「オーディオ風味 名曲アラカルト」 2006-4-28 音迷人 17.グスターヴ・ホルスト/組曲「惑星」 望遠鏡を使ってより科学的な宇宙の調査がガリレオの実験と観察から始まった。 音楽での宇宙への旅はどうだったのでしょうか。 |
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オーディオ風味で取り上げる曲は沢山ありますが、幻想、巨人、英雄の生涯などより、周波数やダイナミックレンジが広そうな、システムの能力を引き出せそうな曲がこれです。タイトルだって広大ですね。この曲を作曲したホルストさん(1874〜1934)についていつものように簡単に触れておきましょう。 彼は珍しく英国の作曲家で、中部のチェルトナムに生まれました。音楽環境はばっちり!父が音楽教師でオルガニスト、母がピアニストだそうですから、逃げようがありませんね。(飲んだくれのおとーさん!よーく考えてくださいよ!) ロンドン王立音楽大学に進み、楽器はトロンボーンを専攻しました。その後は少々の演奏活動のを経て、教育に携わりながら作曲を生涯続けたそうです。 「惑星」は40歳ぐらいから着手され46歳に全曲演奏されたと言います。 オケの編成は4管編成と大きく、打楽器も種類が多いのです。そしてオルガンが参加し、最後の海王星ではこれまた最後の方で、女声合唱が加わるのです。 彼の管弦楽の駆使の仕方はメルマガ167号でお話したベルリオーズの影響を受けていると言われています。 |
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第1曲:火星〜戦争をもたらすもの 第2曲:金星〜平和をもtらすもの 第3曲:水星〜翼のある使者 第4曲:木星〜快楽をもたらすもの 第5曲:土星〜老年をもたらすもの 第6曲:天王星〜魔術師 第7曲:海王星〜神秘をもたらすもの 「〜もの」と約された部分は「〜神」とするのが良いかも知れません。ホルストさんが宇宙を科学的というより、神秘的に捉え、占星術などに興味を持ちその印象から「惑星」は作曲されたようなのでそう感じました。今我々が科学的情報からイメージしたそれぞれの惑星とは必ずしも一致しないでしょう。しかしそれは何も問題とはなりませんね。我々の、少なくとも私の想像力を超えて作曲されているからです。 ついでに音迷人の素直な感慨を申し上げますと、惑星全体を扱った音楽は一つあればいいですね。隈なく探せば「惑星」をテーマにした曲は沢山あるのかもしれませんが、実際には聴いた事がありません。宇宙が広大過ぎて、出来てくる音楽が意外と類型的になり易いからではないでしょうか。ホルストの「惑星」で「決まり」みたいですね。他の音楽家がそれで慌てないのは音楽それ自体が「宇宙」だからです。まとめたぞ〜! ★その後の惑星事情(その1) ホルスト(1874〜1934)さんが天体に思いを馳せた時は、「冥王星」はまだ知られていなかったのでしょうね。と書いて終えてしまうような音迷人ではありません。作曲時期は1918年にほぼ完成していたようです。完全初演は1920年だそうです。冥王星が発見されたのが1930年です。ということで手抜きをしてはいないと言うことが解りましたね。存命中に「冥王星」を知ったはずですが、海王星であれほど静かに消え入るように終わった後ではもう追加できませんね。 では「地球」は何故書かなかったのでしょうか?答えは何でしょうか?皆様もお考え下さい。 |
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ではオーディオチェックに入りましょう。写真のレヴァイン/シカゴ盤を使います。 ★第1曲:火星〜戦争をもたらすもの これまたベルリオーズで紹介した弓の背(木部)で弦を叩くように弾くコル・レーニョ奏法で始まり、低音打楽器に金管が加わり1:20フォルテでオケが爆発。よく聴く戦争映画などの伴奏の様でもあります。金管の透明度ティンパニーの器の感じなど聴き逃さないで下さい。これから先このフォルテがうるさく聴こえると問題です。音量は大きいですが、うるさくはありません。