「オーディオ風味 名曲アラカルト」 2006-4-21 音迷人 16.チャイコフスキー/バレエ曲「白鳥の湖」ほか 第2次世界大戦の影響で「ガニ股」の私がバレエをやったらこんな役がもらえそう。 |
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「バレエ」というと私には東洋の言葉「鼓腹撃壌」のように、満ち足りた安定した環境を想像させます。そしてさらに「バレエ」は我々を非現実的な世界に誘ってくれる素晴らしい芸術の様に思えます。 歌舞は恐らく人類が多少なりとも共同の生活を始めた時から発生したと思われます。その長い歴史の上で「バレエ」は14世紀ごろイタリアで体系化が始まったと言われます。今「バレエ」というと舞踊を主体とし感情や思いを表現する総合芸術と言われますが、初めは権力者たちの楽しみの一つ、宮廷舞踊に他ならなかったようです。 オーディオでは「バレエ」そのものはライブ録音や中継(舞台のトーシューズの音、衣擦れの音のある)を鑑賞しない限り、そこには音楽空間しか在りませんので、やり難いテーマですから深入りしないようにしましょう。 そうですオペラと違って舞台上のダンサーは台詞はまず使わないのです。となるとこの美しい踊りが漫然と踊られるわけが無く、少しでもいろいろな要素、即ち美しく見せること、物語の展開が出来ることを考えるはずです。ダンサーは踊りとしてそれを具現化する肉体の鍛錬や、美観と表情を研究し高度に体系化するとともに、踊りを助ける音楽にも高い要求を出したでしょう。ということで伴奏音楽がかなり重要な役目を帯びてくるということはすぐ解りますね。 |
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イタリアで生じた「バレエ」は好きなお姫様と伴にフランスに渡って、ルイ14世を虜にし、1661年には舞踊アカデミーまで創らせて上述の様に発展するのです。初めは「演劇+舞踊」または「オペラ+舞踊」のミックス上演が多かったようですが、18世紀に「バレエ」だけで物語を進めるようにもなったそうです。そしていよいよ19世紀の「ロマン主義」に入ると、現実だけでない世界へと題材(オカルトでは在りませんぞ)が広がり、「ロマンチックバレエ」と称される現在の総合芸術である「バレエ」:クラシックバレエが確立しました。「シルフィールド」「ジゼル」「コッペリア」など聞きますね。(あらら?深入りしないといいながらここまで来ちゃいました。〆切迄に間に合うかな〜!)ということでフランスがその中心にあったのは解りましたね。では何故バレエはロシアでありチャイコさんなのでしょうか。 (こんなルイ14世を世界史では教わりませんでしたね!もうけ!) |
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ロシアではピョートル大帝の大方針?である「西欧化」が引き継がれた結果、フランスなどから多くの芸術家が招かれ或いは自推?芸術家が流れてきましたが、その中に当然舞踊家も居たわけです。そして舞踊学校が作られ、直接伝授させたようです。こうして急速に上達したところに、フランス生まれの舞踊名手で振付師マリウス・プティパ(1818〜1910)が招かれたからロシアのバレエは充実したのです。彼はクラシックバレエの基本を固めた人だそうですが、総合的な音楽を描けるチャイコさんと組んだからロシアバレエは急上昇というわけです。チャイコさんの三大バレエ「白鳥の湖」「眠りの森の美女」「くるみ割り人形」はプティパさんの振り付けで好スタートしました。今でも彼の振り付けをベースにしているそうですから、劇場の扉を開ければタイムスリップ出来ますよ。(秀吉さんがタンスから出てくるコマーシャルが好きなんです。秀吉を軽くやるアイディアもさることながら、役者さんの上手いこと。ただし東京ガスのCMなので全国区ではないですね) 一方ヨーロッパはオペラなどで、人気に陰りがあったのですが、ディアギレフ主宰の「ロシア・バレエ団」がニジンスキーなどのスターダンサーを擁してパリに興行し逆上陸(途中に海が無いんですが)するのです。