「オーディオ風味 名曲アラカルト」 2006-4-14 音迷人 15.ピヨートル・イリイチ・チャイコフスキー/ピアノ協奏曲第1番 ピアノ協奏曲は三つ書かれたそうですが、私は他のをとんと聴いたことがありません。 |
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チャイコフスキー(1840〜1893)はロシヤの生んだ大作曲家です。鉱山技師の父親がウラル地方の工場長だった時次男坊として生まれたそうです。今までお話した作曲家達のように音楽環境はありませんでした。両親は教養をつけようと早くから家庭教師をつけましたが、音楽は5歳からピアノを始め、丁度モーツアルトのように感受性豊かで、一寸聴いただけで覚えてピアノで弾いたそうです。しかし法律学校予備クラス(小学校相当)に進み、基本はこの官吏の道に身をおいていましたが、二十歳過ぎてから音楽学校(有名なペテルブルグ音楽院1期生)に入ったそうです。それでも数年法務省で実務をこなしたので驚きです。努力と才能と環境が揃って?あっと言う間に26歳でモスクワ音楽院の教授になったそうです。(音迷人は未だに楽譜一つ読めないつーのに!何と言う違いなんだわ!えーん・・・のだめカンタービレ風ぱくり?) |
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ロシアの歴史に詳しくありませんが、ロシアの社会体制は専制政治で農奴制の上に成り立っていたのです。ナポレオン戦争を経て西欧化の波が生じ揺れ動いていたのですね。それらがエネルーギー源になって、いろいろな主張(=文化・芸術)が花開くわけです。ロシア音楽界では皆さん学校で習ったように「国民楽派:ロシア5人組」と「西欧派」に2分されたそうです。チャイコさんは「西欧派」となります。でも作品を聞くとロシヤの自然や唄が生き生きと入っていますので、いわゆる「西欧かぶれ」と言うことではなく、様式や、構成の基本を西欧音楽理論に確り置いたと言うことで間違いないでしょう。 写真は5人組(凶悪犯では在りませんよ)のひとり、飲んだくれのムソルグスキーさん。万国共通な酔眼です。ねえ二日酔いのあなた! |
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チャイコフスキーの人生はいろいろあって大変なのですが、折々述べてゆくことにしましょう。重要なのは彼の気質や健康状態、音楽家に概して付きまとう経済問題、家族(結婚)問題でしょう。その中で経済問題については幸運なほうで、財産家のメック夫人に評価され、課長さんぐらいの年収から倍の年収に相当する年金を、36歳から50歳まで受け取れたのです。メック夫人とは実際に会っておらず文通で諸用件がなされていたのです。色恋ごとでは無く真にチャイコさんの音楽的才能を評価し期待して、夫人は援助したと考えてよいでしょう。チャイコさんはこの環境の中でプレッシャーを感じつつも創作に邁進したようです。そして彼の名声は高まっていったのです。 (そろそろ音迷人さんの才能を認めて援助の申し出がありそうなんですが!ねえハ○ファ○堂さん?) |
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チャイコさんの作品は日本の聴衆に人気があるようです。音楽にポピュラリティーは重要な要素です。と言うことで私も大好きです。沢山ある作品の中から「ピアノ協奏曲1番」を取り上げましょう。 この曲は34歳頃の作品です。弟に「何だか上手くまとまらない」とこぼしかなり苦労した上に、この曲を献呈しようと考えていたチャイコさんの理解者で音楽院長のルビンシテインに、酷評されてしまったそうです。「音が出ないアンプなんて無価値!修理不能な故障!もって帰れ」と言われたみたいに意気消沈したチャイコさんはしかし、頑として大幅路線変更せず西側の「ロビュー外交」、いやピアニスト・指揮者のビューローに持ち込みました。ビューローは作品を評価し何とボストンで初演したのです。直後のモスクワでの国内初演でも好評を博し、とうとう音楽院長さんも謝罪して友情を回復し、積極的に取り上げたそうです。目出度し目出度し! 写真左:ハンス・フォン・ビューロー(1830〜1894)彼はこの時代大活躍のピアニスト兼指揮者で、指揮者の独自性を確立し、ベルリン・フィルの初代常任指揮者に就任しました。私生活ではワグナーに奥さんを取られてしまうのですね。奥さんは何とコジマといってリストの娘です。やれやれ! 右:P恊発表の頃のチャイコフスキー |