今さっきTVで少年少女オーケストラの感動的な「人間ドキュメント」をやっていましたが、その中で指揮者の現田さんが、楽譜を掲げて「いろいろな楽器の音が書いてあり音楽を示していますが、楽譜を重ねてしまうと紙の哀しさ下の楽譜の音が見えなくなります。ところが皆で演奏すると全ての音がわかります」と話していました。私は専門家ではないので完全では有りませんが、そういわれる感じが良く解ります。ここのフォルテではいろいろな音が良く聴こえますので、そのような再生が出来ているかチェックしてください。決してきつい音ではないですよ。3:20までトランペットなど戦闘的に吹奏されます。金管の特徴がはっきり捉えられています。4:23まで一転して地を這うような不気味な低音中心の呻きが続きウファーが活躍します。その後初めのコル・レーニョ奏法のリズムに戻りほぼお終いまで吼え続けます。どらの一撃から戦いは終焉を迎えたようです。 |
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★第2曲:金星〜平和をもたらすもの まだくすぶり、硝煙の匂いが残る戦いの現場を、美少女が放心して歩き回り、耳を疑う静かさに平和の到来を感じ心緩やかになっていくような感じの曲ですので、オーディオ的には漂う音を感じるか、チェロ、オーボエの倍音の柔らかさが出ているかを調べてください。 ★第3曲:水星〜翼のある使者 平和の後は希望ですか!軽快なリズムに乗っていろいろな楽器が飛び交い踊るようで屈託無く楽しいです。チェレスタなどが活躍します。1:28フルオケに移ってレンジの広い音響が展開されます。レンジ、ダイナミックいずれも伸び伸びとしています。後は割りと楽器が重ならないので、各々の楽器の個性を確認できますが、如何でしょうか?改造などでレベルアップしたときに使ってください。お〜良くなったぞ!と実感しやすいと思います。 |
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★第4曲:木星〜快楽をもたらすもの 木星:ジュピターで神々のボス。ここでは「統治と太平」をイメージしているのではないかと考えます。Jupiter, The Bringer of Jollity とあります。Jollityを如何訳すかで変わりますが、「快楽」とすると少し退廃的でだらしないですね。「愉快」「陽気」「祭り」などのイメージで訳したほうが正解ではないでしょうか?皆さんご意見を下さい!(しかし人間は欲望の実現で崩れてゆくのですね)弦の刻みに乗せてホルンが式典開始の合図のように吹き上げます。第3曲に似た楽器構成で進みます。タンバリンがそれとわかる分離のよさで、打たれています。この音質はカラオケで?良く聴かれるから比較しやすいと思いますよ。上手く再生出来るとタンマリンません。(-_-;) 2:54〜4:40雰囲気変わって有名な旋律(CMなどでもかなり聴かれます)が弦群にユニゾンで金管(ホルンが活躍)が乗って壮大に奏されます。コントラバスはピチカートではっきり刻んでいますが、その下で低音がさらに支えています。きっとオルガンの足ペダル辺りの音でしょうか?後は前半の再現で同様にチェックしてください。 ★第5曲:土星〜老年をもたらすもの (あまり書きたくないですな。いずれ皆通る道?) 静かに回想的に始まり、2:00から単純なせり上がり音形の繰り返しと変奏は素晴らしいですね。3:33振り絞って進むような然しすばやく動けずゆっくりとなってしまう哀しさをたたえつつ4:30徐々に永遠を誓って立ち上がるように、精神の強靭さを持って踏みしめるように、荒涼とした大地に・・・(「香料」と初め変換するんだもんな!白けちゃうよ。気持ちの読めるワードないかしらん)と言う素晴らしい所でしょう。鐘が鳴らされ何か急き立てられるような或いは最後の宣告の鐘のような響きを醸し出していますか。鐘が止みあたかも天国に着いたような穏やかで美しい様が弦を中心に描かれます。(とうとうここまで書いてしまいました)弱音の美しさ細かい音のニュアンスや妙なる重なりを出せていますか?ここはあなたの感性の勝負どころですよ!(余計なお世話か親心か) |