そしてストラビンスキーの「火の鳥」「ペロルーシュカ」「春の祭典」ラベルの「ボレロ」ドビュッシーの「牧神の午後への前奏曲」などにとつながって行くのだそうです。 チャイコさんにしろストラビンスキーにしろ凄いのは、バレエの「従属的音楽」の顔をして実は音楽だけで立派に独り立ち出来るという事ですね。あまりにも専門的で良く知りませんが、先に述べたバレエの発展、位置づけに必要で出来あがった体系化された事柄、平たく言うと「約束事、掟」があります。それが音楽にとっては手かせ足かせとなる時があるのですが、それを乗り越えて、きっとダンサーまでメロメロにする音楽を書いたのですね。 でも良く調べるとチャイコさんはピアノ協奏曲などと同じようにまたまた初めは不評を買ってしまうのです。原因は「素晴らしすぎたこと」?らしい。言い換えると今までの単純伴奏音楽よリ難解であったそうです。それと衣装、振り付けなど諸々の準備不足に、プリマもとうが立っていたからパッとしなかったようです。この時はまだプティパさんとは組んでおりませんでした。チャイコさんはショックでまたまた閉じこもり?次の「眠りの森・・」まで10年掛かったそうです。 |
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ではプティパさんは「白鳥の湖」にどう関わったのでしょうか?チャイコさんがチフスで急逝したあと、プティパさんがある記録で発見し部屋を探して引っ張り出し、評価してチャイコさんの追悼公演に組み込んだところ大好評となり、劇場に掛かるようになって不動の位置を得たのだそうです。 チャイコさんもプティパさんも変わっていますね!「眠り・・」や「くるみ・・」で一緒にああでもない、こうでもないと仕事をしているんですよ。だのに「白鳥・・」を封印しておくなんて考えられませんよね。 では「バレエ」はこの辺にして最も有名な「白鳥の湖」を取り上げてオーディオチェックに入りましょう。とは言え全曲は3時間弱の大曲ですから、ごく数曲抜粋してチェックしましょう。 基準盤はリチャード・ボニング/ナショナル・フィル/ロンドン盤です。 ボニングさんはソプラノ:サザーランドさんの旦那で、オペラ、バレエが得意だそうです。 |
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◆第1幕:導入曲:オーボエソロで白鳥のテーマが示され0.33からチェロの合奏で引き継がれます。この合奏が濁らず柔らかく高域が延びていることが美しさを再現します。低音のピチカートで迫って行き1:39シンバル一撃で管や大太鼓が参加しドラマの行く末を暗示し、白鳥が絶叫するようにテーマをトランペットなど金管が飛び出すように演奏します。小太鼓のトレモロも鳴り響き徐々に静かに成って3:00=0切れ目無く次へ 第1曲:情景:ジークフリート王子(ワグナーの匂いが・・)の成人を祝う宴の場を表わす快活な音楽です。ホルンや弦の早いパッセージ、フルオケの醍醐味、ファンファーレのプリッとした音質が味わえます。ツーイターが強いとうるさく、弱いとドロンとします。良いバランスを見つけて下さい。この曲が楽しく聴けたらもう大体合格でしょう。 第2曲:ワルツ:村娘たちが踊る群舞で約7分です。ピチカートで始まり聴きなれた旋律が出てきます。もう観客は成人式典の真っ只中でしょう。弦とホルンの後打ちで進みますが、木管が絡み、0.46クライマックスにはティンパニーが煽ります。この盤は切れよく入っています。1:20辺りからチロチロとトライアングルも出てきます。メゾピアノくらいですが、目立ちます。シンバルが少し引きずってジャーと聞こえますが奏法でしょうか?一寸まずいです。2:23からの弦の中低音の厚みある響きは良く出ますか?2:50ティンパニーの強奏や低音弦のワルツのリズムがグッと深く響きます。これがブーミーになってはいけません。