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にわかに、ポータブルヘッドホンアンプ(ポタアン)、イヤホン、ヘッドホンの人気が高くなって来ている今日この頃、ヘッドホンの大手ブランドのルーツと言えるモデル、そこから進化を果たした現行機種など、数社を挙げて改めて紹介したいと思います。 ※内容はあくまで個人的な経験からの見解なのであらかじめご了承下さい。 大須本店 小島 陽介 |
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SENNHEISER HD600(左上)1997年発売 / HD580(右上)1995年頃発売 現行のHD650(右下、2004年発売)の実質的な前身とも言えるモデルです。分厚い中低域が特徴のHD650に対し、HD600/HD580は中低域は控えめのフラットバランス、見通しの良いサウンドです。バイノーラル音源にもその再現性の高さで好評を得たヘッドホンでした。HD600とHD580の違いは大まかに言ってキャビネットの作りのみ。使っているユニットは同じですが、こころなしか、HD600の方が高域の伸びが良く、HD580は中音域に厚みを感じた記憶があります。 |
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HD600の清涼感のあるサウンドからHD650のマイルドでウォームなサウンドに変わったときの変貌ぶりは今でもごく最近のように思い出します。 発売から15年ほど経過してもいまだ現行機であり続けているのはすばらしいです。 |
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GRADO RS-1(左上)1996年発売 / SR125(右上)1995年発売 カートリッジ、トーンアームで有名なグラドのヘッドホン。チェンバー(ハウジング)にマホガニーを使い、固くも響きが適度に乗る暖色系サウンドが魅力で、音楽再生用ヘッドホンの最右翼のブランドです。ラインナップもほぼ不動、上級グレードを拡充させる方向でいながらも一音聞いてグラドだと思わせるその音質のこだわりはすばらしい。音質の素晴らしさに惚れ込んでRS1を買いましたが、SR/RSシリーズは装着感の悪さも天下一でした。パッドの質が低く、ドライバー側の固い表面に耳が当たって30分と同じ位置で付けていられないほど酷いものです。特に中心の出音部分が硬くてざらざらで辛抱たまらないということで、他社のオンイヤーヘッドホンの同径のイヤパッドを出音部分に嵌めて聞いていました。しかしそれも長く続かず、やむなく手放した記憶があります。 |
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モデルグレードによってはイヤパッドが大型化し、多少はマシになりました。それによって耳からドライバーまでの距離が変わり、今度は音の特性の変化が起こって別の悩みが生まれました。低音の量が出すぎてせっかくの中高音が埋もれてしまうという現象です。この現象は、実はヘッドホンではあまり多くなく、どちらかというと昨今のインイヤータイプのイヤホンの音の悩みにあがることが多いです。 GRADOのヘッドホンからは、音の特性の変化と装着性の重要さを教えられました。どんなに音の良いイヤホン、ヘッドホンでも装着性が悪ければ全て台無しになってしまいます。 左写真:GS1000e(2014年発売) ※写真はナイコムHPより |
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DENON AH-D7000(左上)2008年発売 / AH-D5000(右上)2007年発売 GRADOのマホガニー繋がりで…ではないですが…。 それまでデノンのヘッドホンと言うとDJ用やオンイヤータイプの比較的安価なヘッドホンしかありませんでしたが、高級オーディオ用ヘッドホンの位置付けで作った(おそらく)最初のヘッドホンがAH-D5000。 グラドのRS、GSシリーズ同様にハウジングにマホガニーを用いたヘッドホンです。やはりこちらも暖色系のサウンドでデノンのオーディオの音作りを知っている人なら恐らく分かってくれる音質だと思います。 オルトフォンのカートリッジに例えるならAH-D5000がSPU-Gの音、AH-D7000はSPU-GE、と言えば分かり易いでしょうか(GとGEの人気の違い云々は別にして…)。 密閉型なのに音籠もりが全くといって良いほどありません。開放型のような音抜けの良さがありながら、密閉型の特長である静寂の表現に優れたヘッドホン。 加えて装着感の良さも光るモデルで、密閉型なのに蒸れも少なめ。一年を通して長時間リスニングの可能な密閉型ヘッドホンがついに出たという感じでした。 これらの音を聞いて密閉型ヘッドホンも新しい次元に入ったなと思い、それまで10年ほど使っていたSONYのMDR-CD3000を手放してAH-D7000に乗り換えました。 |
