているのです。 (と、ほんの一昔前までは思っていました。この辺りのお話はもう少しばかり後ほどに。) |
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ところで皆様も、普段オーディオ機器を使われる時、 その能力を如何なく発揮させる為、 またはご自分のお好みの音で鳴らす為に、様々な方法を試されていることと思います。 それは例えば機器の組み合わせであったり、オーディオアクセサリの追加やグレードアップであったり、 部屋(リスニングルーム)の改善であったり…。 |
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そんな中、スピーカー内の吸音材での調整という方法は なかなかに順位が後の方に来る方法だと思います。 作業自体の単純さという観点からすれば ハードルが低いようにも思えるのですが、 如何せん、まず製品として蓋がされている状態のものを 一旦開けねばならないという少し高めのハードルがありますし、 その後も自分の満足のいく音を得る為には、吸音材の 素材や使う量、取り付ける位置などをひたすらに トライアンドエラーしなくてはならないという、 なんとも中途半端に飛びづらいハードルが 延々続いていく訳ですから。 |
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しかしながら、オーディオによくある「良くなった気がする」といった 曖昧な音調整ではなく、吸音材による調整は 確かに聴感で差を感じる事が出来ますし、 吸音材も通常、安価に導入出来ますので、 お手元に 自分で中を開けてみてもよい というスピーカーをお持ちの方は、 一度試されてみてもよいのではないでしょうか。 その一助にでもなればと願い、 普段ご覧になる事も少ないであろうエンクロージャー内部の 吸音材廻りをご紹介させて頂きたいと思います。 メンテナンス中の商品からの写真の為、 お見苦しい点もあるかとは思いますが、ご理解頂ければと思います。 |
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まずはTANNOY SRM15Xです。 |
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Super Red Monitor 小型版といったスピーカーですが、 バスレフのダクトが三カ所見られます。 |
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内部はと言うと、所々に渡し的に木材の補強が入っていて堅牢な造りです。 |
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さて吸音材ですが、上面、背面、側面、底面に 厚さ平均4~5cmほどのウレタンが接着してあります。 |
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ダクトからの見栄えを考えての事でしょうか、 底面と背面下部のウレタンには黒の着色が施されているところに 仕事の細かさを感じます。 特に特徴的な配置は見受けられず、エンクロージャー内面を まんべんなく覆っていた感じなので、音の全体量を押さえるといった 方向性の吸音でしょうか。 |
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同様に TANNOY エジンバラ。 |
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やはり同バスレフ方式、同一メーカーとなると施される処理も同様なようです。 |
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バスレフ式は共振周波数の設定の都合もあり 吸音材も細かくチューニングするような話を聞く事も あるのですが、この場合はそこまでシビアではないのかな、 と感じます。 |
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変わって JBL 4320。 |
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こちらもバスレフ方式なのですが、使われている素材がグラスウールとなり、 梁のような部分もしっかりと覆ってあります。 |
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気持ちダクト付近の吸音材の量、張り方がしっかりとしているようです。 |
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グラスウールはウレタンに比べると吸音後の音の印象が軽やかな感じです。 最終的な音の印象はユニットやエンクロージャーの形自体にも大きく 左右されていますので、この印象の要因がグラスウール主体のものなのかどうかは なんとも言い切れないところもあるのですが。 吸音材の素材としてはこのグラスウールがとても多く選ばれているようです。 天然素材では無いが故の、耐久性、生産性、コスト、加工性の利点が 重宝されているのでしょう。 ただ、私にとってグラスウール一番の懸念は チクチクしてとても痛いという事です。 細かいガラス繊維が織り込まれているので、さもありなん なのですが、 取り扱い時にはなかなかに苦労させられます。 |
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TANNOY 3LZ 、密閉型です。 これはユニットが主体というこのスピーカーの特徴を反映してか、 箱によって使われている吸音材の素材も様々でした。 |
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ウールの様なものあり、 |
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グラスウールあり、 |
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粗毛フェルトもありました。 ただ配置の基本として、天、地、側面と背面、 という所は共通しています。 |
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次に Victor SX-3。 |
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特にこの小型ブックシェルフの密閉方式では とかく多くの吸音材が盛り込まれます。 |
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これは、小型でありながら大型並みの低音の再生を可能にする為の 「アコースティック・サスペンション方式」に準じたやり方であるためなのですが、この辺りはまたあらためての機会に触れさせて頂ければと思います。 |
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吸音率が高めのエステルウールをこれでもかと折り込み 詰め込みます。 |
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続いて YAMAHA NS-10M 。 |
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同様にブックシェルフの密閉型ですが、これだけの量のグラスウールを、 |
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詰め込みます。 |
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エンクロージャー自体の天地側面にもしっかりと 張り付けてあります。 |
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同じく YAMAHA NS-1000 。 |
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NS-10M よりも大きくなった分、グラスウールのボリュームも 相当なものです。 |
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側面の素材が厚手の粗毛フェルトになっているという 相違点はありましたが、 |
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やはり詰め込まれます。 実際にユニットを組み付けていく時には 吸音材を背面、側面に、と整頓させて 内部に綺麗に詰め込んでいきます。 |
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最後に SONY SS-G7 です。 |
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これはバスレフ型なのですが、それにしては 吸音材がとても多いという印象です。 |
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不織布でくるんだグラスウールが、 |
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それぞれの仕切り内にしっかりと詰められます。 |
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内側面も粗毛フェルトで覆われています。 |
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メンテナンス手順などの都合上、吸音材なしの状態で G7の音を聞いた事はないのですが、一度 吸音材無しで、 果たしてこれでバスレフの効果を活かせているのかどうか 試聴してみたくなります。 |
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さて、こうして色々なスピーカー内の吸音材を見ていると、 果たしてそれがきちんと計算されて使われているものなのかどうかと 迷うものも多々あります。 もちろん(小型密閉型などは特に)、吸音材によるその効果を ユニットに返す力まで計算して配置されている、 吸音材触るべからず のようなスピーカーもあります。 しかし中には、おおらかに、取りあえずこれくらい入れておくか、 くらいの感覚で吸音材が配置されているようなスピーカーも やはり一方であるのです。 でもだからこそここで、私たちが自身で吸音材を変えたり 足したり引いたり位置替えしてみたりする余地が 生まれてくるというものだと思います。 音の好みは人それぞれです。 極論、メーカーが設定している音が その人にとってのベストではないかもしれません。 たったひとつ吸音材の固まりを取り出したり、追加しただけで そのスピーカーが自分の望む音へと変化したら それはとても面白い事だと思いませんか? 私自身も様々なオーディオのトライアンドエラー、試してみたいと思います。 それではまた。 |