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明けましておめでとうございます。 京都もいよいよ本格的な冬の気候になってきました(寒いです)。京都商品部の朴 高史です。 今回は、暑かった昨年の夏に、Ditton 66を3ペアまとめてメンテナンスした事で印象に残るメーカー セレッション「CELESTION」についてのお話です。同時期にDitton 66のほかに、Ditton 15やSL700なども合わせてメンテナンスしたのですが、ウェブアップされますとあっという間に売れてしまう人気のスピーカーブランドです。 |
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創業が1924年(社名が「CELESTION」とされるのは1927年)と大変に古いスピーカー専業メーカーで、1930年代に電蓄やラジオ製造で発展しました。アメリカに始まった世界恐慌の影響から危機に陥り、ラジオ用のユニットなどで凌ぐのですが、第二次世界大戦が始まると製造に制限がかけられました。 |
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画像は bygonetones.com http://www.bygonetones.com/the-history-of-celestion.html stereophile.com https://www.stereophile.com/content/three-days-england-kef より |
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戦争が終わり復興に向かう中、セレッション社は、アメリカローラカンパニーのイギリス支社で、同じく製造制限を受けていた、スピーカー専業メーカーのブリティッシュローラ社に吸収合併されました。1947年に社名はローラ・セレッション「ROLA-CELESTION Ltd」に変更され、商標はセレッション「CELESTION」とされます。会社はキングストンからローラ社があったテムズ・ディットンに移ることとなります。(Dittonシリーズはこの地名からの命名のようです。)1949年、ラジオ用だけでなくテレビ用のスピーカーユニットの需要も高まり、事業が軌道に乗り始めた頃、業務用PAシステムに強いメーカー「Truvox」社(現在、Truvox社は、業務用掃除機のメーカーになってます。)に買収され、業務用スピーカーユニットの製造も始められます。様々な製品が開発される中、BBC用モニタースピーカーに、ツイーター「HF1300」(LS5/1,Spender BC2などに採用)や、スーパーツイーター「HF2000」(LS5/6,Rogers Studio1などに採用)が採用されます。 |
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CELESTION HF1300 |
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1950年代後半に、イングランド北西部、マージー川沿岸のリバプール市から起こった「マージー・ビート」が大騒ぎで、その中心的なグループが「ザ・ビートルズ」、その人気のビートバンドが使っていたエレクトリック・ギター用のアンプ(ベースやキーボードもあったのですが)がVOX AC-30(AC-50)でした。 |
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画像は articulo.mercadolibre.com https://articulo.mercadolibre.com.ar/MLA-751727140-amplificador-vox-ac30-valvular-1963-original-blue-alnico-_JM m80radio.com http://www.m80radio.com/2015/los-lugares-mas-insolitos-para-dar-un-concierto-22316.html |
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1950年代初頭、業務用PAスピーカーユニットで開発採用されていたフルレンジユニットCELESTION G-12 B024Gが、1958年VOX AC-15や、AC-30に採用されます。(G-12の型番は、ブリティッシュ・ローラ社にあった戦前のラジオ向けフィールドコイルユニットからの由来だと考えられます) |
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画像はreverb.com https://reverb.com/item/3302532-1961-vintage-celestion-b024-g12-alnico-old-recone |
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60年代に入りますと「マージー・ビート」は世界中に広まり、様々なバンドがVOXのアンプを使い始めます。使用ユニットは、VOX専用ユニットCELESTION G-12 T530(通称VOX Blueや、ブルーバックと呼ばれてます)に変更されます。 |
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画像はvintageguitarandbass.com http://www.vintageguitarandbass.com/adDetails/432 premierguitar.com https://www.premierguitar.com/articles/Pulp_Fiction_Pulp_Fact_Celestion_Blues |
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1962年、自身もミュージシャンの(ドラマーだったそうです)ジム・マーシャルが、彼を慕って集まっていた若いミュージシャンのために、当時人気でしたが高価で手がでなかったアメリカ製アンプ「Fender Bassman/5F6A」のアンプ部をほぼ完全コピーして作ったのが「Marshall JTM45」です。スピーカー部は12インチユニットを4つ入れたキャビネットを組み合わせました。スピーカーユニットは、やはり当時売れていたVOXのアンプとほぼ同じスペックのCELESTION G-12 T652を採用し、製品化され、人気を集め始めます。当初は、やはりベース用として作られ使われたのですが、次第に「Fender Bassman」同様ギター用として使われます。 |
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画像は stangguitars.com https://stangguitars.com/products/used-marshall-jtm45-offset-reissue-limited-edition-head-cabinet-w-coa?variant=12441077350505 |
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1965年、The Whoのピート・タウンゼントの要望で作られたと伝わる、最初の100Wのアンプが「Marshall JTM45/100s」です。(VOX の100WアンプAC 100も想定にあったと思われます) |
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スピーカーキャビネットは、当初は12インチユニットを8個入れた物をとの要望があったのですが、実現したのは、12インチユニットを4個入れたキャビネットを二段積みで使う方法で、その上にアンプを乗せるスタイルを「marshall stack」と呼ばれるようになります。 画像はthewho.net http://www.thewho.net/whotabs/gear/guitar/marshallstack.html |