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これらのモデルが出たあと、少しカジュアル路線に踏み込んでみた時期がありましたが、最近また王道路線に戻ってきてくれて、果てはフラグシップモデルまで作って…。 デノンはHi-Fiオーディオをよく分かってるなぁ…と感心させられます。 右写真:AH-D9200(2018年発売) ※写真はデノンHPより |
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AKG K240 Sextett(左上)1985年頃発売 / K501(右上)1997年頃発売 AKGといえばK240を外すべからず、と言われる程に長い歴史を持つこのヘッドホンがあまりに有名です。長い期間製造されているモデルなだけに外見は変わらずも、中の構造がある時期ある時期で変わるとともに、音質が変わってしまっているのが欠点でもあるヘッドホン。初期のモデルはパッシブラジエーターを6発組み込んでいたという、今のヘッドホンではまず見られない仕様もありました。 |
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そんな中で90年代後半に発売されたK501というモデルはAKGの音質を端的に、的確に表現したモデルといえます。低音は控えめでややタイト、中音から高音の音質で勝負している音作りは同社コンデンサーヘッドホン、K1000にルーツを置くような高精細なサウンド。弦楽器の生々しい表現はきょうびのヘッドホンでもなかなか聴けない音かも。 左写真:K1000(1990年発売) |
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ヘッドホンではないですが、K3003というフラグシップイヤホンは昔からのAKGオーナーの耳(おそらくK240 Sextettの音の耳)も満足させるものです。マルチウェイのイヤホンですが、まるでフルレンジの延長線上にあるようなとても自然な音なのが良いです。 |
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audio-technica ATH-W10VTG(左上)1996年発売 / ATH-W1000(右上)2002年発売 国産のヘッドホンとしてはソニーと並んで早くからラインナップを充実させていたブランドです。ウッドハウジングのヘッドホンを広く知らしめた最初のモデルがATH-W10VTG。このモデルからでしょうか?ヘッドホンが、それまでのモニター用、サブオーディオ用という立ち位置から、独立したひとつのオーディオ機器という位置付けに変わっていくのではないかと感じたのは。 そういう意味では高級ヘッドホンの黎明期を作ったテクニカのWシリーズはほんとにすばらしいヘッドホンだと思いますが… |
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音質、というよりも位相の調整の問題なのか、Wシリーズは音の広がりが少なく、むしろ内側に音が寄るような印象があり、個人的に聞きづらいと感じます。一方でオープンエアのADシリーズはふわっと、キレもあって開放的なサウンドです。スウェーデンのSUPRAのような北欧の音質を漂わせる、そんな音作りが個人的に良いと思います。 左写真:ATH-AD2000(2004年発売) |
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SONY MDR-R10(左上)1989年発売 / MDR-CD3000(右上)1991年発売 バブリーな時期に物量を投入して作られ、当時36万円という定価で受注生産で販売されました。このR10の音は当時のステレオサウンドでも評されたとおり、「大吟醸」と呼べるようなサウンド。低音をゆったりとおおらかに響かせるケヤキの無垢材を使っています。壮大なサウンドでハウジングの大きさと相まって奥行きの深い独特なホール感も伴っていました。 CD3000はR10よりひと周り小さいホールに響く、軽いホール感があり、低音を控えめにして解像度を重視した「辛口」なサウンドでした。そういう特性がゆえにモニター用に使っている方も結構いらっしゃるようです。 その後しばらくは密閉型と開放型ともに試行錯誤が続きました。SACDの普及を狙って高域に音を振りすぎたヘッドホンを乱発してしまい、「ソニーは高音の伸びがよい」という風にいまでも認識されています。以前のソニーの音を知ってる人は必ずしもそういう音だとは思わないでしょう。 とりわけRシリーズの音を知ってる人なら「キレの良い音」だとは思わないはず。中低音の厚みを伴った、暖色系のサウンドだからです。 |
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最近のソニーのフラグシップヘッドホンやイヤホン、Z1Rシリーズの音はかつてのR10やCD3000の音に似ていてとても聴きやすいです。低〜中音をしっかり出した上で、解像度も高く、音場感の表現力を高めた音は、「ソニーの音がようやく戻ってきた」と感じさせます。 MDR-Z1R(2016年発売) ※写真はソニーHPより |
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