3月に入り急に春めいてきた東京丸の内界隈。 皆様、いかがお過ごしでしょうか。 ハイファイ堂 丸の内店 廣川勝正です。 さて、今回は「トーンアームについて考える」第2弾といたしまして、インサイドフォースについて語りたいと思います。 さて、そもそもインサイドフォースって何?という話です。 下の図はファイルウェブコミュニティの日記、「インサイドフォースの発生メカニズム」より引用させていただきました。 http://community.phileweb.com/mypage/entry/3969/20161009/53114/ |
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上の図からお解りの通り、インサイドフォースとは、カートリッジがレコードの内周方向に引っ張られる力の事を言います。 インサイドフォースの値は、アームのオフセット角と針の摩擦力によって決まると言われています。 では、一体どれほどの力でカートリッジは内側に引っ張られているのでしょうか。 一般的には、カートリッジに掛ける針圧の分だけ摩擦力が発生するので、その分の力で内側に引っ張られていると言われています。 実際には、針先の形状(丸針、楕円針など)、レコードの溝の状態(ピアニシモ時の溝、フォルテシモ時の溝、レコードの汚れ具合など)で摩擦力は変わってきます。 ということはインサイドフォース値も、微妙ではありますが、常に一定ではないという事が言えます。 |
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さて、トーンアーム部には、そのインサイドフォースを打ち消す機構を備えているものもありますので、例を2つ紹介したいと思います。 左上の写真はYAMAHA GT-750のアーム根元付近にあるインサイドフォースキャンセラーの重りです。この重りは、アームの根元から伸びているメモリの付いた棒と糸により滑車を経て繋がっています。糸を棒に引っ掛ける位置によって、重りが外側に引っ張る力を調整できる様になっています。 また、右上のSONY PS-X600の写真のアンチスケーティングのダイヤルも、目盛りによって外側に引っ張る力を調整できます。 いずれもインサイドフォースをキャンセルさせる(打ち消す)作用があるものです。 |
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先に、インサイドフォースは常に一定ではないと述べましたが、針圧分より若干少ないくらいはキャンセラーやアンチフォースでかけておいたほうが良いと思います。 長期にわたりキャンセラーなどかけずにレコード演奏した場合、針先は溝をトレースしているが、本体は内側へ引っ張られる為に、カンチレバーが右に寄ってしまいます。 右の写真は、その極端な例です。 逆に、外側に引っ張る力が強すぎると、逆方向にカンチレバーが寄ってしまいます。実際にはそういうカートリッジの方をよく見かけます。 トーンアームによっては、カートリッジの針圧に合わせて指定された値分キャンセラーやアンチフォースをかけると、外側に引っ張る力が強すぎる場合があります。設定値通りかけていても、針をレコードに下ろす時に、外側に大きくずれながら下りる様ならかけすぎの場合があります。ですので針圧分より若干少ないくらい(例えば針圧1.5gなら1g程度)で様子を見たほうが良いと思います。 |
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さて、過去にインサイドフォースと無縁のトーンアームが存在しましたので、ここで紹介したいと思います。 それは上の写真のYAMAHA YSA-2です。 このアームは1985年に同社GTシリーズのレコードプレーヤー用に限定販売されたもので、当時の定価は60,000円でした。 |
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上の写真からもお分かりの通り、カートリッジの針やカンチレバーが中心線と一直線上となるピュアストレート構造のトーンアームです。 この様に角度をつけずに一直線上にカートリッジが取り付けられている場合、オフセット角がゼロの為、インサイドフォースが発生しません。 ですので、左の写真の様にインサイドフォースに関する構造物がないので、その分シンプルな造りとなっています。 ちなみにこのYSA-2、ハイファイ堂では単体販売の過去歴が6回のみで、直近では2015年12月までさかのぼらないと販売歴がないほどの人気激レアトーンアームです(当時の販売価格は120,000円でした)。お探しの方はハイファイ堂各店にお問い合わせください。ただし、気長に待つ覚悟が必要かも、です。 |
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レコード針が付いているカンチレバーは、レコード演奏時に、回転するレコード盤との間の摩擦力により前方に引っ張られて伸びようとします。この力によって、オフセット角を持ったトーンアームに取り付けられたカートリッジのカンチレバーは上から見て反時計方向に回ろうとするので、カンチレバーの根本は内周に寄ることになります。改めて言いますと、いわゆるこれが、インサイドフォースと呼ばれているものです。 この力により、音楽の大小によってレコード針は前後すると同時に、カートリッジのボディーも左右に動くので、これによって音の時間軸が変動すると言われています。特にフォルテシモなど大きな音楽信号が刻まれている部分では、より摩擦力も大きくなり、その傾向が顕著になり、インサイドフォースは特に低域の再現性に悪い影響を及ぼすと言われています(実際に同じカートリッジで、YSA-2などのピュアストレートアームで比較試聴をした事がないので、音にどれだけの違いがあるか私は分かりませんが)。 さて、2018年2月16日号メールマガジンに掲載した前回の私の原稿の最後で、「昨年のオーディオショウにてヤマハが参考出品したレコードプレーヤーにあえてピュアストレートアームが採用されていたのはなぜか」という疑問を記しました。前述のように、ピュアストレートアームならインサイドフォースの影響は受けません。