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音迷人流に申しますと、総てこの曲の序奏部が素晴らしすぎるから、ご本人曰く「まとまらない」であり、巷で「ああ竜頭蛇尾の曲ね!」と言われてしまうのでしょう。私も序奏部の後あたかも波立った水面が引いて行く様になるので、良く針を上げてしまったものです。年齢を重ねるに従って他の章も好きになり今では通して聴きます。しかし1楽章だけで20分強ですから少々長すぎるかも知れません。チャイコさんはやりすぎちゃう傾向が?・・・しかし全部を聴くとやはり、素晴らしい協奏曲だと思います。 しかし、このピアノ協奏曲から4年後あの有名なVn協奏曲をものにしますが、P恊同様献呈者に「演奏不可能」とまたまた言われてしまうのです。ああ ではオーディオチェックに入りましょう。今回の基準、お奨め盤はピアノ:ホルヘ・ボレットでデュトワ/モントリオール交響楽団/ロンドン盤です。 |
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第1楽章:抜けの良いホルンの高らかな宣誓から入り弾力のある低音で支えられたオケのフォルテ、ピアノの和音強奏(約35秒間ピアニストの体力、指力?が試されます)に乗り例の♪タリラリーラー・リラーという弦の大きく美しい旋律が現れます。弦の伸び伸びした表情を確認してください。1:00後小カデンツァ風のピアノがリードする箇所に入りますがここで使われるピアノの音域はかなり広そうで、スコアで確認していませんが、恐らく基音で45Hz〜2800Hz位でしょう。ピアノは意外と高次倍音成分が弦や木管ほど多くないように感じています。ということで5倍音ぐらいで1.4万Hzでいけそうです。この盤はスタンウエイと思われる割と明るく煌びやかなピアノが通して楽しめます。その後例の美しい旋律がオケで再現されて、噂の「龍頭」が雲上に去り二度と出てきません。4:00位から静かになり暫くウジウジと進みます。9分過ぎから徐々に元気を取り戻し?ピアノのいろいろな音色、弦、木管の表情が豊かになります。システムにピーキーなところが無いことがピアノやオケの再現性を良くします。気になる帯域や音階があったら対策してください。13:30思わせぶりな掛け合いから爆発し、金管が吼えますが混濁しないでバリバリと迫ってくるといいです。緩急緩と繰り返すので少しつんのめります。17:40頃のペダルを踏んで開放したピアノの天国的音色を楽しんでください。 |
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第2楽章:音楽的にも音迷人がお奨めの楽章です。フルート、オーボエやチェロなどの美しくもはかないメロディーのソロが出てきます。途中を聴くとオーボエ協奏曲のようだったりします。このソロ楽器の特性が良く解る再生が出来ているかチェックしてください。S/N比が良いことです。「生」で聴くと本当に美しいのですが、どこまで肉迫できるかでしょう。 はかないメロディは当時の「シャンソン」だったとか。弱いピチカートに乗ってフルートが歌いピアノが静かにメロディーを繰り返します。フルートのビブラートのための胸のゆれが良く解ります。1:30からオーボエが参加2分から遠くでホルンが鳴り、2:30ヴィオラ・に引き継がれチェロそれらの楽器が美しく重なって展開し、まるでピアノは要りませんと。(-_-;) そうは行かずとピアノが口をとんがらせてきて、ゴチョゴチョやりあいます。5:24断を下すようにオケが大音響一発。これが迫力を持って歪まずに再生できることです。いろいろな演奏を聴きましたが、デュトワ盤ほど確りマッシブに、切れよく演奏しているのはありません。ティンパニーの一撃がエネルギーとしては強いように聞こえますが、ホーンにしてからはこのフレーズが楽しくなりました。やがて初めのように美しいメロディーにオケが没頭して泣かせます。6:43からのオーボエ最後の泣きは最高です。 写真はセミグランドピアノでしょう。手塩にかけて育て造られたものは美しいですね。 |