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★第6曲:天王星〜魔術師 頭からファンファーレが鳴り、チューバが凄み、ティンパニーが強打されるとファゴットの跳ね上がるような音形になってそれが各楽器、オケに引き継がれます。芯があり粒立ちの良い木琴の音が合わされます。全体に躍動感を重視してチェックしてください。2:14からティンパニー、金管などの圧力のある音響が続きます。2:22からのティンパニーは物凄くリアルです。もこもこしたり、ドードーと聴こえる時は問題です。システムが誇張感をつけてはいけません。ソフトだけで凄い録音です。第3曲同様伸び伸びとしています。トロンボーンのブリブリ音が聴き取れますか?4:03突如静寂がやってきます。暫くして断末魔の叫びのようにオケが短くのたうってから漆黒の静寂が全てを飲み込みます。 |
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★第7曲:海王星〜神秘をもたらすもの 1:40ハープが参加するがさほど特徴的ではありません。弱音弦などの漂う感じ、か弱い女声合唱の雰囲気が醸し出されるかでしょう。3:15辺りからオルガンの地を這うような低音が続きます。これは確り出したいですね。でもゴーゴーと出なくピアニッシモです。噂の女声合唱が5:30やっと出てきます。45分待ってたった2分半の参加です。それも舞台裏からですので、なんとも合唱団にとっては辛い仕事です。音楽の残酷?な面ですかね。6:31銅鑼が厳かに宇宙の底を思わせるように鳴らされます。 全てppppで最後はまるでボリュームを徐々に絞ってゆくフェードアウトさながらに終わります。最後の15秒ぐらいはほとんど何も聴こえません。 こうして聴いて来るとホルストさんは我々に愚かさを含め「歴史は巡る」何とかしろよ!と言ってるように思えました。或いは全て「無」になるという恐ろしい警告音楽ですかね。 つづく |
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おまけ:★その後の惑星事情(その2) ◆ところで曲が出来てからもう90年近く経っていますので、宇宙事情もいろいろ変ったかと思います。「冥王星」から外側の新惑星について、地球世俗風組曲「惑星2:ツー」をお届けしましょう。 音迷人作曲ノート ★第8曲:冥王星〜深謀をめぐらすもの 曲は議事堂辺りで演奏されメールが飛び交う弦の高音から始まり、罵声を浴びせる金管が一騒ぎし、最後に誰かがニンマリするファゴットの短い笑音?で終わる。 ★第9曲:学星〜従順をもたらすもの 曲は屈託の無い弦楽合奏で始まる、暫くするとバラバラになった弦に乗せて木管が勝手に吹き始める。ファンファーレが鳴って就職活動の合図が入ると、リクルート色の暗いモノトーンになってゆっくり無表情に進行する。時々合格の鐘が鳴るようだが、いくつかの楽器は焦心にかられたように走り回る。 ★第10曲:個星〜?をもたらすもの 個性と称していろいろな楽器が勝手に演奏するが、どれも心打たず、疑問だけ残して短く終わる。最後にバリトンが呻く「何なんだ!」 ★第11曲:憲法改星〜逆転をもたらすもの *この後のコメントは皆さんで考えて投稿してください。 ★第12曲:燻星〜泥酔をもたらすもの ★第13曲:厚星〜年金をもたらすもの ★第14曲:無反星〜日本を破滅に導くもの ◆さらにあなたの見つけた星を報告してください。 |
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◆G.Wが始まるこの時期になると思い出すことがあります。それはもう6年ほど前の「バスジャック事件」です。5月3日拙宅に音楽好き、オーディオ好きな友数名を招き、ボロシステムを聴いてもらった後の食事の時、テレビに事件が映さていました。この事件はテレビで生中継されたので、皆様もご覧になり記憶にあると思います。おばあさんが一人残念なことになってしまいました。本稿はその後日談なのですが、メルマガ157号トーンアーム製作奮戦記のK.Kさんから教わったニュースでした。それはおばあさんはその日、博多で行われる朝比奈隆指揮大阪フィルでベートーヴェンの「運命」他を聴こうと、佐賀から博多行きバスに乗ったのでした。事件を起こした当時17歳の少年に、元教師でありすさぶ世相に警鐘を鳴らしていたおばあさんは、恐らくひるむ事なくお母さんの気持ちで諭したのでしょう。