5分を過ぎると賑やかになり終局に向かいます。トロンボーンのメロディーを刻むブリブリ音が切れよく再生されますか。演奏会でよく聞かれる裂くような音でもあるのですが、録音では上手く捕まえられないのです。 第4曲:ヴァリアシオン2:至極軽快なポルカ。音迷人曰く「組曲モレ」でも、こんな素晴らしい曲が他にも沢山あって、「組曲」の功罪が気になります。今はダビングが自由でしょうから、ご自分で「組曲バージョン版」を作られては如何ですか?(わーあ!今隣のテレビにプリマの森下洋子さんが映りました。新バージョンのCMでしょうか、初めて観ました。ドッキリ) ここは軽快で可愛い演奏振りが各楽器で聴かれます。その表情が的確に出ることです。残響成分が勝負ですね。 第5曲:黒鳥の踊り〜コーダ:この中では甘く誘惑的なバイオリンソロのバリアシオン1が素晴らしいですね。何時も踊る動きが意識される小バイオリン協奏曲?です。表情豊かなバイオリンには絶えず艶が乗っています。音の飴をなめる様な感じもします。王子が実は黒鳥オディールと間違える伏線の場面です。普通プリマが黒、白鳥二役を踊ります。 もう一つヴァイオリンのソロで第2幕:第13曲の中のパ・ダクシオンがあり最も有名でしょう。ハープやチェロが協力しますが、王子とオデットの愛が確認される場面で、こちらは清楚で先の黒鳥のヴァイオリンとは趣が違うのですね。ここはデュエットとコール・ド・バレエ(群舞)が音楽的にも対比され大変舞台と一体となれる所でしょう。良くご覧になるでしょう?白鳥さんのバレリーナが十数人V字になったり縦横に並んだりするあの場面です。「あー!バレエっていいなー」と何方かの声が聞こえそうです。 第8曲:乾杯の踊り:式典場狭しとダンサー達が高々と跳ねて、明日の婚約者を選ぶ舞踏会を思わせる場面ですので、音楽は正にその通り進行します。有名なポロネーズです。3:38切れのよいファンファーレが繰り返されクライマックスを迎え、今度はフォルテのトライアングルが鳴り響きます。ピッコロの高い音が歪まずに出ていますか? ◆第2幕:第10曲:情景:数ある「情景」の中でも有名です。まさに白鳥の湖で、王子は白鳥達やオデット姫に会い、その秘密を知るとともに愛を誓う重要な場面です。ハープのアルペジオが聴こえオーボエで白鳥のテーマが出てきます。1:00ホルンの強奏でテーマが歌われます。かなり倍音の強いパーというホルンで高域がすんなり延びています。弦楽合奏から徐々に盛り上がって悲劇的成り行きを暗示するような重い、暗い響きを奏して沈みます。フォルテでの荒れがないことが重要です。ダイナミックさに抑圧感はありません。 ◆第3幕:第17曲:情景(招待客の登場とワルツ)7分という長いほうのユニットです。お妃候補の6人が2人ずつファンファーレとともに到着します。トランペット3本?のファンファーレが残響を伴って広い空間をイメージさせます。お姫様のお国柄を表わすこれまた有名な曲が続きます。 第21曲:スペインの踊り小刻みな弦にのせてカスタネットが明るく響きます。音の出方、場所、残響などの感じがリアルでしょうか?0:30の短いフルオケのフォルテが潰れていないことです。大きく広く鳴り響きます。 いい曲が沢山ありますが、紙面も尽きますので、一挙に第4幕へ ◆第4幕:第29曲:情景・終曲:前の曲の情景からティンパニーの一撃で区別されるだけで切れ目なく入ります。王子の登場を示す大きなオケの悲壮感ある導入です。続いて王子が悪魔に欺かれ裏切ったことを懸命に謝罪する様から許しを得るまでを、劇的な感情の高ぶったオーケストレイションで描き出します。すべての楽器の動きが良く解ります。想像以上にいろいろな音が入っていますし遅いテンポですから、良く聞き分けてください。ハープの効果的な音階からホルンが朗々と歌い上げ、愛する二人が昇天しつつ終わる様をしっかり聴こえるティンパニーが決め込みます。素晴らしくて暫く席から立てないと思いますよ。 |
