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35年前のアキュフェーズ試聴会
ハイファイ堂メールマガジン第725号 丸の内店
都内の冷え込みも厳しくなってきて、東京丸の内の刺すようなビル風が身にしみる今日この頃、皆様いかがお過ごしでしょうか。
ハイファイ堂 丸の内店 廣川勝正です。
さて、今回は私の35年ほど前、高校生のころの思い出話にお付き合いいただきたいと思います。
私の記憶が確かならば、それは高校2年の冬だったと思います。
当時、某オーディオショップでアキュフェーズの試聴会があるという事で申し込み、出席した時の事でした。
会場となった試聴室の正面には、この後紹介する機器がセットされて、その傍らには、あのアキュフェーズ創業者、故・春日二郎氏が立っていらっしゃいました。惜しくも、2007年1月11日、89歳でお亡くなりになられてしまいましたが、その時の思い出は、今でも鮮明に蘇ってきます。
その出来事は、その後、私がオーディオにのめり込む大きなきっかけとなりました。
それは、当時新発売されたモノラルパワーアンプM-100(上の写真)の試聴会でした。
8Ω負荷で出力500Wの、当時としてはいわゆるモンスターパワーアンプです。
目の前にセットされていたM-100は、合計4台。つまりマルチアンプ駆動で使用されていました。
組み合わされていたコントロールアンプは当時の最上級機種C-240(左の写真)です。フロントパネルに配置された多数のボタンが特徴的な、正にコントロールセンターと呼ぶにふさわしい憧れのモデルでした。
また、CD登場前の時代ですので、当然の様にレコードでの試聴となります。
レコードプレーヤーにはMICRO BL-111、アームは下の写真の様にSAECのWE-407/23だったと思います。カートリッジはサファイアカンチレバー採用のアキュフェーズ AC-2でした。
しかも、試聴で使用されていたスピーカーはJBL 4345でした。巨大な18インチ(46cm)ウーファーを搭載していた4ウェイスタジオモニターです。それを500W出力のモノラルパワーアンプM-100でマルチ駆動するという、高校生の自分にとっては、夢の様な組み合わせでした。
試聴会に先立ちまして、試聴機器の紹介と、春日二郎氏の挨拶がありました。
それまで、アキュフェーズのE-303やC-200X、P-300Xなど聴いた事があり、あの鮮明さと熱さ(当時の私には独特の温度感の高さを感じさせる音だと記憶してます)のある音を創り上げた人とは、どんな感じの方だろうと興味津々でお話を聞いていました。
それはそれは穏やかで、やさしさが滲み出るような語り口で、「こんな優しそうで穏やかな感じの方が、あの音を創り上げていたんだ!」と大いに意表をつかれた事を覚えています。
機器の説明を早々に切り上げて、もっぱら旅の思い出話をされていた事も印象的でした。私の地元は北陸の福井でしたが、そばが美味しい事が有名で、そば好きの氏は、オーディオの話はそっちのけでその味わいなどの話をされていました。
話が進むうちに、ウィーンを旅行された時に露店で購入したという教会音楽のレコードのお話になり、そのレコードを演奏してくれました。
衝撃でした!
最初、M-100のデジタルパワーメーターが1W位の表示でコーラスが流れているところに突然打楽器の衝撃音が鳴ったのです。最前列で聴いていた私はM-100のパワーメーターを見て、自分の目を疑いました。そこに表示されていた数字は「635」だったのです。
635Wもの大音量にかかわらず、ガラスで仕切られた試聴室はミシリとも言わず、ただただ自分の体の中をすーっと爽やかな風が通り過ぎた感じでした。
気がついてみると、私の頬を一筋の涙がつたっていました。その時の感情は「無」に近かったと思います。私の記憶では、生まれて初めての無感情の涙だったと思います。演奏が終わるまで、全く記憶がなくなるほどの衝撃でした。
試聴会が終了し、この感動を氏に伝えたくて、無我夢中で話しかけた事を覚えています。そのうち、話がなぜか、またそばの話になった事も記憶しています。
今考えると、オーディオ界の巨匠が、一介の高校生に対しても優しく丁寧に接してくれた事が信じられません。
故・春日二郎氏の人柄と、衝撃のオーディオ体験がなければ、今日の自分はなかったのではと思います。
今回は、ハイファイ堂でシステムの組み替えをしている時に、アキュフェーズのP-300を見て、ふと思い出が蘇ってきたので語らせていただきました。
皆様も、思い出の機器に巡り合った時、その当時にタイムスリップしてしまう一瞬があると思います。
そういう出会いをぜひハイファイ堂でご体感ください。
ではまた次回。
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