が、それも通じず残念ながら惨い結果となってしまったのです。この話を聞かれた朝比奈氏は当日の演奏会の録音CD発売を企画していたオクタビアの方(当然録音ボスの江崎氏と思います)におばあさんの葬儀に「運命」の録音カセットを届けさせ、葬儀会場に流して亡きおばあさんに聴いてもらったそうです。おばあさんの無念さや、朝比奈さん方の配慮を思うと泣けてきます。この話を後日関係者の方に確認しましたら本当でして、「おばあさんの勇気にせめてもの手向けになれば・・」と仰っていました。 残念なことに同様な事件は後を絶ちません。世界中、目先の効率、合理だけを追っかけたからでしょうか。「誰かが良くしてくれるだろう」ではダメですね。私たち一人ひとりが考えて小さいことからでも始めねばなりません。 |
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事件を離れてこの運命のCDをご紹介をしましょう。EXTON OVCL-00021:リハーサルと本番が1枚に入っておりそれが2箇所の公演で約4つの「運命」が2CDと成っているシリーズ物です。演奏は無骨なまでにドイツ的で全く動じることの無い確りとした骨格を持っています。最近のヨーロッパの演奏でも希薄になって来ました。これは朝比奈さんの長い間西洋音楽に捧げた魂が得た「音楽」に違いありません。録音も素晴らしい出来で、よくフォルテで感じる飽和感がありません。ボリュームをホール並みに上げて聴くと、興奮し汗が出ますよ。経験ではLPの追従を許しません。残念なのはリハーサル録音で、指揮者のお声が小さく不明朗なのです。クローズアップマイクをコソッと設置してもらいたかったです。ただしこれがオーディオチェックに使えるのです。周波数的なことではなく、明朗度のチェックです。このCDを聴くようになってからチューン(そのつもり)が上手く行った時に指揮者の話している言葉が聴きやすくなるのです。きっと過渡特性や位相、レベリングの問題でしょう。「○--×--▲ないで」⇒「そんなに遅くなんないで」と聴こえてきました。 それとホールの違い、聴衆の在、不在も解ります。ホールはザ・シンフォニーホールのほうががバランスが良くゆったり感があります。当然不在の方が残響が僅かに長く、明るく理想的です。このCDでも江崎トーンと言うべき金管の美しいハイトーンが聴かれます。 |
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◆不思議タイミングが続いておりますが今回も起こりました。「惑星」をお届けするに当たり、惑星から地動説を連想しガリレオ関係で表紙を作ろうと、資料を物色してガリレオ肖像と望遠鏡を見つけました。 脇に抱えて茶の間に来るとTV番組予告でガリレオが出てきました。こうも続くとまたまたビックリ!これだけ続けば、それ来たニヤリ! 今度は放送まで時間があり、悠々とデジカメを出して待ち構えました。 ガリレオの話などTVで取り上げるのは稀ですよね。そう思いませんか? ★TVは教えてくれました。 ガリレオさんは1992年ヨハネ・パウロ2世により、ガリレオ裁判から359年後に謝罪され宗教上名誉回復されました。 ★彼は「書き留めよ!議論したことは、風の中に吹き飛ばしてはいけない」と・・実に含蓄ある言葉ではないですか!我々は幾多のシーンで言葉の遊びをしてきました。たくさんの知恵が確かに風に飛んでゆきました。桜の花びらもビックリですね! ですからメルマガを読んでの皆さんのご意見等を、メールに書き留めてハイファイ堂に投稿してくれませんか? ★番組名「プラネット・アース」が始まります。「惑星」に地球が無いと書いていたらNHK−TVが補足してくれます。どうだ! |
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◆◆5/5夜追記:ブラウン博士により75年ぶりに第十新惑星が発見されていました。衛星もあるようです。そして従来の惑星の軌道面はほぼ同一面ですが、それに45度くらい傾いているようです。今NHK-TVが教えてくれました。この惑星の名前は伝えられなかったのですが、今週のメルマガの音迷人作、地球世俗風組曲「惑星2:ツー」で「学星」に相当します。名付け親と認めてくれませんか? |