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第3楽章:元気で明るいピアノのリードで始まりますが、それでも何となくスラブの太さ、くすみを感じます。ピアノは鳴りっ放しですが、弦も時々綺麗な旋律を奏でます。この辺の対比的音響が堪能出来ましょうか。クラシックでは大方コントラバスが低音を支えて音響の大きさや、ドラマの展開を助けています。従って何時も申し上げる低音域の広さ、深さが不可欠ですので、是非ステップアップしてください。5:07からの弦楽器群の重ね、せり上がりは音楽的にも興奮を引き起こしますが、中音域を受け持つヴィオラ、チェロの音色は深緑の翼を広げた鳥のように湧上って飛び交います。いろいろな音を聞分けられますか?このように感動、興奮がスピーカー再生で出てくることが成功の第一歩であり、終点でもあるのでしょうか? その後ティンパニーの一撃があって終結部に入ります。40Hz〜くらいから250Hzぐらいのエネルギーが高そうで充実したオケのテュッティが楽しめます。 (誤解のないよう時々書きますが、本コラムの目的は音楽をホールに居るように、感動的に楽しむことが出来るオーディオを育てる為です。お忘れなく) つづく |
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おまけ:今回は沢山あります。 ◆ピアノの構造はこれが楽器かと思うほど複雑です。今では工業的な精密さで、ダイナミックに造られています。勿論音決めの細かい仕事の部分は人間の匠にゆだねられています。 鍵盤楽器の主流であった鳥の羽の軸で弦を撥くチェンバロに対し、1700年ごろフィレンツェのチェンバロ製作者のクリストフォリさん(覚えてください)が弦を皮張りのハンマーで叩く方式のチェンバロを造ったのです。指の力で音量を調整できたので、「ピアノ〜フォルテ」又は「フォルテピアノ」と呼ばれました。今ではフォルテが省略され「ピアノ」と言っています。(何故「フォルテ」にならなかったか!音では「大は小を兼ねる」とはならないのかな)表現力が豊富で、速い弾き方も出来たので、ドイツに渡り改良され発展したそうです。J.S.バッハの助言の下造られたピアノで、即興的に「音楽の奉げ物」が弾かれたそうです。特にベートヴェンはピアノの進化に合わせてピアノソナタを完成させていったようです。それは作曲順に使用音域が増えて行ったり、ペダルの使用法も変わったり、表現が大きく劇的になったりしているそうです。(クリストフォリさんの後継者が居なくて、ドイツの職人さんが引き受けてドイツに渡ったという話もあります。ドイツに渡らなかったらきっと現在のピアノにならなかったのではと、ドイツの工業技術などへのこだわりを考えると思えるのですが!)日本だったら如何でしょう。 ◆そこでちょっと古いですがこんなデータを入手。 ピアノ生産台数:単位は千台です。 1910 1935 1960 1980年 イギリス 75 55 19 16 ドイツ 120 4 26 59 アメリカ 370 61 160 248 ロシア 10 ? 88 166 日本 0 4 48 374(凄い!) |
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◆さらにその後にピアノの歴史を紐解くと正に人間の科学技術や工業の進化に同調しています。まずフレームとして「鉄」が採用され、張力が増えて音域、音量があがるので「アクション」(打弦メカ)も大きく、巻き線弦の開発、採用で弦の長さが押さえられ更に音域が広げられました。同時に加工機械動力の進歩、加工精度なども上がり、均一で安定した品質が得られ量産、コストダウン、大衆化と他の製品同様近代工業の恩恵を受けましたね。電気屋さんが頑張ってサーボ制御を高精度化し、機械に実現させたいわゆる「メカトロニクス」(日本の電機メーカーの造語です)のお陰で、特に加工精度は飛躍的に上がりました。 