しかし、このアームの構造ではまたトラッキングエラーの問題に立ち返ってしまいます。 YSA-2では、オーバーハングをマイナス20mm(アンダーハング20mmとも言います)としました。これによりピュアストレートアームの弱点となる「トラッキングエラー」の影響を最小限に抑えることができるようになり、「インサイドフォース」の影響をほとんど排除できるというピュアストレートアームの長所を最大限に生かすことができました。つまり、ヤマハのエンジニアの方たちは、「トラッキングエラー」よりも「インサイドフォース」による音質劣化の影響を重要視していたのでしょう。昨年のオーディオショウの参考出品には、YSA-2開発で得たノウハウに裏打ちされたこの考えが強く反映したのではないかと感じた次第です。 ハイファイ堂メールマガジン第733号「トーンアームについて考える」 http://www.hifido.co.jp/merumaga/marunouchi/180216/index.html |
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ピュアストレートアーム以外に、インサイドフォースの問題が全く発生しないものの代表例として、リニアトラッキングアームがあります。 そのアームを搭載したレコードプレーヤーを、4機種ご紹介したいと思います。 |
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まず最初に紹介するのは、1979年12月発売、約38年前!に登場した、ジャケットサイズフルオートレコードプレーヤー Technics SL-10です。 幅、奥行き共に315mmと、正にLPジャケットサイズに詰め込まれたテクノロジーの数々に、現在でも驚かされます。 このレコードプレーヤーのリニアトラッキングアームは、なんと上蓋に搭載され、上記サイズに収める為に考えられた最良のトーンアームだと思います。 このレコードプレーヤーの音の良さについては2017年8月4日号のメールマガジンにて詳しく述べていますので、下記URLにて参照してください。 今思えば、インサイドフォースから解放されている事が音の良さに関係しているのかもしれません。 |
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ハイファイ堂メールマガジン第705号「驚くほどの音の良さ」 http://www.hifido.co.jp/merumaga/marunouchi/170804/index.html |
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続いて紹介するのは、1981年にSL-10の弟機として登場したジャケットサイズフルオートレコードプレーヤー Technics SL-7です。 このSL-7は、SL-10のコクーンボディ構造ではなくなった事(蓋が通常のダストカバー形状になっています)、それと搭載カートリッジがMC型からMM型に変更された事、SL-10に内蔵されていたMCヘッドアンプがなくなった事でコストダウンを図ったモデルです。 ですので、基本となるリニアトラッキングアームやモーターなどSL-10と同等のものが搭載されており、音の良さは、しっかりと継承されているお買い得モデルです。 現在、ハイファイ堂各店で在庫しておりますので、ぜひご自身で操作して、合わせて試聴してみてください。 2年の保障付きで49,800円という販売価格が信じられないほどの、音のクオリティを体感できると思います。 |
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次に紹介するのは1978年発売のYAMAHA PX-1です。 このモデルの特徴は、一言で言うと、惜しげも無く投入された物量にあると思います。 まず、モーターには信頼性が高い20極15ワインディングスロットレスDCモーターを採用。さらにターンテーブルは超ジュラルミンを無垢からの削り出しで5.6kgの重量級のもの。 さらに搭載されたリニアトラッキングアームはダイナミックバランス構造で、さらに高精度の非接触光電式アーム角度検出機構搭載と当時の ヤマハの技術力の粋を結集したレコードプレーヤーです。 当時の定価は48万円で、直近では2015年6月21日に、ハイファイ堂にて380,000円にて売約となりました。中古でも上記価格は破格と思わせる性能と音を併せ持った高性能レコードプレーヤーでした。 |
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最後に紹介するのは、1980年発売のリニアトラッキングレコードプレーヤー PIONEER PL-L1です。 このレコードプレーヤーの最大の特徴は、電気エネルギーによる磁気反発力をそのまま直進運動にかえることができるリニアD.D.アームを搭載している事です。 いわゆるリニアモーターカーの原理と同じ様な考え方の構造となっており、アーム偏移検出角度0.2度の微小角で、レコードの溝に対して高精度にアームを追従させてくれます。 アーム部分もアルミ合金製のダイナミックバランス型アームを採用。 ビシッと安定した音像定位と高い情報量を聴かせてくれる高性能レコードプレーヤーでした。 ハイファイ堂では、直近で2018年の2月10日に248,000円で売約となりました。 発売当時の定価を上回る中古販売価格となっていますが、それでも十分なコストパフォーマンスを誇るレコードプレーヤーだと思います。 |
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最後までご覧いただきましてありがとうございます。 今回は、インサイドフォースについてのお話と、ピュアストレートアーム、リニアトラッキングアーム搭載レコードプレーヤーの紹介をさせていただきました。 インサイドフォースについては、掘り下げると物理の原理や計算式にまで及んでしまいますので、私がお伝えしたいと思った事をかいつまんでお伝えしました。 今後、機会があれば、インサイドフォースの変化による音の違いなどのレポートをしたいと考えております。 では、また次回。 |