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1966年ロンドンで「The Jimi Hendrix Experiences」が結成されます。そのJimi Marshall Hendrixが愛用していたアンプが「 Marshall SUPER LEAD/100W」 |
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画像は http://crosstowntorrents.org/gallery/showimage.php?i=6181&c=16 |
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ロックは、よりハードにヘビーになっていく中、スピーカーユニットも強力な物が求められるようになります。「marshall stack」キャビネットに搭載されるのが、磁気回路をアルニコからセラミック(フェライト)に変更された「CELESTION G-12 C」です。(通称 グリーンバック) ロックサウンドの形成にセレッションのユニットが深く関わっていくのでした。 画像はreverb.com https://reverb.com/ca/item/6437068-marshall-celestion-g12c-16-ohm-25-watt-guitar-amplifier-speakers-g12c |
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ローラ・セレッションの事業が多角的に広がりつつある中、家庭用ハイファイオーディオの需要も高まります。1964年、初の家庭用ブックシェルフ・スピーカーである「Ditton10」を発売します。(高域ユニットに、「HF1300」を採用した2ウェイ) |
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1968年に「Ditton15」を発売(ARB「オーキシャリー・バス・ラジエーター」使用により、低域部が補正されます。)。 1969年の「Ditton25」では、高域部にスーパーツイーター「HF2000」、中域部には、ツイーター「HF1300」を2機使用。 1972年の「Ditton44」で、中域部にコーン型スコーカー「MC-6」を使用。 1973年「Ditton66」で、高域部にスーパーツイーター「HF2000」、中域部にドーム型スコーカー「MD500」、低域部に12インチウーファー「UL12」+ARB「オーキシャリー・バス・ラジエーター」。これで、Dittonシリーズの音が完成されたと思われます。 |
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メンテナンス中のチェックなどで聴いた「Ditton 66」の私個人の印象は、アコースティックな音が気持ちよく綺麗に鳴るタンノイやBBC系モニーターとはまた違った、イギリスらしい雰囲気が感じられるスピーカーだということです。 Dittonシリーズの音が上手く表現されている、瀬川冬樹氏の文章を抜粋します。 「しかしDittonの音になると、客観的な意味での"正確な(アキュレイト)"再現というよりは、スピーカー独特の音の魅力ないしはスピーカーの音の色あいをかなり意識して、音を"創って"いる部分がある。もう少し別の言い方をすると、古くからレコードを聴いていた中年以上の人たちが、むかし馴染んでいたいわゆる電気蓄音器の音質は、ナマの楽器の音にはほど遠かったが、反面、ナマとは違う"電蓄"ならではの一種の味わいがあった。そうしたいわゆる上質のグラモフォン(蓄音器)の持つ味わいを伝統としてふまえた上で、快い響きで聴き手をくつろがせるような音を、こんにちなお作り続けているがセレッションのDITTON25や66だといえる。だから、上質の蓄音器(グラモフォン)の音を知らない人がいきなり聴いたら、DITTON25や66の音には、どこか違和感を感じるかもしれない。けれどこれはまぎれもなく、ヨーロッパの伝統的なレコード音楽の歴史をふまえた、ひとつ正統派の"クリエイティヴサウンド"なのだ。」(『続コンポーネントステレオのすすめ 季刊ステレオサウンド増刊1979AUTUMN』「第4項・快い音スピーカー クリエイティヴサウンドのひとつの型(タイプ)」より/瀬川冬樹著/ステレオサウンド社/1979) ハイフィデリティ(原音再生)に対する、グッドリプロダクション(良い音に作る)ということかと思います。 |
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ローラ・セレッションの家庭用スピーカーの最大の魅力はコストパフォーマンスにあるとおもうのですが、今回色々と調べてまして初めて知ったのが、1978年に発表された「Dedham」です。 |
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画像は、Stereo Sound バックナンバーセレクション2ヴィンテージスピーカーVol.2より |
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外観は英国アンティークのイプスウィッチ・ワードローブそのもので、扉を開けると中には、ほぼ「Ditton66」なシステムが収められてます。(この頃テムズ・ディットン工場が閉鎖され、イプスウィッチのFoxhall Roadの工場だけになったことが関係してるのかもしれません。)受注生産で、一台98万円で売られたそうです。 |
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Dittonシリーズは改善されながら80年代初頭まで続くのですが、アナログからデジタルへと時代の変化もあり、セレッションのスピーカーの主流はDittonシリーズから、SLシリーズへ変わります。 1982年、新たなチーフエンジニアにより、全く新しいコンセプトで作られたのが密閉式2ウェイ小型ブックシェルフスピーカー「SL 6」です。コンピューター解析によるデータを基に、ユニット、エンクロージャーを設計しました。 正確な(アキュレイト)再生を実現する高性能なスピーカーと評価が高いのですが、その反面アンプを選ぶスピーカーとの評価もあります。商品部のチェック用アンプでしか聴けなかったので、音の印象は薄いです。 |
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SLシリーズはあまり商品部では扱われないのですが、その旗艦モデルの「SL600」や、その後継モデルの「SL700」の外装のスエード調塗装が厄介です。加水分解により軟化してベタベタになってしまい、元の表情には戻せません。 |
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スエード調塗装が加水分解により軟化してしまった状態です。 |
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80年代に流行ったこの塗装は当時様々なものに使われたのですが(アンプやCDプレーヤーにもあります)、加水分解により軟化してベタベタになってしまいます。最近のものは改善されているのですが、この仕上げ自体あまり見られなくなりました。 商品部では劣化した塗料を剥離して(これがなかなか大変で、時間も掛かります)普通のつや消し塗装で仕上げます。 |
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現在、セレッションブランドは、PA用、楽器用に特化したスピーカーユニットメーカーとして現存しています。 https://celestion.com/ ちなみに、フェンダー用のJensenのユニットは何故かイタリアのメーカーが作ってたりします。 http://www.sica.it/en/ |
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ロックに深く関わりのあるブランドですが、ロックを聴くにはセレッションかと言われますと、少し違うところがオーディオの滋味深いところかと思います。ではこのあたりで失礼します。 |
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