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「眠りの森の美女」は前述のように「白鳥」の10年後に童話を元に書いたマリンスキー劇場の支配人の台本に作曲しました。実はこれは「プロジェクトX」なのです。支配人が開発者として選抜して進めた中にプティパが居たのです。それで大成功でした。 喜んだチャイコさんは援助者のメック夫人に「大変満足な出来です」と書き送ったそうです。 おすすめCDは無精ひげのワレリー・ゲルギエフ/キーロフ歌劇場管弦楽団/フィリップス盤です。正に本場モンと言えるでしょう。録音は柔らかく弾力があり低音はズンと伸びています。高域もわざとらしい強調がなく、トライアングルなど本物。只弦群の高音が丸まっており、表情が弱くなっているのが残念です。平均点は高くボニング盤より評価できます。 聴きなれない曲が沢山あると思います。私のお気に入りは童話のオムニバス中パ・ド・カラクテール:長靴をはいた猫です。 |
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以上ご紹介したCDは恐らくバレエのカラオケとして使えると思います。指揮者も踊りをイメージして振っているように思います。次にご紹介するのは全くそれを無視したというかコンサート用に曲想を徹底的に膨らませた踊りのない名演奏です。それはエフゲニー・スヴェトラーノフ/N響/NHK&キング盤です。大変ドラマティックな演奏です。これを聴きながらバレエのジャンプなど想像しますと一跳びが3倍くらいの滞空時間でないと合いません。 これはオーディオ的にも大したCDで、一寸低音がブーミーですがオーケストラの醍醐味を十分伝えてくれています。「くるみ・・」の選曲がスタンダードな組曲と違い素敵です。そして東京少年少女合唱隊の上手いこと。スヴェトラーノフさんは太ったおいさんという風貌で何騒ぐことなく悠然と音楽を進める方です。可笑しかったのは太って汗かきなのでしょう、ブルックナーだったか長大な曲の時、指揮台の脇(協奏曲ソリストなどの位置)に椅子を置きその背もたれに何処の旅館のか浴用タオルが掛けてあり、楽章間の1〜2分の休憩の時その椅子に背を向けて座り、顔の汗など拭くのです。ブルックナーの緊張感がなくなりましたが、面白い出来事でした。 |
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おまけ:◆バレエに関して補助的に使われるマイム風の手話のようなものがあったり、オペラで言う重唱に相当する踊りなど話題が多いのですがいずれまた取り上げましょう。 ◆先週のメルマガで「1.あの音にもう一度出会いたい 第15話 近藤賢二」で懐かしい山水のチュナーが取り上げられていました。 4年ほど前仕事でお会いした方が山水電気の卒業生?でオーディオの話もしました。その彼にまだ古い山水製品(チャンデバ、チュナー)がありますよと、励ましのつもりで写真を送りました。チャンデバは改造して4Wayにしたりで「完動」しませんでしたが、スイッチを入れてみると、いずれもパイロットが点き当時の素晴らしいディザインの味を醸し出したので、写真を撮っていて「感動」したものです。 TU-555とCD-5です。私は今でも松竹梅とあると梅です。清水舞台でも竹ですね。(-_-;)よよよ |
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◆まだ(4/18)、神奈川県でも素敵な桜を楽しめました。苦労して訪ねて行けば咲き誇ってくれます。おまけが少ないのでお楽しみ下さい。その上探していて無かった、「バレエの画家:ドガ」の絵(楽屋の踊り子たち)のクローズアップに出合いました。 もう一つ偶然がやはりTVですが何処かの局で「プリマダム」と言うバレイがらみのドラマをやったようです。番組予告をチラッと見ました。それに中森明菜さんの出演も珍しいです。これも不思議タイミングに入れてください。 |
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