一寸面白い見方をご提案します。今家庭で使える一応のアップライトピアノにおいて50万円出せば結構使えるピアノが買えますね。ピアノは88鍵あるのを勉強しました。となると88片にスライスすれば1鍵あたり約5千円です。弦が平均3本も付いて、精密に管理製造された複雑なアクションがあり、綺麗に塗装されて、1スライスがたったの5千円からあるのです。人が200数十本の弦を取り付け、調律しエージングして届けてくれます。世の中の他の製品を考えた場合・・・ううっつ!メーカーさんご苦労様。 |
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◆さてピアノの性能の一つに良い音を大きく響かせるというのがあります。そのため響板が付けられています。張られた弦の下に駒があって響板に伝わっています。演奏者が弾いた音がジャンジャン響板に入力されるイメージです。響板の振動モードは今でも中々解析が困難で、ピアノ技術者のノウハウが主体です。解り易く言うと「職人技」ですね。アップライトピアノの響板における振動モードの資料からスケッチしたので見てください。主に基音のモードですが、響板に与えられた振動でその中に響いて居られるように振動波がそれらしく区割りして納まって見えます。と言うことから響板はかなり広い範囲の振動に追従できるコンプライアンスを持ち、共振の強さや時間も揃っている(全く同じではなくある傾向で)必要があります。ピアノの響板もスピーカー同様、ある周波数でピーキーではダメでしょうね。モード図は単一周波で描きましたが、実際はいろいろな音が同時に共鳴していますので、重ねたような複雑な振動モードです。とは言え響板としては1枚です。(そのうちマルチウェイ響板?なんていうピアノが出るかもしれませんね:音迷人特許)隅を固定しないと自由で良さそうですが、数学的にキッチリはまった周波数が鋭く共振してしまってピーキーになるのです。癖のある音ですよね。それで実際のピアノのように半端な支え方(経験に裏付けられたノウハウ)、響棒の入れ方などを工夫して、美しく均一ながら味のある音響を出しているのですね。オーディオでも同じで、造形や補強などは共振を「散らす」と言う観点でやりましょう。参照メルマガ156号ターンテーブルボード補強。(人間もそうですね。只自由でやりっぱなしの人より、悩みもあって苦労しながら・・・あ!また余計なことを) と言うことで板の材質、木目や厚さなどが振動に影響し、音色が変わってきてメーカーの音質個性などが与えられているのだと思います。 この素晴らしきピアノ!(のだめ!これ読んでくれているかな?) |
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◆覚えておられますか!メルマガ166号で取り上げたフルートのCD「マジックフルート・タンゴ」で、ピアノ伴奏の辻本智美さんをご紹介しましたが、文化庁の「平成16年度新進芸術家海外留学制度」でヨーロッパに渡り研鑽されていました。今度リサイタルを開くことがわかりました。 一寸ご紹介しますと 東京芸大、修士課程を修められ、金昌国指揮の「モーツアルトの生涯」シリーズ共演やフランスピアノフェスティバルで最高位獲得。CDでは「TANGO」に続いてウィーンフィル首席フルーティスト、フルーリー氏と「20世紀フランス・フルート作品集」をリリース。留学先をドイツミユンヘンとしドイツ音楽の研鑽も重ねた。・・その他沢山 聞く所によると、あちらでオペラに魅了され人生の機微などにもさらに感度が上がっているようで、音楽の深みが増しているはずです。音迷人のお奨めコンサートですので、是非お出かけ下さい。概要は 日時:2006/5/7(日) 14:00開演 場所:HAKUJU HALL(渋谷区富ヶ谷) 代々木公園駅5分 白寿生科学研究所内の小ホールで「音響」「見晴らし」が抜群に良いです。 曲目:♪ベルク ピアノソナタ作品1 ♪ラベル 鏡 ♪モーツアルト ロンド ♪シューマン 幻想曲 作品17 など 全席自由:3500円 電話チケットセンター 「ヴォートル」03−5355−1280 |